12話 また髪の話してる……
マリー、ロゼと正式にパーティーを組んでから初の依頼を受けるため、早朝のギルドに足を運んでいた。しかし、森が封鎖されている今、目につく依頼といえば荷運びなどの無等級向けの依頼ばかりだ。
「何か良い依頼ありましたか?」
「やはり森が封鎖中だからか、割の良い依頼は無いな……」
「まぁそれはしょうがないですわ。森以外の近場となると、北街道沿いの平原か南の遺跡荒野くらいかしら。平原は稼げる魔獣なんてろくに出ませんし、できれば行きたくはありませんわね」
「となると遺跡荒野なんだけど、こっちはこっちで強力な魔獣ばかりなのよね。単純に固くて強い鎧百足に、常に集団で行動していて狡猾な武装ねずみ、身体が泥で構成されていて核を突かないと無限に再生する泥溶人。どれも一筋縄ではいかないわ」
「うへぇ、聞くだけでげんなりするラインナップですね。いっその事森の封鎖が解けるまで大人しくしておきます?」
「それは俺も考えていた。しかし銀等級を目指そうという冒険者が、森が封鎖されているので休んでました、ではな。常に牙を研ぎ、機を逃さないようにしておきたいところだ」
今俺が言った理由の他にも、ここで『じゃあ森の封鎖解除まで解散!』となった場合、マリーとロゼが有り金を使い切ってしまう可能性がある。パーティメンバーを信頼してやりたいところではあるが、念の為その可能性を潰しておくのも良いだろう。
「なんだ坊主、随分と一丁前のセリフを吐くようになったじゃねぇか。それに綺麗どころばかり侍らせやがって。ハーレム気取りか? ん?」
どの依頼を受けようか悩んでいると、後ろからそう声を掛けられた。聞き覚えのある声に振り向くと、質の良さそうな皮鎧を着込んだ筋骨隆々なスキンヘッドの男が仁王立ちしていた。
「パッチさん!? なんでこんな所に!?」
「ヴァンさん、誰ですかこの失礼なハゲは?」
「いやお前の方が果てしなく失礼だからな!? ヴァン、ちょっと躾がなっちゃいねぇんじゃねぇのか?」
「いや本当にすいません、よく言っておきますんで……みんな、こちらはパッチ・ライアスさんだ。師匠の古い知り合いで、銀等級のベテラン冒険者だ。ちなみに鬼のように強いぞ。俺も昔この人に少し鍛えてもらったんだ。あと頭髪が無いことを気にしているからハゲは禁句だ。あれはスキンヘッドといってそういうファッションなんだ」
「よーし、ヴァン。久々に稽古つけてぶっ殺してやるから表行こうぜ」
「冗談、冗談ですパッチさん。離して! 頭が割れる!」
「ったくよぉ。そんなところばかり師匠のあのバカに似てきやがって……」
「ヴァンも敬語使えたんですのね」
「私たちはまだ付き合いが短いけど、新鮮な感じするわね」
失敬な。俺だって敬語くらい使える。まぁ使わないと後が怖いような相手にしか基本的に使わないが。
「あー、つーわけでパッチ・ライアスだ。お嬢さん方、お名前を伺っても?」
「パッチさん何紳士ぶってるんですか。似合わないですよ」
「うるせぇよ! ちょっと黙っとけお前は!」
「ふふ、仲が良いのね? 私はマリー。家名は無いわ。ヴァンとは最近組んだばかりなの」
「おう、マリーだな。身体は小さいが剣は結構使えそうじゃねぇの。歩き方や立ち振る舞いでわかるぜ」
「あら、嬉しい。格上の人にそう言ってもらえると励みになるわね」
「パッチさん。今の励み、というのは頭髪の事では無くてですね」
「わぁっとるわ! だから黙っとけっての!」
いらぬ誤解を与えぬようにらと思ったが、どうやら逆効果だったようだ。いや失敗失敗。
「わたくしはロザリンド・フォン・フレースベルクですわ! 去る事情で高貴な出自ながら冒険者をやっていますの」
「本名はロゼ・クリント。クリント村の村長の娘でバリバリの農家の子だ」
「ヴァンさぁぁぁぁん!?」
「あー、その、よろしくな、ロゼ」
「ちょっとヴァンさん! なんか可哀想な子を見る目で見られてますわよ! どうしてくれますの!」
いや実際可哀想な子には変わりないのだから、別にいいのでは無いだろうか。
「私はリンカ・タカナシです。まさかハゲをそんなに気にしていたとは思わず、ハゲと呼んでしまって申し訳ありませんでした。もう二度とハゲと呼ばないように気をつけますので許してくださいね? あと私たち別にヴァンさんのハーレムメンバーでは無いのでそこだけは間違えるなよハゲ」
「ヴァン、こいつ躾とか無理なタイプだろ? もうぶっ殺していいか?」
「まぁまぁ、それで突然どうしたんです? ルヴィステラから長い事離れてましたよね?」
「はぁ、まぁいいか……。その前にさっきのヴァンからの俺の紹介で一つ訂正がある」
「え、まさかハゲの部分を……?」
「ちげぇよ! ……銀等級の冒険者だったのは少し前までの事だ。今はサテラ侯爵様付きの冒険者、つまり金等級の冒険者になったのよ、俺は」
「き、金等級!? それは凄いですわね! 初めて生で見ましたわよ!」
「それは、その凄いですね。パッチさんが凄い人だとは知っていましたがまさかここまでとは」
金等級になるには途方もない程の功績を積み、尚且つ貴族に気に入られるなどをしないとなれないと聞く。まさか知り合いが実際になるとは。
「それでその金等級の冒険者様が何故ルヴィステラに……? あっまさかアレですか。レッサーワイバーンですか?」
「おうリンカの嬢ちゃん、正解だ。サテラ侯爵様の軍隊とを連れて竜骨山脈からはぐれたレッサーワイバーンを狩れ、そういう命令が下ったのさ。そのためわざわざ領都イルサテラから来たってわけよ。んで、ギルドに挨拶がてら寄ったら見知った顔がいたから声をかけたってわけよ」
「ってことは森の封鎖は近日中に解除される見通しなのね?」
「そうだな、この俺が来たからにはすぐにでも、と言いたいところなんだがな」
「何か問題でもございまして?」
「あぁ、今回連れてきた軍の隊内で食中毒が広がってな。隊の半分以上がダウンしてやがるのよ。ったく情けねえ」
「となると、食中毒でダウンした兵達の復帰を待ってから討伐に向かうんです? もしくはイルサテラから応援を?」
領都イルサテラはルヴィステラから北の街道を二日ほど歩けば着く。往復で四日、いや編成や糧食の準備なども考えれば五日か。しかし五日もあれば食中毒の兵士も回復しそうだし、微妙なところだ。
「俺も最初はそう思ったんだがな、サテラ侯爵様はなるべくこの問題を早く解決して欲しいらしいのよ。そこでたまたまいたお前らに頼みがある」
パッチさんがそのスキンヘッドの悪人面でニヤリと口角を上げる。悪人感が更に増した。この人見た目が完全に盗賊のお頭なんだよな。
「俺たちに、頼みですか? 一緒にレッサーワイバーンと戦えって事ならごめんですよ?」
「阿呆、銅等級の冒険者にんなことさせるかよ。お前らに頼みたいのは雑魚散らしよ。レッサーワイバーンは俺がヤるから、お前らは俺が集中できるように周りの魔獣を片付けて欲しいんだわ。もちろんお前らだけじゃなく、動ける兵士達と一緒にだ。もっとも、森に慣れてるお前らの方が動けるだろうから、メインで働いてもらうのはお前らにのるだろうけどな」
「雑魚散らしですか。そもそもレッサーワイバーン居座ってるような森に他の魔獣なんているんです?」
「いるさ。白銀狼だってまだ残ってるだろうし、森の奥地にいた剛腕熊も自分の住処を荒らされまいと出張ってくるだろうよ。流石に角うさぎは隠れて出てこないだろうがな。あぁ、忘れてたがもちろん報酬はたんまり出すぜ。なんせ侯爵様直々の依頼だ。支度金もたんまりある。で、どうするよヴァン?」
「俺は受けてもいいと思っている。間違いなく危険ではあるが、間近で金等級の冒険者の戦いを見れるならそれだけでも価値はある。もちろん皆が良ければ、だが」
「ヴァンさんが大丈夫だ、と言うなら私は良いですよ? 今までもこういう場面でヴァンさんがハズしたことないですし」
「私は単純に金等級の実力を見たいから賛成するわよ」
「レッサーワイバーン怖いから嫌ですわ!」
「よし、じゃあ全会一致で受ける、という事でいいな」
「え? あれ? おかしくありませんこと?」
「よっしゃ! じゃあ明日の朝イチで森の入口まで来てくれ。日が暮れる前にはぶっ殺して、夜は久々に一緒に飲もうや!」
「わかりました。じゃあ皆も明日に備えて一度解散しよう。リンカとマリーは念の為予備の剣も持ってきてくれ。他はいつも通りで。……それじゃあ俺も準備がありますので、パッチさん、明日はよろしくお願いします」
「わかりました。じゃあ後でまたダムダさんの工房行きましょうか」
「おう! じゃあな! 俺はギルドマスターに挨拶したりしてくらぁ!」
「あれ? ねぇ? マリー? 私反対してましたわよね? マリー?」
「はいはーい、私達も一度宿に戻るわよー」
「なんで?????」
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