第14話 押し潰された家屋の下では
軍人上がりの俺の最初の仕事は尋問と聞かされてはいたが、実際の仕事内容は罪人に対する拷問だった。
俺は、積極的にその仕事を請け負うことにした。
抵抗できない者を、好きなだけ甚振ることができる。
それも、合法的に。
これほど、俺の性に合っている仕事はなかった。
苦痛に歪む顔も、断末魔のような叫び声も、毎日見聞きしても飽きないものだった。
罪人となったこいつらは、人ではない。
殺さないように、長く苦痛を与え、自分が楽しむことしか考えなかった。
どれだけの罪人に罰を与えてきたのか、今度の担当は、成人もしていない、若い女だった。
聖女と持て囃され、美味い汁を長年啜ってきたような女だ。
国民の怒りを俺が代弁してやるかのように、女を甚振った。
その時だけは、神にでもなったかのような気分だった。
散々痛め付けた女は、最期はあっさりと首を斬られて絶命していた。
俺があの処刑人なら、一度で首を落とさずに別の箇所の骨を砕き、苦しませるために何度も斧を打ち下ろしてやるのに。
あの女の処刑の日から三日が経ち、王都には滝のような雨が降っていた。
どうせすぐに止むだろうと、しばらく仕事の予定が無くなった俺は、酒場で酒を呷っていた。
雨は、止まなかった。
一ヶ月が過ぎた頃、食べられるのかもわからない草の根を取り合っている男達を横目に、荒廃したキャンプ地を歩いていた。
適当な女を探すためだ。
秩序など存在しないここでは力が全てで、己の自由に振る舞えた。
だから、好き好んで封鎖されている王都から出てきたのだ。
止まない雨にはうんざりするが、好き勝手にできるここで、俺はすでに存在感を示していた。
そんな俺に、わずかな食料を求めて、気怠げな様子の女が擦り寄ってきた。
ここでは金に何の価値もない。
何よりも、食べ物が不足している。
この女はおそらく、そっち系の商売をやっていたのだろう。
王都にいた罪人や娼婦は真っ先に追い出されている。
無秩序に続くキャンプ地を女と歩いて行き、女が利用している家に着いた。
木々が迫り出した崖近くに、廃墟となった家があったからそれを娼館がわりに使っているようだ。
そこにはすでに何人かの客らしき男もいた。
ベッドだけが置かれた部屋に案内されると、女は今から行為が行われるそこに座り、俺に話しかけてきた。
「あんた、あの日に処刑場に行った?あたし達がこんな底辺の生活をしているってのに、修道会を騙して贅沢をしていた女の処刑にさ」
「ああ」
俺が代わりに痛めつけてやったからな。
あの女が貧相なガキじゃなかったら、性的に痛めつけてもっと楽しませてもらえたのに、裸を見ようとも思わなかった。
目の前の、豊満な体を持つ女を抱き寄せる。
「中には、処刑された女が本当の聖女で、だからこんなにも雨が止まないって言っているやつもいるけど、あの女が本物って言うなら、そもそも聖なる魔法が使えて当たり前だし、神様に守られてそんな目に遭うはずがないって話よ」
今から情事を始めるにしては、色気のない話だ。
もう、何も答えない。
めんどくさいから、さっさと事を始めてしまいたかった。
ドアが開けっぱなしだったと、一度女から離れて部屋の入り口まで移動した時だった。
足元が揺れ、ゴゴゴゴと不気味な音が聞こえた。
地響き?
それから、さらなる轟音。
メキメキと何かが軋む音。
その後は、一瞬の出来事だった。
押し潰される衝撃と、それからは暗闇の世界。
ずっと、氷のような雨が降っていた。
何もかもが押し潰され、ほんのわずかにできた空間に、俺はいた。
だが、肋骨が折れ、内臓に刺さって激痛を生むのに、体を動かせない。
足や、腕の骨も折れているんだ。
肉体を痛めつける事を知り尽くしているからこそ、自分の体の状態がよくわかった。
くそっ
5体満足だったとしても、家屋の残骸に体を挟まれた状態では同じことだ。
叫ぶ。
誰か、助けてくれと。
俺のすぐ上っ側からも、叫び声が聞こえていた。
誰のものかわからない血が流れてくる。
馴染みのあるヌルッとした独特の感触は、暗闇でもその匂いと共にわかる。
俺の恐怖心を煽る。
また、叫ぶ。
だが、誰かが助けにくるような気配はない。
ここに生き埋めにされて、どれだけ経ったのか、俺の上で叫んでいたやつは、静かになっていた。
何も聴こえない。
俺だけだ。
恐怖と痛みでどうにかなりそうだった。
いや、いっそのこと、狂ってしまいたかった。
死にたい。
死んで楽になりたいのに、死ねない。
乾くままに欲に抗えず、汚水を啜ってしまうばかりに何日も何日も死ぬことができない。
異臭が漂う中、俺一人が生き続けなければならない。
殺してくれと、願うのに、聞き届けられない。
激痛の中で悶え苦しみ、苦しんで、苦しんで、苦しんで、やっと、俺は死ねた。
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