第4話


王族の方々がこの場にいらっしゃらないのは、パーティーが始まる直前に会場入りされる予定だからです。ですが、会場入りまでカウントダウンが始まっているのでしょう。お二人の背後、会場の出入り口付近では青ざめた方々がウロウロしています。お父様の姿もございます。お父様が何も言わないのは、私に一任して下さるつもりなのでしょう。


「殿下。申し上げても宜しいでしょうか?」


そろそろ、この三文芝居を切り上げないと、いつまでも卒業パーティーが始められませんね。せっかく在校生の皆様( 但し王太子殿下と男爵令嬢は除く )が準備して下さったものですから、このようなバカげた事で中止などしてほしくありません。


「なんだ! 言い訳なら聞く気はないぞ!」

「いいえ。言い訳では御座いませんわ。ただ幾つか確認したいことが御座いますの。それさえ済めば、婚約破棄をするつもりですわ」


私の言葉に王太子殿下は目を輝かせ、男爵令嬢も「どうせ、これが最後なのですから、言いたいこと言わせてあげましょうよ」と喜んでいます。


「よし。可愛いソレイユの頼みだ。何でも尋ねるが良い」

「ありがとうございます。では、まず一つ目。先ほど殿下が仰った私の罪ですが、私には何ひとつ心当たりは御座いませんわ」

「そんな筈はなかろう!」

「何故でしょうか? そちらのご令嬢とは確かに同じ年齢でございますが、そもそも学年が違います。この時点で教室のある階が違うため、余程のことがない限り出会うことは御座いません。そのため、そちらの男爵令嬢が一学年の時に私が階段から突き落とすなど出来ませんわ。だって、一学年の教室はにございますもの」


私の指摘に、王太子殿下は何かを思い出したように「あっ!」と小さく驚きの声をあげ、大切に抱きしめているウーレイ男爵令嬢を見ました。その表情は知らなかったではなく『考えていなかった』というところでしょうか。ご令嬢は気付いていないようですね。

周りの皆様も、その矛盾に気付いていたようです。ご令嬢たちは表情が見えないように扇子を開いていますが、唯一扇子の上から見える目は、さらに温度を下げて王太子殿下と男爵令嬢の二人を見ています。


学年によって階が違うということは、『下の階の学生が上の階の学生に会いに行くことが出来ない』ということです。逆に、上の階の学生が下の階の学生に会いに行くのは可能です。

さらに、男爵令嬢は寮生活ですが、私は馬車の送り迎えによる通学です。

寮生でなければ寮に入ることは出来ません。寮生に会いに行く場合、事前に寮母に許可を頂き、寮の一階にある応接室で過ごします。居室のある二階から上には、寮生以外は階段の結界に弾かれて上がることは出来ません。結婚前の大切なお嬢様方をお預かりするのですから、厳しくなるのも当然でしょう。

もちろん異性の寮に入ることは許されません。それは婚約者といえども同様です。

勉強会をするのが目的でしたら自習室があります。自習室には複数名で借りられる個室もございます。そのような、特別な教室やサロンのある特別棟も、すべて学年別で分かれています。移動も、教室のある階から廊下で直接繋がっています。

唯一の例外は、生徒会役員の方々でしょうか。

生徒会室が特別棟の四階にあるため、一年や二年で生徒会役員となった学生以外、そして最高学年の三年でも、生徒会役員でなければに上がることは出来ません。


しばらくして、男爵令嬢もその事実を思い出したのでしょう。ご令嬢の『誰からも好かれる可愛い笑顔( と思ってるらしい )』の仮面が剥がれ落ちて、もの凄い形相で睨みつけてきました。

─── 別に怖くもありませんが。

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