第70話
「私たちは女性ですよ」
「女性が上に立てば何かと問題になるのはわかっています」
「実際、私たちが側近として採用されると知った身内からも『小娘の分際で!』って言われましたわ」
「ええ、私も『その話は女の貴様より本家当主の自分が受けるに値する。貴様はすぐに辞退して代わりだと私を推薦してこい。そうじゃなければ分家を潰すぞ』と脅されましたの」
「────── 領主の私も女性なんだけど?」
「何もできないただのお飾りだと思っていますわ」
「いいえ、思っているのではなく、件の伯父はそう口にしていますわ」
「立派な不敬罪ですわよね」
側近として実働する前の交流と称したお茶会。遠目から見ると、ただ中庭で「オホホ」と優雅に微笑んでいるようにみえるでしょう。確かに微笑んでお茶を飲んでいますが、その内容は煌びやかな社交界の花たちが口にする内容ではありません。
すでに側近として働くことを了承している彼女たちは、自分たちの仕事着をどうするか、仕事の詳しい内容と自分たちはどこまで口を出す権限があるのか、など話し合っています。ここは領地で私たちも仕事は領地経営ですもの。ワンピースでもオーバーオールでも、仕事がしやすければどんな姿でもかまいませんわ。
「ルルティカ。それでその伯父は掃除の対象に加えてもいいのかしら」
「ええ、ここに置いていてもクーデリア様の足手まといになるだけですわ」
「すでに『望む貴族には領地の移動が行われるらしい』と、元貴族に仕える使用人たちには話してあります」
「ありがとう、メイベル」
私の専用侍女は、領主となった今も私のそばで紅茶を注いでくれます。彼女がいるからこそ、毒を気にする必要もありません。それだけでなく、かつてサンジェルスだった国の王都にあった邸を王城跡地に置きました。そのときに邸で働いている皆さんも一緒に来てくださいました。
爵位とアーシュレイ領を父から譲られたアレクシス兄様も、学院に通っていたときから付き合ってらした令嬢と二年前に結婚されました。今年初めには奥様によく似た女の子が生まれ、「どこにも嫁にはださん!」と宣言したのは有名な話です。長子ですので姪が跡継ぎになります。そのためアシュラン家に婿入りしてもらうことになるでしょう。
そして、北部の国境以外の岩盤が完全に取り除かれるまで王領地だったレヴィリア領は、私が領主として領地入りすると同時に実家のアーシュレイ領との交流が始まりました。そしてアシュラン家の商家も領都にきました。すでに調味料を使い切り、素材の味しかしない食事を胃に流し込んでいた領民には泣いて喜ばれました。
「開店直後に貴族だった方たちの調味料買い占め騒動がございましたね」
「商家は全員を店から追い出して閉店しましたのよ。貴族だったのは過去のことで、今はただの一領民だという自覚がございませんもの」
「あのときはその後五日間も閉店しておりましたわ」
「事前調査よりも食事情が悪いため、調味料もそうですが食材を仕入れてましたの」
「普通は考えませんわよね。調査から三日後に足りていたはずの食材が買い占められたなんて」
「ええ、驚きましたわ。それも領主になった私に見栄を張り、貴族だった頃の権力を誇示するためですって。聞いて驚きましたわ。さらに、ホームパーティーが開かれている中に乗り込んできて「招待されてない!」「なんで
私の言葉に表情を歪める皆さん。そのときの騒動はあまりにも有名です。彼らに関しては私がその場で罪を問わなかったため、無罪放免で解放されました。
その先は二通りです。行動を改めて大人しくなった者と、図に乗った者。─── 残念ですが、私が罪を問わなかった理由は着任による恩赦ですわ。
「すでにサンジェルスという国がないことは皆さんご存知のはずなのに。なぜ今まで通り、貴族でいられると思っているのでしょう?」
メイベルの不思議そうな声にルルティカが恥ずかしそうにしています。彼女の伯父がまだ貴族の当主として横暴な態度をとっていることを恥じているのでしょう。
「簡単ですわ。私はまだ貴族だった人たちから貴族籍を取り上げておりませんもの。そのため、まだ爵位と
それはまだ、サンジェルスだった頃の貴族院が貴族籍の書類を提出していないからです。
「何年かかってるのかしら?」
本当にそう思いますわ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます