第12話
遠話と呼ばれる、この国では我が領地のみで使われている通信機能で、お父様が領地に確認をしています。
「リリィ。転移先の準備は整っている。始めてくれるか?」
「はい。分かりました」
私は窓の前まで進み目を閉じて、無詠唱で【
光が消えて見えた周囲の風景は、王都で見慣れた建物はなく、自然豊かな領都の一画でした。
「お帰り。大変だったな」
「お帰りなさい。王都での暮らし、ご苦労様でした」
転移が無事に完了したあと、領都の邸に住んでいるおじい様とおばあ様が『王都の邸』にいらっしゃいました。ちなみに、王都の邸は領都の邸の隣に【
私たちは王都の邸に慣れていますし、おじい様とおばあ様にとっては領都の邸が住みやすいのです。それに『遊びに来た』のと『一緒に暮らす』のは違います。今まで使っていた部屋を空けたりと、お互い何かと気を使う不自由な生活が始まるのです。何より、一軒の邸に二軒分の使用人。お互いのやり方もあるでしょうし、邸に残るために小競り合いも起きるでしょう。
今まで一緒の邸で生活してきたのですもの。
私たちの都合で仕事を奪って「じゃあバイバイ」なんて、不義理な方法で追い出すことは出来ません。
それをお父様もご理解下さいました。
「さあ。今日はゆっくり休みなさい。ああ。すでに各国には遠話で報告済みよ」
「「リリィは婚約破棄されたばかりで心が傷ついておる。そのためこの先数年は婚約者をつける気はない」と宣言しておいた。それでもプレゼントや息子共を送ってきた場合は宣戦布告と見做すと脅してやったわ」
「それは上々です。さすが私の愛する旦那様ですわ」
おじい様の物騒な発言をおばあ様が誉め称えています。お二人は大恋愛の末に結婚されたそうですが、その際、結婚に反対した国をいくつか滅ぼしたそうです。反対した理由が『大魔導師のおばあ様を自国に取り込むため』というくだらない理由だったそうです。
「もっとね、違う理由だったら、話くらいは聞いてあげたわよ。でも「一国に大魔導師と賢者がいるだけでも
そして、断っても執拗に別れさせようとした国が滅びたそうです。戦争も何もしていません。ただ「その国の王族を全員、国に招待しただけよ」とのことです。
おじい様の話では、王城の広間に、ある同盟国の王族全員を転移させたそうです。時間は真っ昼間。そうしたら……まあ。王妃様ったら不貞行為の真っ最中で『あられもない姿』をお披露目しちゃった。それをお怒りの王様が剣を抜いちゃったから、さあ大変。だって自国ではない王城で同盟国の王様が抜刀したんだから……
取り押さえられて、やっと事態を把握した同盟国の王様は、王族全員の生命と引き換えに廃国を宣言し、誰の血を流すこともなく国を明け渡しました。そして新たな領地は、隣国への牽制のためと迷惑料、そして『結婚祝い』として大魔導師と賢者の新婚夫婦に与えられたのです。
結果的に、廃国になったことで念願だった『大魔導師を住まわせる』ことに成功した訳です。
それが『アーシュレイ領』の成り立ちです。
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