第5話
放課後、将棋部の部室、三人で活動中。
「飲み物買ってくるけど、何かいる?」
僕との対局が終わり、手持ち無沙汰になった先輩は、そう言って、僕たち二人を見まわした。
「ありがとうございます。じゃあ、お茶をお願いできますか?これ、お金です。」
いそいそと財布からお金を取り出し、先輩に手渡す。先輩は、「ん。」と短く返事をして、それを受け取った。
「姉さん、私はいつもので。お金は後で払うよ。」
そう言いながら、ぐっと先輩に親指を立てる妹さん。
「・・・あなたには彼を見習ってほしい。」
はあ、とため息を吐き、先輩は部室から出て行った。
・・・さて、妹さんと二人残されたわけだが、気になることが一つ。
「あの・・・、さっきの『いつもの』って、何ですか?」
「え?『姉さんと同じやつで』って意味だけど。」
さらりと言う妹さん。
・・・本当に妹さんは先輩のことが大好きなんだなあ。・・・それにしても、『いつもの』で妹さんの意図をくみ取る先輩って一体・・・。
なんだかんだ言いつつも、先輩も妹さんのことが大好きなのだろう。逆に、妹さんの先輩好きは、いき過ぎていると思う。毎日のように「姉さん大好き。」、「姉さん愛してる。」ばかり聞かされるこちらの身にもなってほしいものだ。
「姉妹ってすごいですね。・・・僕にもいたらなあ・・・。」
そんな言葉が口から漏れ出す。妹さんのいき過ぎた愛情はともかくとして、一人っ子の僕にとって、兄弟姉妹という関係には多少のあこがれがあった。
僕の言葉を聞いた妹さんは、興味深そうに「ほうほう。」と頷いていた。
「なるほどねー。・・・じゃあ、質問だけど、後輩君は、姉と妹だったら、どっちがお好み?」
・・・質問の方向がおかしい気がするのは気のせいだろうか。
「・・・妹さん?僕は、別に姉と妹の好みではなく、単に兄弟姉妹のことを言ってたのですが・・・。」
「どっちがお好み?」
「いや、だから・・・。」
「ドッチ?」
妹さんの背後には黒いオーラが見えていた。答えなければ・・・やられる。
「・・・・・・強いて言うなら・・・姉・・・ですかね。」
僕の答えに、妹さんはにこりと微笑んだ。
「だよねー。姉!すばらしい響きだよ!!あ、でも、姉さんはあげないからね。」
「・・・何を仰ってるんですか。」
本当にこの人は、何を言ってるんだか・・・。別に、姉としての先輩が欲しいなんて一言も言ってないのに・・・。
その時ちょうど、先輩が部室に帰ってきた。先輩は、僕たちの様子を見て、首を傾げた。
「君・・・、何か変なこと言った?」
「へ?」
質問の意図が分からず、今度は僕が首を傾げる。
「いや、だって・・・」「さあ、愛しの姉さんも帰ってきたことだし、将棋しよう将棋!」
妹さんはいつも以上に明るい様子で、僕と先輩を手招きした。
いやー。やっぱり後輩君は姉好きかー。まあ、いろいろと予想はついてたけどねー。もしも姉さんが部室に居たら、どんな反応したのかなー。見てみたかったなー。今度は、姉さんがいる場所で、同じ質問でもしてみるかなー。楽しみだなー。
・・・・・・あれ?
・・・・・・なんだろ、このモヤモヤした気持ち。
今日の将棋部活動日誌
・妹さんがちょっと変?な気がしました。
なんか、わざとらしく明るかったような・・・。
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