第38話 プリント型擬体・後編
怒りが頂点に達し、ユウナギが今にもヤツらにとびかかろうとした時だった・・・。
突然ヤツらがあらぬ方に顔を向けながら話し始めた。
(・・・念話・・・か?)
「あらあら一体どうしたのですか~?ルーズベルト様・・・」
(ルーズベルトってさっき話に出てたヤツか?)
ユウナギとシャルンはその話に重要性を感じると、
お互いに顔を見合わせ軽く頷き聞き耳を立てていった。
「ん?作戦の進行具合ですか~?
ぐふふふ♪そりゃ~もうバッチリテッチリよ~ん♪
それに僕ちゃんの試作したプリント型擬体もノープロブレム♪
この擬体さえあれば~騎士や傭兵・・・
それに貴族連中共に化けたりなんかしちゃったりして~♪
武器の横流しから宝石の類まで、どんなモノでも横流し出來るわよん♪」
クレベールと言う男の話に、ユウナギ達は驚きの表情を浮かべ、
視線をプリント型擬体へと向けた。
(ちょ、ちょっとユウナギっ!?)
(なっ、何だよ?)
(プリント型擬体って・・・た、多分アレの事よね?)
シャルンはやや興奮気味に話しながら、
その例の擬体と思われるモノに指を差していた。
(あ、あぁ・・・多分アレがそうなんだろうけど・・・)
2人が念話でそんな事を話している中、その後「うん、うん、そうね~」っと、
相槌を打っていたクレベールが再び口を開いていった。
「えぇ・・・。今の所この擬体は1体しかないのだけれど、
例のニュースになっていた魔獣・・・。
そうそう、その・・・「冥界の
それを捕獲して、毛皮さえ手に入れる事が出来れば、
僕ちゃんのこの試作品である「プリント型擬体」は完成出来ちゃうのよん♪」
それから暫くの間、クレベールとルーズベルトはどうでもいい話を終えると、
念話を切ったのか、脱ぎ捨てたモコモコの薄っぺらい擬体を手に取り、
中央にある大きなテーブルの上に広げた。
ユウナギとシャルンは無言のまま黙って様子を伺っていると、
ベンソンと呼ばれていた男が「まな板」くらいの大きさに加工された、
薄く大きな魔石を鞄から取り出しソレをクレベールに渡しながら口を開いていった。
「なぁ、クレベールはん?」
「・・・ん?ベンソン・・・急に改まっちゃってどうしたのよ?」
そう聞かれたベンソンはやや困惑気味な表情を見せると、
申し訳なさげに小さな魔石を取り出しながら謝罪をし始めたのだった。
「クレベールはん・・・ほんまにすまんかった」
「な、何っ!?い、一体急にどうしちゃったのっ!?」
「ワ、ワイな・・・?
クレベールはんがご所望やった、例の冒険者を見つける事が出来んかったんや。
せやから例の冒険者の姿を撮影する事が出来ひんかったんや・・・」
「あらら・・・それは残念ね~?
今、
簡単にあの森へ入る事が出来て楽だと思ったんだけど~・・・
まぁ~でも・・・居なかったのなら仕方がないじゃない?」
「せ、せやけど撮影出来ひんかったんわ、ワイのせいやっ!
せやからワイな?
代わりに森を監視しとる衛兵の偉いさんを撮影してきたんやっ♪」
「ほうほうっ!なるほどね~?
魔獣騒ぎで今、あの森は封鎖されているから、
そこの関係者で偉い人なら・・・顔パスで浸入出来るって訳ね~?」
「せやっ!」
「ベンソン君~♪流石だね~?
まぁ~例の冒険者が居なかったんだから正直・・・
これからどうしよう~?とか思っちゃったけどね~♪
でも、ベンソンの頑張りのおかげで、こうしてチャンスが巡ってきたわ♪
僕ちゃんはいい幼馴染を持ったよ♪
ありがとう我が友・・・ベンソン君♪」
「ほんまでっか?ほ、ほんまに・・・ぐすん。
ワイが役立たずやさかい・・・
クレベールはんには、ほんまに迷惑かけてしもうて・・・すまんの~?」
「ベンソン・・・。
僕ちゃん達って幼馴染でしょ~?
そんな仲間に謝る必要なんてないのよ?
今まで僕ちゃん達3人が手に手を取り合って、今まで頑張って来たじゃない?
だからそんな事は言いっこなしよん♪」
「クレベールはん・・・ワイ・・・ワイ・・・」
ベンソンはクレベールの心温かいその言葉に胸を熱くし、
涙ぐみながら2人は握手を交わしていたのだった。
そんな話にシャルンは(・・・持つべきモノは幼馴染よね♪)と、
何をどう勘違いしたのか、ヤツらに釣られ涙ぐんでいた。
(・・・今の話って感動する話か?)
素直な気持ちでユウナギがそう呟くと、
「キッ!」とシャルンに睨まれたのだった・・・。
(えぇぇぇっ!?に、睨まれるような事なのかよ~?)
そう再び呟いたところで更にキツめで再び睨まれたのだった。
2人がそんなやり取りをしていると・・・。
「では親愛なる我が友ベンソン君・・・」
「はいなっ!」
「・・・実験を始めよう♪」
「実験・・・」無駄にいい声でそう言ったクレベールのその言葉に、
ユウナギの興味が湧くと、睨みを利かせているシャルンを無視し、
その実験とやらに注目していった。
「はいはい♪では早速始めるわよん♪」
「はいな♪」
「では~改めてこの「プリント型擬体」について説明していくわよん♪」
「待ってましたっ!ワイら「レディ・テンバイヤー」の頭脳クレベールはんっ!
よっ!かっこええですな~♪この色男♪」
「ぐふふふふ・・・ぶわっはっはっはっ!
ベンソン君~♪流石に僕ちゃんの事誉め過ぎよ~ん♪
あぁ~・・・でも・・・。怪盗団の頭脳?色男・・・?
も、もぅーっ!ベンソン君ったら~♪
い、いくら何でも誉め過ぎだから♪」
「はっはっはっ!何を言うてますのんや~?
そんなんワイ・・・ほんまの事しか言うとりませんよってに~♪」
「「プププゥ~♪わっはっはっはっ!」」
この時ユウナギ達はこう思っていた・・・。
(い、痛い・・・れ、連中・・・ね?)
(・・・なんだろ?平和・・・だな?)
妙な脱力感がある中、クレベールとベンソンのやり取りは進んで行く。
「さてっとベンソン君・・・本題に戻ろうか?」
「ハイでおまっ!」
「まずこの擬体のメインの素材について、前に説明したけど覚えているかしら?」
「え、えぇ~と~・・・た、確か・・・。
熱帯雨林に生息しとる・・・「ナ、ナウマン・ポメラニアン」とか言う、
希少生物・・・やったかいな?」
(・・・ナ、ナウマン・・・ポメラニアンっ!?なんじゃそりゃっ!?
ナウマンとくればそこは普通象さんでしょうがっ!
それにその名からして、大きいのか小さいのか全然想像出来ねーんだけどっ!?
い、居るのかっ!?まじでそんな動物がいるのかっ!?
逆に見てみたいんだけどっ!?)
顏を盛大に引きつらせたユウナギの疑問を他所に、
仲良し2人組の会話は続いていくのだった・・・。
ベンソンの答えにクレベールは少し首を捻ると、
まるで腹話術でもしているかのように、小声でブツブツと何か言い始めていた。
「・・・ソレの~・・・?し、親戚の~・・・?」
その声で何かに気付いたベンソンは、
クレベールの口元を凝視しながら口を開いていった。
「し、親戚の~・・・?
え、えぇ~っと、な、なんやった~・・・か、かいな~?
あっ!?せ、せやっ!ハイっ!ハイハイハイハーイっ!」
「うむ・・・。わかったようだね?
うむうむっ!ハイっ!ベンソン君っ!」
「はいっ!ナウマン・ポメラニアンの親戚の姉の叔父さんの隠し子の・・・
確か~・・・せ、せやっ!名は・・・っ!
「ヒノノニ
(ドヤじゃねーよっ!!てめーらまじでぶっ飛ばすぞっ!?
つーかっ!そのヒノノ・・・って、トラックの事だろうがよっ!?
こっちの世界に来てその名を聞くとは思わなかったっつーのっ!
そ、それに俺ってば結構長くこの世界に居るけどよ~?
ナ、ナウマンなんちゃらとかって、今まで見た事も聞いた事もねーぞっ!?)
ユウナギがそう突っ込みを入れながら、(俺の気持ちわかるよな?)と、
シャルンにそう問い掛けると、真顔のシャルンが不思議なモノでも見るかのように、
ユウナギの顔をじっと見つめながら口を開いた。
(えっ!?ユウナギ・・・あんた、ナウマン・ポメラニアン知らないの?)
(・・・へっ?)
(い、いや・・・だからナウマン・ポメラニアンよ)
(そ、そんなのが・・・まじで居るのか?)
(え、えぇ・・・居るわよ?
それにその魔獣って、幼稚園児でも知っているくらい有名よ?)
(・・・ま、まじでか?
つーか・・・。ソ、ソレってま、魔獣・・・だったの?)
(・・・そんな事も知らないなんて・・・、ユウナギ、あんた大丈夫?)
(がぁぁぁぁぁぁぁんっ!)
シレっとそう言い切るシャルンに、ユウナギはワナワナと震えていると、
シャルンから更に追い打ちされる事になった。
(あいつらの話にもあったけど、
その魔獣の親戚の姉の叔父さんの隠し子が、
あの伝説と言われた「河川の中州最強」と言わしめた豚魔獣・・・
「ヒノノニ
(・・・さ、さい・・・きょう・・・?
ってっ・・・んんんんっ!?ちょっと待て、おいっ!?
河川の中州最強ってっ!?えらく限定された場所なのなっ!?
つーかっ!そんな魔獣っているのかよっ!?
もう俺は全然意味わかんねーぞっ!?
いいのかそれでっ!?いいのか、そのヒノノなんちゃらってヤツはっ!?)
(ヒノノニ
(うっせーよっ!覚えなくてもあのCMが頭の中で流れてるわっ!
トン、トン、トン、トン、ヒノノニ〇ンっ!って、
もはや夢で
ユウナギのその言葉を聞いたシャルンが・・・
何故かガクガクと震えながらユウナギの顔を見つめると、
何かに怯えながらその口を開いた。
(な、何で、あ、あんたが・・・そ、その、き、禁断の呪文をっ!?)
(・・・は、はい?き、禁断っ!?呪文っ!?
な、何それ・・・?すっげー怖いんですけどっ!?)
(トン、トン、トン、トンって・・・そ、それは・・・。
い、今は失われし・・・呪いの呪文。
もはやその呪文を扱える者など、この世には存在しない・・・とまで、
そう言われているのに・・・。
そ、それをどうしてあんたがっ!?)
(・・・し、知るかよっ!!)
ユウナギとシャルンのやり取りを他所に、
あれから見つめ続けているベンソンは何故か、
ドキドキとした面持ちでクレベールを見つめると、
何故か急にドラムの音がどこからともなく流れ、
この地下トンネルに響き渡っていた。
喉を「ゴクリ」と鳴らしながらクレベールを見つめるベンソン。
そして瞬きもせず無言のまま見つめ返すクレベール・・・。
するとクレベールの口が1度ピクリと動くと。
再び小声で・・・「ファイナル・アンサー?」と呟いた。
「・・・ふぁ、ふぁいなる・あんさーでおまっ!」
「・・・正解っ!」
「やっほ~い♪ワ、ワイ・・・やったりましたでっ!」
はしゃぐ連中を他所に、ユウナギはシャルンに
ヒノノニ
再び「実験」と言うワードが聞こえたために、
ユウナギはシャルンの口を塞ぎつつ聞き耳を立てて行った。
「まず我が友ベンソン君が、
この魔石で撮影してきた衛士の偉い人の静止画を、
この大きなまな板状に加工された魔石に転送してっと・・・」
(こりゃ~またご丁寧に説明してくれんのな?
有難いわ~・・・まじで有難いわ~・・・)
「でね?転送された魔石に僕ちゃんの魔力を注入して・・・って・・・
むむむむむっ!?
やっぱり「冥界の
魔力をガンガン持っていかれるわね~?
あ~あぁ~・・・きっつ!
僕ちゃんの魔力がゴリゴリ削られて~・・・
あぁ~ちょ、ちょっとコレ・・・く、癖になっちゃいそぉ~♪
アハハ~♪」
(アハハ~じゃ、ねぇーっつーのっ!
まじでキモイんだけどっ!?)
暫くの間クレベールは、まな板状の魔石に魔力をフル充電していくと、
次第に魔石から湯気が立ち昇り始め、まるで燃えているかのように、
真っ赤になっていった。
そしてクレベールは魔力を注入した事によって、
息遣いも荒くフラフラしていたのだが、両手に分厚い手袋をすると、
擬体の顔らしき場所から魔石をゆっくりとつま先まで動かしていった。
そしてつま先まで下げ終えたクレベールはベンソンに軽く頷いて見せると、
鞄の中からスプレーボトルを取り出した。
(・・・あのスプレーボトルは何だ?
それにあのボトルの中身の液体は・・・?)
ユウナギの疑問に誰も答えるはずもないのだが、
今のユウナギの目は、クレベールが作った擬体に注がれていた。
「じゃ~ベンソン君♪仕上げにかかるわよん♪
これが完成したら明日・・・あの森へ行って冥界の森人をゲットするわよっ!」
「はいなっ!」
ベンソンが赤く染まった大きなまな板状の魔石を擬体から降ろすと、
クレベールは勢いよくその擬体にスプレーの中身を吹いていった。
スプレーの中身を吹き終わったクレベールは1歩後ろへと下がると、
「待ってみよう♪」と軽快な口調でそう言うと黙って擬体を見つめていた。
それから5分後・・・。
クレベールは左腕にはめた腕時計を確認すると「そろそろね?」と言い、
ベンソンはクレベールからの合図を緊張した面持ちで待っていた。
「ピピッ!ピピッ!ピピッ!」とその腕時計アラームが鳴ると、
「今よっ!」と、クレベールの合図でベンソンが氷系の魔法を使用し、
擬体へと放出していった。
「シュゥゥ~」っと言う蒸気音を響かせると、
それが冷えるのを待っていた。
そして漸く冷えたところで確認すると・・・。
「か、完成よっ♪ベンソン君♪
完璧に定着したわよん♪」
「ほ、ほんまでっかっ!?」
クレベールとベンソンがしたり顔でニヤニヤとしていたのだが、
それを見ていたユウナギとシャルンは驚きのあまり目を丸くしていた。
(うっ・・・嘘・・・だろっ!?
あの薄っぺらいモコモコの擬体が、衛士の姿にっ!?)
(よ、よくわかんないけど、すごいわねっ!?)
そう・・・。
2人が目撃したのは、その一連の作業によって完成した擬体・・・。
正確にはプリント型擬体なのだが、
その完成した擬体にユウナギは興味津々だった。
(ま、まじかよっ!?
こ、これってつまり・・・あの拳大ほどの魔石で人物を撮影して、
その静止画をまな板状に加工された魔石へと転送・・・。
そしてそれを動かす為に魔力を注ぎ込み、
あのモコモコした擬体のベースとなるモノへ印刷・・・。
つ、つまり・・・プ、プリントアウトしたって事かっ!?
それと氷系の魔法を使用したのは、もしかして・・・?
印刷したモノを定着させる為に冷やしたのかっ!?)
ユウナギは正直、クレベールの凄さを実感していた。
(・・・な、なんて発想してやがんだ・・・こいつは?)
(い、いや・・・ユウナギ?
あんたもご丁寧な説明をしっかりしてるけど?)
ユウナギが驚愕するほどのモノがある事に、
唖然とするユウナギだったが、不意にシャルンから声がかかった。
(お、おいっ!ユウナギッ!?)
(ん、んっ!?な、何だよ?)
(いつまであんたはボ~っとしてんのよ?
あいつら・・・どこかへと行っちゃったわよ?)
(し、しまったーっ!?)
慌ててユウナギ達はクレベール達の後を追うが、
もうその姿はどこにもなかったのだった・・・。
もう一度周辺を見渡したユウナギは項垂れながらも、
面倒臭そうにしていたが、シャルンは手がかりが無くなった事に力なく項垂れた。
「ちっ!俺とした事がドジっちまったぜ・・・」
「ユ、ユウナギ・・・一体これからどうすんのよ?」
シャルンが半ば諦めかけていたその時、
ユウナギは「フッフ~♪」と笑みを浮かべて居た。
「・・・手がかり・・・あるの?」
「ん?お前聞き逃したのか~?
まぁ~時間こそわからねーが、明日は魔獣が出た森へと行くらしいぜ?」
ウインクしながらそう話すユウナギに、
シャルンは安堵の息をつくと、崩れ落ちるようにその場にしゃがみ込んだ。
「ははは・・・あんた、そう言う事は最初に言いなさいよね?
あちこち探し回った私の時間を返しなさいよっ!」
やや怒り気味でそう言ったシャルンだったが、勿論本気で怒っていた訳ではない。
基本このシャルンと言う女性は・・・「ツンデレ」の素質を持つ人族なのだ。
それを見越してユウナギもわざとそう言ったのだが、
この男もまた・・・「ツンデレ」体質な男だったのだ。
「よしっ!じゃ~シャルンっ!明日の朝にでもあの森へ行こうぜ♪」
「フフフ・・・わかったよ♪」
そしてその夜ユウナギは帰宅すると、
事の詳細を仲間達に説明し、バックアップを頼む事となり自室へと戻ると、
月夜を眺め、グラスの中の酒をくるくると回しながら、
クレベールが作ったと言うあの「プリント型・擬体」について考察していった。
(あの野郎の擬体・・・興味あるね~♪)
この時、ユウナギの瞳が妖しく「ギラッ」と鈍く光っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます