第20話 転生者と奴隷少女 4-1
「サレナと木の実を取ってきてほしい、ですか?」
いつものように家賃代稼ぎで宿から出ようとした時、唐突にログからそんなお願いをされた。
なんでも夕食で出すデザートに必要な木の実が足りないらしく、サレナが毎日楽しみにしているものだから作ってやりたいらしい。
「でも、ログさんと違って僕は場所も知りませんし、多分自分で取ってきた方が早いし確実ですよ?」
「そうしたいのは山々なんだが、ギルド長から直々に呼び出しを食らっちまってなぁ。しょうもない小事だとは思うが、相手が相手だけに無視も出来ないんだよ。」
アイシャは無視しても良いと考えている事の分かる発言には苦笑いを浮かべるしかない。
しかし重要な用事の可能性もあるため自分で向かえない事は理解した。
クリュスは念のために受付けとして宿に残る必要があるという事で、他に頼れる者もいないためシュウに白羽の矢が立ったわけだ。
「でも、なんでサレナとなんですか?」
「欲しい木の実にはそっくりな癖に強い毒を持っている厄介なのがあるんだが、その見分け方がかなり難しくてな。今から小僧に叩き込んでいる時間は無いから、既に覚えている嬢ちゃんに任せるしかないんだ。」
「でも、外に出たら誰かに見られる危険がありますよ?」
「それは何とか解決した。クリュスがな。」
ログがそう言うと、クリュスは一つの指輪をシュウに渡した。
それは非常に簡素な、金属のようで金属ではない滑らかで不思議な触り心地の綺麗な指輪で、促されるままにシュウは人差し指に嵌めてみた。
「うわ?!」
思わず声を上げたのは、何か不思議なことが起きたからではない。
むしろその逆で、不思議な事が起きている事に今まで気が付いていなかったのだ。
「やっと気が付きました。」
クスクスと悪戯っぽく笑うのは毎日顔を合わせている獣の耳を持つ少女サレナ。
指輪を付けた瞬間に、それまで誰もいなかった前方に突如として姿を現したのだ。言葉からすると恐らく先ほどからそこにいたのだろうが。
刺さ板違和感から半ば反射的に違いを探すと、不思議な髪飾りをしている事に気が付いた。
「そいつはクリュスが作った姿を隠す道具だ。」
「違います。姿を隠すのではなく、特定の周波数帯域にある電磁波を周囲に過不足なく発し続けることで近辺にいる者の脳の視覚認識処理に誤作動を発生させ、見えているのに存在している事を認識できなくしているのです。当然ながら当人の自己認識には影響を及ぼさず、また電磁波を受ける生命体へ肉体的な損傷を与えることもありません。」
「だそうで。んで、今お前さんはその指輪のお陰で影響をうけなくなっているわけだ。」
「指に嵌めていないと機能は起動しないようになっていますので、ご注意ください。」
相も変わらずクリュスの言っている事は難解だ。
しかし大雑把に髪飾りは周囲から姿を見えなくする道具で、シュウは指輪のお陰でサレナの姿が見えるようになったのだということは理解できた。
確かにこれならば外に出てもサレナを探しているだろう者たちに見つかる心配は殆どない。
もっともシュウとサレナの繋がりを知っている者がいれば、或いは疑いの目を向けてくる可能性を否定できない。だがそれでは町に出向いている時に接触してこない理由の説明がつかないので、恐らくは杞憂だろう。
無駄な心配をしているうちに、すっかり準備を終えた様子で大きなカバンを背負ったサレナが張り切った様子で手を引いて出口の扉を開いた。
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