相合い傘傘
「梅雨か……」
月曜日の朝、リビングにあるテレビのニュースでアナウンサーが本格的に梅雨に入ったことを告げた。
カーテンを少しだけ開けて外を見てみるとシトシト、と雨が降っており、しばらく止みそうにない。
「夜のお散歩は、行けそうにないですね」
「そうだな」
朝ご飯を作っている瑠奈が話しかてける。
日課になっている夜の散歩は雨のせいで中止にせざるを得ないだろう。
雨が降ってまで毎日やる必要はないから無理にする必要はないし、家の中でも腹筋や背筋などのトレーニングは出来るからさほど問題はない。
それに冬は寒くて行かない場合もあるので、実際には気分次第になると言える。
「朝からずっと顔が赤くないか?」
何故か瑠奈は起きてからずっと頬が赤く、少しだけよそよそしい。
おはようのキスだってしてくれなかったし、以前のように戻った……とまではいかないが、恥ずかしくて触れ合うのを遠慮している感じだ。
嫌われているわけではないのは分かるので深く追及するつもりはないが、あまりよそよそしいと寂しくなる。
「き、気のせいです」
プイっと視線を反らしているので、間違いなく気のせいじゃないだろう。
昨日の夜まではいつも通りだったため、何かあったとしたら夜中ということになる。
寝ている間に何かしてしまったのだろうか? と思ったが、睡眠を取りながら何かするのは限度があるだろう。
抱き締めて寝ているのだから少し触られた程度であれば問題ないだろうし、少し考えた程度では何で瑠奈がよそよそしい態度なのか分からなかった。
☆ ☆ ☆
「よし、相合い傘をしよう」
雨が降っている中、学校に向かうため、登校するのには傘が必要になる。
蒼は玄関にある黒い傘を手に取り、逃げられないように瑠菜の手を握って言う。
「相合い傘……あうぅ~……」
普段相合い傘より凄いことをしているのに、瑠菜は頬を真っ赤に染めて恥ずかしがっている。
よそよそしくても手を繋がれて抵抗するわけではなく、あくまで瑠菜は恥ずかしくてしょうがない、そういった感じだ。
「いいよね?」
クイ、とこちらに引き寄せ、蒼は瑠菜の耳元で優しく囁く。
「ひゃい」
熱さで湯気が出そうなくらいに顔全体を赤くした瑠菜は頷くも、恥ずかしがってこちらを見れていない。
どうしてこんな態度になるか分からないが、もしかしたら瑠菜の気持ちに何か変化したのかもしれない。
抵抗しないからブラコンじゃなくなったわけではないだろうが、やっぱりよそよそしい態度なのか分からなかった。
「じゃあ行くか」
あまりのんびりとしているつもりはないので、蒼は玄関のドアを開けて傘を開く。
瑠菜は傘を持っていても開くことはなく、「失礼します……」とゆっくりと蒼の隣に立つ。
大きめ傘とはいえ相合い傘になれば距離が近いため、瑠菜は「あう~……」と恥ずかしそうな声を漏らす。
「やっぱり瑠菜は世界一美しい」
恥ずかしがっている瑠菜ももちろん美しく、蒼はいつもの台詞を口にする。
「ありがとう……ございます」
未だに顔全体が赤い瑠菜は、俯きながらも褒められたことに対してお礼の言葉を口にした。
ただ、いつもは「はいはい」と軽く流すだけだが、今日は珍しく俺を言ったために、蒼は目を見開いて驚く。
「まあ、向かおうか」
「はい」
お礼を言った理由を問い詰めても答えてくれそうにないと思ったので、蒼は聞くこともなく瑠菜と一緒に学校に向かう。
シトシト、と長雨になりそうに降っており、これではしばらくは原付バイクを使って買い物に行けないかもしれない。
スーパーまではそんなに離れていないから歩いて行けるが、楽な方法を覚えてしまえば徒歩が面倒になる。
学校までは瑠菜と一緒だから歩くのは苦ではないが、買い物は一人だから少し面倒くさい。
だからって瑠菜に買い物を行かすわけにはいかないので、その選択は論外である。
どんなに面倒だろうと蒼自身で買い物に行くと決めている。
本当は晴れている昨日にまとめて買い物するつもりだったが、輸血するほどに鼻血が出てしまったから瑠菜に止められた。
なので今日の放課後に行くしかないのだ。
「あまり離れると濡れるぞ」
外で人の視線があるからか、少しだけ瑠菜との距離が遠い。
「き、気のせいです」
気のせいじゃないから口にしたのだが、瑠菜はあくまで気のせいにしたいようだ。
濡れている様子はないので深くは言わないが、今日の瑠菜は本当におかしい。
まるで好きな人と一緒にいるのが恥ずかしいかのような……そんな感じに思える。
いくらブラコン、ヤンデレ宣言したとはいえ兄妹であることは変わりないので、恋愛として好きになることはないはずなのだが、今の瑠菜は恋をしている乙女のようだ。
「あう……あんな夢を見たせいで、兄さんの顔を見れません……」
何を言っているか聞き取れないくらいの声で瑠菜は呟くのだった。
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