第22話 未知の生物が落ちてきた

 休憩中にレオンからもらった食事を、こっそり捨てようとキョロキョロ辺りを窺っていた。


 木々が目隠しとなっているここなら捨てられるんじゃないかなと、そこに足を向けた瞬間、



「ぴぎゃっ」



「ひゃっ!?」



 上から突然白い物体が降ってきて、驚いて尻餅をついていた。


 捨てるつもりだったお皿の中身は、転んだ拍子にその辺に撒き散らしてしまっている。


 そして、投げ出された足、膝の上では、白い何かが団子みたいに丸まって、ぷるぷると震えていた。


「シャーロット!何があった!?」


 レオンがすっ飛んで来て、周りを警戒するように見渡している。


「ご、め、んなさい。何か、上から降ってきて、驚いて……」


 膝の上の白い物体をおそるおそる片手で持ち上げると、白ではなくて、薄い茶色の小動物だった。


「チンチラだな」


 レオンはこれを一瞥しただけで、その正体が何かを教えてくれた。


「チンチラ?ですか?」


「その辺にいる、野生の生き物だ」


 チンチラと呼ばれたものは、手の中から抜け出すと、私のお腹辺りにしがみつき、そこから離れない。


 耳を凝らすと、キュッキュぷっぷと鳴き声らしきものが聞こえる。


 レオンも引っ張ってみたけど、やっぱり器用に私にしがみ付いて離れなかった。


「しょうがない。そろそろ出発の時間だから、そいつも一緒に連れてきたらいい」


 レオンは、お人好しすぎじゃないかな。


 小動物まで拾っていくつもりなのか。


 でも、より面倒なを拾っていくくらいだから、小動物くらい大したことないのか。


 それとも、非常食にするつもりなの?とも、思わなくもない。


 しがみ付いたままのチンチラを見ると、丸みのある耳をピンと立てて、小さな鼻をヒクヒクさせて私の匂いを嗅いでいるように見えた。


 野生の動物は、こんなに人慣れするものなの?


「なんだ?今度は動物か?」


 レオン以外で、唯一私に話しかけてくるレインさん(残りの二人は、私がいないものと思っているようだ)が、チンチラを覗き込んでくる。


 レインさんが木に寄りかかってそこにいたのは、私の悲鳴を聞いてレオンの後を追ってきたからなのか。


「レオンがオヒトヨシなのはいつもの事だ。ソイツの名前を決めないとな」


「名前を……?」


 レインさんの物言いから、レオンが動物を拾うことはよくあるようだ。


 名前か……


 チンチラ


「チン……」「やめてください」


 なんだかレインさんが不穏な名前を口にしそうで、途中で遮ってしまっていた。


 そのレインさんは、ニヤニヤしながら私を見ている。


 人をからかって楽しみたいのか、ほんの少しの間で、何となくだけど、この人がどういう人なのか知ることができた。


 躊躇なく人を殺すくせに、随分と軽く、飄々としたところがある。


 そんな性格だから、逆に簡単に人を殺めることができるのか。


 こんな人がレオンの兄だと言うのだから、やはりレオンも信用するべきではない。


 どうせ私も利用しているだけであって、月の大陸へ渡ることができれば、この人達ともそこでお別れだ。


 港町あたりで姿を眩ませたら、追ってはこないはずだ。




「モフー」




 この先のことを考えていると、唐突に後方から意味がわからない言葉が聞こえた。


 それを言ったのはレオンのようだけど、


「おめでとう。そいつの名前はモフーになったようだな」


 ポンっと、レインさんに肩を叩かれて、ようやく意味を理解できたところだった。















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