11話 突撃、隣の鍛治工房
「ハンドヒートパイルの射出機構が少し歪んでるな。随分打ちまくったみたいじゃねぇか。予備弾も全部使い切ったのか。まぁストックは多めに作ってあるから問題はねぇ。パイルバンカーの方はどうだ」
「今回はシールドとしてしか使っていないから、少し汚れた程度だ。白銀狼程度の攻撃ではビクともせん」
「またリンカの嬢ちゃんに打たせて貰えなかったのか。おめぇも苦労するなぁ」
「なに、その分ハンドヒートパイルは好きなだけ打ったんだ。仕方ないので今回はこれで我慢するさ」
ルヴィステラの鍛冶町区画にある、ダムダ鍛治工房。今日は休養日という事で相棒のメンテナンスのために訪れていた。
工房の一角で俺と向かい合ってハンドヒートパイルを弄っているのは、ここの親方であるダムダ・グンダ。ここより遥か南にあるドワーフの国ディクセンからやってきて、珍しい鉱石が取れるわけでもないこんな場所で工房を開いている変わり者だ。ちなみにルヴィステラ特殊武器愛好会の会員でもある。
身長は140cm程、異様に発達した筋肉に、モサっとした髭。まさに万民の想像するドワーフというような見た目をしている。
「ふん。相変わらず尻に敷かれてるなぁおい」
「リンカの薄い尻では痛そうだな」
「ちげぇねぇ! はっはっはっ!」
「本人目の前にしてよくそんな事言えますね、このクソセクハラ野郎共が。ぶっ殺しますよ」
ちなみにリンカも一緒である。リンカの剣もここで打ってもらったものだ。
「なんでぇ、小粋なジョークじゃねぇかよ。そんくらい許してやんな」
「そうだぞ。ジョークというのは人との交流関係を円滑にするものだ」
「じゃあ今からこのハンドヒートパイルを無造作に炉に放り込みますけど、それもジョークなので許してくださいね?」
「「すいませんでした。許してくださいリンカ様」」
「そんなすぐに手のひら返すなら最初からそんなクソみたいなジョーク言わないでくださいよ」
「なぁ、ヴァン。最近リンカの嬢ちゃんますます口悪くなってきてねぇか?」
全くもって同意なのだが、それを口に出すと今度こそ先程のジョークが実行されかねないので黙っておく。沈黙は金という言葉を知らんのかこのドワーフは。
「いいからさっさと整備してくださいよ。明日から何か依頼受ける予定なんですから」
「依頼? 森はまだ封鎖中だろ? 河岸を変えんのかい?」
「あぁ、そういえばまだ言ってなかったな。前回の以来で臨時パーティを組んだ2人組と正式にパーティを組むことになったんだ」
「そうなんですよ。銅等級の2人組でマリーとロゼっていうんですけど、ご存知ですか?」
「そうだったのか、マリーとロゼか。どっかで聞いたような気はするんだが……あぁ! ロゼってやつはでけぇバトルハンマー持ってるんじゃないか?」
「おや、まさか本当にご存知で?」
リンカはまさか本当に知っていると思っていなかったようで、少し驚いている。
「おうよ。本人と会ったことはねぇが、そいつのバトルハンマーは確かケルンの若造が鍛えたやつだ。あの野郎、身体は細くてヒョロっとしてる癖に馬鹿みたいにデカくて重い武器作るのが趣味だからな。そのせいでいつも経営が火の車なんだが」
「なるほど、ケルンのとこの武器だったか。どうりであの怪力でも壊れないわけだ」
「ケルンさんですか、聞いた事無いですね」
「まぁリンカの嬢ちゃんにゃあ縁のない工房だろうよ。あそこはバカでかい武器に盾、全身鎧を専門にしてるからな。おめぇさんにゃあ持つだけで精一杯みたいなモンばっかだ」
「なるほど、それは私には関係無さそうですね」
「そんな事は、なぁぁぁぁい!!」
突如として工房のドアが大きな音を立てながら開け放たれ、病的なまでに細身で、肌の白い男性が室内に入ってきた。
「うわ、ビックリした! 誰ですこの人?」
「ああ、こいつがケルンだよ。噂をすれば影とは言うが本当だったんだなぁおい」
「そう! 私こそがヒュージウェポン工房の主! ケルン・ミストです!」
「うわ、テンション鬱陶しくて苦手ですこの人」
リンカの初手毒舌がケルンを襲う。初対面の人に対していきなりそれはどうかと思うぞ。見ろ、ケルンがらちょっとショックを受けてる。
「うぅ、中々やりますねこの黒髪美少女。ですが私は挫けませんよ。そう! ちょっと貴女にお願いがあるのです!」
「えぇ、私にですか? 正直に言えば心底面倒なので話すら聞きたくないんですけど、私のことを黒髪美少女と読んでくれたので話だけは聞いてあげますね」
「リンカの嬢ちゃんは褒め殺しに弱いんだな。覚えておこうぜヴァンよ」
「聞こえてますよダムダさん。初対面以外では褒められても対して効果ありませんからね。あくまでも初対面の好感度調整ですよそんなの」
「リンカ、というのですね貴女は。そう、リンカさん! 貴女へのお願いとは他でもありません! 私の作ったこの、グレートソードを持ってみて欲しいのです!」
ケルンはそう言うと背負っていたグレートソードをリンカの前に置いた。随分バカでかいが、よくケルンはこれを持ち歩けたな。
「なんだぁ、こいつは? 見た目の割に随分チグハグな……」
「持つだけでいいんですか? それくらいなら別に構いませんが」
「お願いします! 貴女がダムダ親方の工房に入っていくのを見掛けてから、急いで工房から持ってきたんです。この武器に合うのは貴女しかいないと思いまして!」
「しかしケルン。リンカにはこのグレートソードは大き過ぎる。リンカはスピードと手数を重視するタイプだ。それにこの大きさでは森の中でろくに振れないだろう」
「ンゥシャラップッ!! お黙りなさい!! ……というかヴァンさんいたんですね。お久しぶりです」
情緒不安定かよ。怖いわ。
「とにかく! 一度持ってみてください!」
「はぁ、いいですけど……あれ? 軽い。これ片手も持てるくらい軽いですよ?」
ヒョイ、と片手でグレートソードを持ち上げるリンカ。なんとも違和感しかない光景だ。それを見たケルンか身体をビクンビクンと痙攣させている。非常に気持ち悪い。
「そう! これは材料に軽鉄鋼を使って極限まで重さを削り、更に高い金を払って魔術師に重量軽減の魔術刻印をしてもらう事で私の魔力と引き換えに羽のような軽さを実現したグレートソード! 名付けて羽の大剣!」
「いや軽鉄鋼っておめぇ、ただひたすら軽いだけで丈夫さなんて欠片もねぇし、そもそも魔術刻印で使うのケルンの魔力なのかよ! なんだこのボケが玉突き事故起こしたみたいな武器は!? なんで作ったこんなもん!?」
「なんでって、そんなこと決まってるじゃないですか」
「いやさっぱりわからないんですけど。多分これで敵殴ってもダメージほとんど通りませんよね」
「体の小さい女の子が!!! でっかい武器を!!!! 持ってるのって最高でしょうが!!!!!!」
「死ねぇ!!」
リンカは迷わず羽の大剣をケルンに振り下ろした。案の定刃は潰してあったし、重量もないのでそこまでのダメージは通らなかったようだが。
「我が生涯に、一片の悔い、無し……」
ちなみにこのケルン、やはりというべきかルヴィステラ特殊武器愛好会の一人である。
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