9話 ワイの怒らせたワイルドレッサーワイバーンのその後
その後、レッサーワイバーンがどうなったかの話をしよう。
結論から言えば、一日経った今でもあの森で元気に暴れている。撤退戦の時に放ったパイルスタンボム(あの後名付けた)で怒り狂ったレッサーワイバーンは下手人を探しつつ、森の魔獣をおつまみ感覚で頂いているらしい。何とも恐ろしいことだ。
もちろん森は現在封鎖中で、勝手に中に入って死んでもなんの責任は持てないとのことだ。それはそうだ。
そしてレッサーワイバーンへの今後の対策なのだが、侯爵様の軍が動くらしい。ルヴィステラはイコラ王国サテラ侯爵領に属している。ルヴィステラ東の森の魔獣の肉や毛皮等が主な輸出品になっているため、レッサーワイバーンが大暴れしている現状はとてもよろしくない。
どうやら侯爵軍に侯爵様子飼いの金等級の冒険者も帯同するのでは、という噂もあったがそれについてはギルドもまだ把握できていないとの事だ。
ちなみに白銀狼が森に流れてきたのも、元を辿ればレッサーワイバーンのせいではないかとのことだ。レッサーワイバーンは通常であれば、東の森を超えた先にある竜骨山脈の麓辺りに生息しているはずだ。そこで群れを追われたか何かしたあのレッサーワイバーンが白銀狼の生息地に辿り着いて大暴れ、これにはたまらず白銀狼も逃げ出した、と。白銀狼が逃げ込んだのが我らがルヴィステラ東の森で、レッサーワイバーンは付近に餌が無くなったから白銀狼を追ってここまで来た。というのがギルドの見解だ。
「とまぁ、そんな感じだった」
「ワイバーンって本当にクソですわね」
「ロゼさんってそれっぽく喋ればどんなに口悪くてもセーフとか思ってそうですよね」
「……? セーフですわよね?」
「アウトだよ?」
「アウトですよね?」
「アウトだろう?」
「まぁ、その話は置いておくとしまして」
「この流れで話流そうとするの厳しくないですか?」
「その話は! 置いて! おくとしまして!」
「話題の変え方がパワープレイ過ぎますね!?」
「まぁ、ここは乗っかってあげてよ。それで、岩亀討伐の依頼は達成って事にはなった? レッサーワイバーンの件で有耶無耶になったりしなかった?」
「多少だが魔石を持っていた事もあってスムーズに話が進んだ。達成報酬、素材の買取代、レッサーワイバーンの情報提供料等その他諸々込みでなんと金貨4枚と銀貨2枚、大銅貨8枚だ。随分と大盤振る舞いしたものだな」
おそらくレッサーワイバーンの情報料が一番大きかったのだろう。それがなければこの半額近くまで下がっていただろう。
「4等分しても金貨1枚以上! それはすごいわね!」
「あぁ。四等分して各人の口座に入っているはずだ。後で確認しておいてくれ」
銅等級の冒険者に上がると、ギルドに預金口座を持つことができる。無等級ならともかく、銅等級ともなればそこそこ大きな金額を扱うことが多くなるためギルドに預けることができるようになる。大量の金貨や銀貨を常に持ち歩かなくて済むので助かっている。
「久しぶりのまとまった収入だし、ちょっとくらいハメ外しちゃっても大丈夫かしらね」
「マリー、貴女そう言って前の依頼の分全額賭場に寄付してきたの忘れましたの?」
「えぇ、マリーさんは常識人枠だと思ってたのに……」
「ち、違うのよ? あと少しで稼ぎが倍になるところだったからつい熱くなっちゃって、ね……?」
賭場で負けた奴は大体そう言うと思うのだが。まぁギルド直営の賭場なら借金漬けにしたりはしないからまだマシだろう。
「というか、そういうロゼだっていつも無駄遣いしてらるじゃない! この間だって絶対使い道の無いやたら高級なドレスなんて買っちゃって!」
「令嬢にドレスとバトルハンマーは必須アイテムですので無駄遣いではございませんわ」
「もうツッコミ放棄してもいいですかね?」
「ツッコみ必要なところなんて無いと思いますわよ……?」
「その不思議そうな顔やめてもらっていいですかね」
「ところでお二人は何かに使う予定がございまして?」
「会話中の急カーブ多すぎてたまに着いて行けなくなりそうですね。まぁいいですけど。私は無難に装備の修繕と消耗品の購入したら残りは貯金ですかね」
「え、つまらないですわね……」
「もうちょっと刹那的な楽しさも重要だと思うよ……?」
「リンカまで堕落させようとするのは止めてくれ……」
「まるでわたくし達が堕落しきってるみたいな言い方ですわね!?」
「してると思いますが」
「辛辣ゥ!」
ショックを受けている様子の二人だが、賭場通いと無駄遣いは直すべき悪癖だと思うぞ。
「で、ヴァンさんは何か使う予定あるんですか?」
「生活費以外は装備の修繕とハンドヒートパイルの予備弾の作成費、あとは新武装の研究費。余ったらその分は貯金だな」
「うーん、似たり寄ったりですわね」
「なんかもっと面白いことやってなさいよ」
「散々な言われようだな……」
「あ、そういえばヴァンは色町とかは行かないのかしら? 男性の冒険者だと行ってる人が多いって聞くけど」
「いいいいい色町ってマリー! 貴女なんて事を聞くんですの!?」
「そうですよマリーさん! やめてくださいよ! これでヴァンさんに『あぁ、実は週2で通っている』なんて言われたらちょっと私気まずいじゃないですか!」
「いやいや、だって男ってそういうの定期的に発散が必要なものなんでしょう? ヴァンだって男なんだし、ねぇ?」
確かに男性冒険者で色町に通う者は多い。なんだったら色町に通うために冒険者をやっている者もいるくらいだ。もっとも、色街通いが過ぎて装備の更新が覚束ず銅等級の底辺を彷徨うなんて者も多いそうだが。
「俺は色街には行かないぞ。行く必要が感じられないからな」
「えぇ~? 本当に~? いくら生真面目そうなヴァンでも性欲くらい溜まるんじゃないの~?」
「ま、マリー! そろそろこの話やめにしますわよ! ね!」
ロゼが顔を真っ赤にしながらワタワタとしている。どうやらこの手の話は苦手らしい。なんとも初心な事だ。
「いいか、マリー。ひとつ教えておいてやろう」
「何かしら?」
「これは以前リンカにも言った事なのだが」
「あっ」
リンカが何かを思い出して呆れた顔をしている。はて、呆れる様なことが何かあっただろうか。
「パイルバンカーを一発打つと、射精した時と同等の快楽が得られる。つまり狩りに行ってパイルバンカーをブッパなせればそれで発散になっているわけだ。そう考えたら色町に行く必要なんて無いだろう?」
「とんでもねぇド変態でしたわコイツ」
「想像の5倍はヤバい答えだったわね」
先程まで顔を真っ赤にしていたロゼとニヤニヤしていたマリーがすっかり真顔になっていた。多少特殊な自覚はあるが、そこまでのものだっただろうか。
「そういえばそんな事前に言ってましたけど、あれマジだったんですね」
「マジもマジ、大マジだ。気持ち良いんだ、パイルバンカーブッパなすのは」
「今後貴方がパイルバンカーブッパしてるの見る時どんな顔してそれを見ればいいかわからなくなりましたわ」
「同じく……」
「あ、私はもう諦めてますので」
相変わらず俺に対しては辛辣な女性陣だ。全く、俺は振られた話に答えただけだというのに。
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