彼女がタイヤを買ってきた
@hitoziki
第1話彼女がタイヤを買ってきた
それは、夏の蒸し暑い学校での出来事であった。
「付き合ってください!!」
この日僕は初恋の相手に、誠心誠意心を込めて告白をしたのだ。だが、僕は成功するなんてこれっぽっちも思っていなかった。
僕が告白した彼女は学校でも人望も、見た目も良いクラスの人気者だ。
立ち位置としては陰キャと陽キャの狭間で揺れているような中途半端な僕、釣り合うわけがない。
当たって砕ける思いで告白した。
そして、運命は動き出す。
「いいよ」
「…………え?」
初めは何かのドッキリかと疑った。でも一緒にいるにつれ、それが本心なのだと分かり、嬉しかった。
彼女と付き合えたことがとても。だから僕は彼女を逃がしまいとドンドン金をつぎ込み奉仕した。
そして、七年後の結婚記念日の日。事件は起きる。
その日は彼女にサプライズがあると聞かされ公園にやって来た。彼女は僕の目を目隠しで隠して「貴方が欲しい物を用意したよ」と言う。
僕の欲しい物はベンツの車だ。まさかとは思うけど、彼女の仕事の収入は高いし、なきにしもあらずといった感じだ。
ワクワクしながらその時を待ち、遂に目隠しを外すこととなる。
「…………は?」
最初視界に映ったのはタイヤだ。その次もタイヤだ。タイヤタイヤタイヤタイヤタイヤタイヤタイヤタイヤタイヤタイヤタイヤタイヤタイヤタイヤタイヤタイヤタイヤタイヤタイヤタイヤタイヤタイヤタイヤタイヤタイヤタイヤタイヤタイヤタイヤタイヤタイヤタイヤタイヤタイヤタイヤタイヤタイヤタイヤタイヤタイヤタイヤタイヤタイヤタイヤタイヤタイヤタイヤタイヤタイヤタイヤタイヤタイヤタイヤタイヤタイヤ。
気持ち悪い程にタイヤが置いてあった。
「あの…………これって…………」
困惑しながら彼女に問う。
「この前タイヤのカタログ見てたでしょ? だから私奮発して貴方が欲しそうにしてたタイヤをありったけ買ったの」
違う、あれはタイヤカタログじゃない。車カタログだ。
そう言いそうになったが、喉の奥に引っ込める。今言って何になるのか、彼女て財布を悲しませるだけじゃないか。
「ありがとう…!!」
そう言って彼女を抱き締める僕。
僕が抱き締めた拍子に二人一緒に地面に倒れ込んでしまった。
「もうっ人がいるのにこんなところで…………」
頬を赤らめて言う彼女…………ってえ?
「どうも、タイヤ管理職人の川端です」
突如後ろから声が聞こえた。
振り向くと、引越センターみたいな格好した四十代くらいのおじさんがいた。
「あ、はい何でしょうか?」
「これ、請求書です」
差し出された紙を見る。
一十百千万億兆京垓………垓!?
「えっ!? 何で!? えっ!?」
ありったけって…………まさか全世界のタイヤを集めたの!?
「ふぁっ!」
僕は目眩で倒れ込んだ。出来るならばこのまま死にたい。
完
彼女がタイヤを買ってきた @hitoziki
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