第41話 勇者の罪状
ユウナギ達はルクナの街を出ると、
TVの情報番組で知る事になった「ディープ・フォレスト」へと向かった。
その道中ユウナギとシャルンの2人は、
昨日下水道で話の一部始終を聞いた例の2人組み・・・。
『レディー・テンバイヤー』なる悪党共の姿を探しながら移動して行った。
「なぁ~、ユウナギ~?」
「な、何だよ・・・?」
シャルンがおもむろに声を掛けると、
ユウナギは驚き身体が「ビクン」と跳ね上がった。
そんな様子にシャルンは「クスッ」と笑うと、
ユウナギの肩を軽く叩きながら悪戯っ子のように話しかけていった。
「な~に、ビクついてんのよ~?」
「ビ、ビクついてって・・・。
そ、そんな事ねーしっ!
つーか、ビクつく事なんて全然ねーしっ!」
ニヤりと笑みを浮かべるシャルンに、ユウナギは顏を赤らめながらそっぽ向いた。
まるで子供のように不貞腐れるユウナギに、
シャルンは優しい笑みを浮かべると、子供を諭すように口を開いていった。
「・・・心配しなくていいわよ?」
「な、何がだよ・・・」
「あんたの事・・・。
つまりあんたがあの・・・勇者だって事・・・。
誰にも話さないから安心して・・・?」
「・・・シャルン、おめー・・・」
思わぬシャルンの言葉に、ユウナギは驚きながらシャルンを見ると、
周りを警戒しながらも、誰にも話さないと言う理由を口にしていった。
「とりあえず私が今まで見たり聞いたりした事を話していくわね?」
「お、おう・・・頼む」
「・・・勇者・リョウヘイ・アサノ・・・。
英雄たる人物とは思えないほどの傍若無人・・・。
人を迫害し商人達から金を巻き上げ、
挙句に・・・。
貴族を数名殺害し、その罪を勇者の騎士団の団員に擦り付けたとか・・・?
そしてそれが公になり、世界へ指名手配・・・」
「・・・・・」
「と、まぁ~・・・噂は色々と聞くけどさ~?
私はそれが真実じゃないと思っているわ」
「・・・どうしてそう思うんだよ?」
渋い顔をしながらシャルンにそう疑問を投げかけると、
シャルンは笑みを浮かべながらこう答えていった。
「どうしてって・・・そりゃ~そんな噂なんて信じる訳ないでしょ?」
「・・・噂だから・・・って、理由か?」
「そうね?
まぁ~確かに噂であって、信憑性は薄いけど、
私はそんな事で、その噂を信じたんじゃないわ」
「・・・そう・・・なのか?」
「えぇ♪だってその罪状とかってさ~・・・?
見たり聞いたりする度に、その内容が変わっているからね~?」
「・・・変わっている?俺の罪状がか?」
「えぇ・・・。
おかしくない?
どうして罪状が追加されていくのよ~?」
「それは~・・・あ、あれだろ?
後から調べたらドンドン出て来た・・・とか?
罪状が増えるってのはつまりそう言う事じゃねーのか?」
「・・・あははは」
深刻な表情を浮かべるユウナギに、シャルンはそう笑って見せたのだった。
そんなシャルンに訝しい顔を見せるユウナギだったが、
シャルンはそんなユウナギに構う事無くその理由を話していった・・・。
「実は私が王都に行った時にさ~・・・。
偶然聞いちゃったのよね~?」
「・・・聞いたって、何を?」
「とある騎士団の本部に仕事で行った時にさ?
そこのお偉いさんが隠す素振りも見せずこんな事を言ってたのよ」
「・・・?」
「今日はどんな罪状を追加してやろうか~・・・ってね?」
「はぁぁぁぁぁっ!?まじでかっ!?
まじでそんな事言ってたのかっ!?」
声を荒げたユウナギは、シャルンの胸倉を掴むと、
烈火の如く怒りを爆発させたのだった。
「い、一体どこの糞騎士団の野郎なんだよっ!?
シャルンっ!とっとと話しやがれっ!」
「ユ、ユウナ・・・ギ・・・く、くる・・・し・・・い・・・」
怒りの形相でシャルンを締め上げると、
そのシャルンの足が地面から離れ呼吸が途切れ始めた。
するとその様子を見ていたアスティナが慌てて腰に差している剣を鞘事引き抜くと、
勢いよくユウナギの頭部へと振り下ろした。
「ガツンッ!」
「ぐはっ!うぅぅぅぅ・・・い、痛てーなっ!こんちくしょうめっ!
ア、アスティナーっ!?て、てめー・・・一体何しやがんだよっ!?」
突然ユウナギの頭部に何か硬いモノが直撃すると、
シャルンを締め上げていたその手が離れ地面に落ち、
「ゴホッ!ゴホッ!」と激しく咳き込んでいた。
「あんたねーっ!別にシャルンが悪い訳じゃないでしょっ!?
何をとち狂って色々と説明してくれたシャルンに八ツ当たってんのよっ!?」
「・・・あっ」
アスティナの怒声によって我に返ったユウナギは、
慌ててしゃがみ込み、シャルンに謝罪をしたのだった。
ユウナギの心からの謝罪を受け取ったシャルンは、
ジト目を向けながらも話の続きをする事にしたのだが・・・。
「別に話すのはいいけどさ~?
あんた・・・すぐに乗り込んだりしないわよね?」
「・・・えっ!?」
「だってさ~?
私がちょっと話をしたくらいで、あんなにブチギレるのよ?
私がその騎士団の名を口にした途端・・・。
あんたが我を忘れて乗り込んで行く様が、容易に想像できるんだけど?」
「・・・えっと~」
ユウナギはシャルンの言葉に図星を突かれたのか、
あさっての方向へと顔を背け、顔を引きつらせていた。
「・・・ほらね?」
「・・・くっ」
「あんたの様子を見て、話さなくて良かったと確信したわ♪」
溜息混じりでそう話すシャルンに、
アスティナが満面の笑みを浮かべながら話しかけて来た。
「ねぇ~♪シャルン♪」
「・・・な、何?突然・・・どうしたのよ?」
「ふふ~ん♪
その~騎士団の名って~♪
私には教えてくれるのよね~?」
「・・・えっ?」
満面の笑みを浮かべ、猫撫で声で話しかけて来るアスティナに、
シャルンはとても悪い予感しかしなかった。
「・・・アスティナはユウナギの仲間でしょ?
ど、どうして私が貴女に話すと思うのよ?」
「いや~♪だって~♪私達~♪女同士だしぃ~♪
それに~♪仲間と言っても~♪それは仕事仲間ってだけだしぃ~♪
だから~♪いいでしょ~?」
まるで猫のように擦り寄るアスティナに、
シャルンは「ゾワ~」っと、全身に寒気が走ると思わず視線を外した。
すると視線を外した方に居たエマリアが、
「うんうんっ!」と物凄ーーく力強く頷いていたのだった。
「・・・ダ、ダメだっ!ぜっっったいにダーメーっ!」
「えぇ~・・・どうしてぇ~?」
「その理由は簡単よ?」
「・・・ん?」
「アスティナ・・・。まず終始閉じられているその目を開いて見せてくれる?」
「・・・目?」
満面の笑みを浮かべ猫撫で声で擦り寄るアスティナだったが、
その閉じられた瞼が小刻みにピクピクと動いていたのだった。
それに気付いたシャルンがそう言うと、
アスティナは「いいわ」と答え、閉じられた目が開いていった。
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
何の反応も示さない事に首を可愛く傾げたアスティナは、
「・・・どうして黙ってるの~?」と、
再び猫撫で声で話すのだが・・・。
「・・・こわっ!」
「・・・へっ!?」
シャルンから返って来た言葉に思わずそんな声を漏らしたのだった。
意味がわからないとばかりにアスティナはユウナギを見ると、
返って来た言葉がこれだった・・・。
「・・・お、お前、ある意味すげーな?」
「・・・す、すげー?
・・・す、すげーって・・・な、何がよ?」
「あ、あぁ・・・。
アスティナ・・・、
今、お前の目の中で真っ赤な炎が猛ってんぜ?
初めて見たわ~・・・リアルで目の中で炎が燃えてるヤツっ!
そんでもって・・・ヒクわぁ~・・・」
ユウナギ他、皆が同じような表情を浮かべている事に気付いたアスティナは、
顔を更に引きつらせたうえ、大量の汗がボトボトと落ちて行くのだった。
「あは・・・あははは・・・。そ、そんな事、ある訳な、ないじゃない♪
も、もうユウナギったら~♪お、おバカさんなんだから~♪
そんな事だから最近、加齢臭とか出ちゃうのよ~♪」
「か、加齢臭っ!?こ、この俺がっ!?
こ、この・・・年齢でっ!?
俺、まだ28歳なんだけどっ!?
まじでかっ!?まじでかぁぁぁぁぁっ!」
アスティナの発言で、あからさまに動揺するユウナギに、
いつの間にか背後に居たエマリアがボソッと耳打ちをした。
「・・・嘘ですよ?」
「・・・う、嘘?」
「えぇ・・・」
「まじ・・・で?」
「・・・はい、まじで」
「・・・ほ、ほんとだな?本当に嘘なんだな?
神・・・。いや、ヴァマントに誓える?」
「ヴァ、ヴァマント様にですかっ!?
も、勿論ですよっ!」
ユウナギの問いにそう答えたエマリアだったが、
何を思ったのか、突然顔を赤らめながらブツブツと独り言のように呟き始めた。
「そ、それにですね?
も、もし・・・万が一・・・ユウナギ様に・・・そ、その~・・・
か、かかか加齢臭が・・・に、匂ったとしても・・・ですね?
わ、私の・・・私のこの・・・あ、愛情は決して・・・
決してっ!そんなものでは消えませんっ!って・・・」
どさくさに紛れユウナギに対し、内なる想いを口にしたエマリアだったが、
現実とはあまりにも『無情であり、非常』なのだ。
「シャルンよ~・・・もう怒らないからいい加減話してくれよ~?」
一世一代・・・?と、ばかりに想いを打ち明けたエマリアだったが、
ユウナギは既にシャルンと話しており、その秘めた・・・?想いは届かなかった。
「き、聞いて・・・ないっ!?
そ、そんなぁぁぁ・・・ユウナギ様ぁぁぁっ!」
「がぁぁぁくっ!」と、白目を剝きながら膝から崩れ落ちたエマリアは、
口から魂が出て行きそうなほど・・・轟沈したのだった。
突然ユウナギの背後で崩れ落ちたエマリアを見たシャルンは焦ったのだが、
ユウナギとアスティナからは驚く素振りすら見せなかったのだ。
「・・・エ、エマリアっ!?い、一体何があったのよっ!?
し、白目まで剥いてっ!?」
「ん?何だ~?エマリアの魂・・・おでかけか~?
仕事があるんだから、あまり遅くなるなよ~?」
「出かけるならついでに、周辺の探索宜しくね~♪」
そんな2人にシャルンは慌てた様子を見せたのだが、
この2人は慣れでもしているのだろうか?
対応が辛辣だったのだ。
「ちょ、ちょっと2人ともっ!?
エマリアがヤバくないっ!?精気が抜けちゃってるぅぅぅっ!?」
「ん?あぁ~いいって、いいって・・・。
いつもの事だからよ・・・」
「い、いいってっ!?
いやいやいやいやいやっ!?放って置いていい訳ないでしょっ!?
どう見てもコレってヤバいでしょっ!?
ってぇぇぇっ!?た、魂が飛んで行っちゃったじゃないのよぉぉっ!?
ど、どうすんのよっ!ユウナギーっ!」
エマリアの魂がフワッと口から飛び立ち、
状況が全く飲み込めないシャルンがそう言おうとも、
ユウナギ達は平然としていた。
「まじでっ!あの子の魂っ!一体どうすんのよおっ!?」
そう声を荒げながらシャルンはエマリアに駆け寄るのだが、
今度はアスティナが平然とした口調で口を開いた。
「あぁ~・・・えっと、シャルン?
私にも詳しい事はわかんないんだけどさ~?
その見た目恥ずかしい感じの白目を剥く姿とかさ~
気絶とか魂が飛び出したりするのって、
エマリアの~・・・なんて言うんだろ?
隠されたスキルって言うか~・・・十八番(おはこ)的な?
だから別に心配するような事じゃないのよ♪」
「・・・こ、こんな恥ずかしい姿が・・・十八番っ!?」
「まぁ~そのなんだ~?
原理だとかそんなのはわかんねーけどよ?
魂が身体から抜け出ても、必ず3分くらいで戻ってくんだよ。
お前はインスタント・ラーメンかっ!って、
最初の頃はよく突っ込んでたもんだよ。
いや~・・・あの頃が懐かしいな~♪」
「イ、インスタ・・・ント?」
ユウナギはそう言いながら空を見上げ遠い目をしていたのだが、
そう話を聞いたところでシャルンにとってはこれが初見である・・・。
驚かずにはいられないのだ。
「そ、そうなのっ!?そ、そんな特技?・・・いや、スキル?
ま、まぁ~別にどっちでもいいけどっ!
こんは恥ずかしい十八番なんて聞いた事もないわよっ!?」
「ス、スキルって・・・
別にスキルだろうが特技だろうが別にどうでもいいけどよ?
もし俺にそんなスキルがあったとしたら・・・
お、御婿さんにいけないっ!!って、なるけどな~?
ま、まぁ~兎に角だな?全然何の問題もねーんだよ。
あぁ~・・・なんつーか、俺的にはアレだ・・・。
一種の場を和ませる・・・的な?
そんな一発芸・・・的な?そんな印象しかねーな・・・わっはっはっ!」
「わっはっはっ・・・って、あんた・・・」
そんなどうでもいいような考えを話し始めたユウナギに溜息を吐くと、
「的な?で、お前は済ませるのか?」と、真顔で言われてしまった。
それから暫くして・・・。
いや、ユウナギが言ったように3分ほどの時間が経つと、
突然エマリアの目が開き、精気が目に宿るとスクッと立ち上がった。
「ふぅ~・・・ユウナギ様、エマリア只今戻りました」
「・・・ほらな?
おかえり~ご苦労さん♪」
そんな軽々しく話すユウナギに続いてアスティナが・・・。
「で?周辺はどうだった?」と、そんな事を言い始めた。
「・・・はい、周辺には異常ないようです」
「そっか~・・・。さんきゅ~ね♪」
と、普通に会話していったのだった。
「な、何で普通に会話が出来るのよ?
ふぅ~・・・
全く・・・あんた達はめちゃくちゃね?」
そんな言葉がシャルンから漏れて来たのだが、
その言葉を拾う事無くユウナギは「行こうぜ」と声を掛けると、
茫然とするシャルンを置いて移動し始めたのだった。
「・・・あ、あれ?わ、私が・・・お、おかしい・・・の?
な、何で?どうして?
り、倫理観とかそういうのって・・・ふ、普通あるでしょっ!?
えっ!?わ、私が間違ってるのっ!?
ユウナギィーっ!答えてよぉぉぉぉっ!」
そんな言葉が虚しく響いていたのだった。
それから暫く歩いて行くと・・・。
「ふう~・・・ここが例のなんちゃらかんちゃらか~
なるほどね~♪」
適当に言葉を吐いたユウナギにアスティナ溜息を漏らすと・・・。
「適当かっ!?」と、普通に突っ込まれたのだった。
到着までそれなりの時間がかかってしまったユウナギ一行・・・。
実はルクナの街からおよそ30分の道のりなのだが、
あーだこーだと言いながら歩いていた為、3時間も要してしまったのだった。
・・・かかり過ぎでしょ?バカなの?と、
そう思ったのは私・・・。
25歳・独身・恋人募集中の香坂 三津葉でした♪
それでは次回、やる気のない暗殺者は、元・勇者は・・・。
『ディープ・フォレスト』(仮)で、お会い致しましょう♪
・・・知らんけど♪
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