第3話
放課後、将棋部の部室、三人で活動中。
「先輩、部費で買う棋書の件なんですけど、ここにまとめてみました。」
「・・・これとこれなら、私の家にあるから、持ってくるよ。だから後2冊は他のものでもいいかも」
「・・・・・・あのさあ。」
先輩と僕の会話を傍からじーっと見ていた妹さんが口を開く。
「どうしました?」
いつも突拍子もないことを急に言い出す妹さんだが、今日は一体どんなことを・・・。
「時々思ってたんだけど、この部ってアンバランスじゃない?」
・・・アンバランスとはどういうことなのか。僕と先輩はそろって首を傾げる。
そんな僕たちを見て、妹さんは人差し指を上に向けてくるくると回しながら、説明の言葉を探しているようだった。
「あー・・・うん、つまりね、・・・例えば4人だと、2つに分かれて将棋ができるし。・・・でも、3人だと、2人が将棋をしている時は、1人はそれを見てるか本を読んでるかだし。・・・えーっと・・・どういうべきか・・・。」
妹さんはうーんとうなっている。
説明はおぼつかないが、何となく言いたいことは分かった。つまり、部員が3人だと、部活動としての活動がしにくいということなのだろう。
「・・・まあ、この部はもともと同じ将棋クラブの3人が同じ高校に入ったから作ったのであって、アンバランスなのは仕方ないんじゃないかな。」
先輩が腕組みをして答える。
僕が中学1年生の時、将棋を本格的に始めたいと思い、近所の将棋クラブに通うようになった。そこで、小学生の頃からずっとその将棋クラブに通っている先輩と妹さんに出会ったのだ。
「そうなんだけどさ。もう一人くらい部員がいたほうがいいのかなって。・・・後輩君はどう思う?」
僕にも意見を求める妹さん。
・・・一応僕にも考えらしき考えはある。だが、それを言ってしまうのは・・・すごく恥ずかしい。・・・どうするべきか。ごまかしたほうがいいのか。
妹さんと目が合った。その目はとてもきれいで、・・・そして、真剣だった。
「・・・・・・僕は・・・このままが・・・いいです。」
僕の答えに、少し驚いた顔をする先輩と妹さん。
「そりゃ、人数が多いに越したことは無いですけど・・・でも、僕は、・・・この3人で居ることが・・・・・・好き・・・なので。」
顔の温度がどんどん上がっていくのが分かる。慣れないことはするもんじゃない。
暫くの沈黙の後、「そっか」と妹さんがつぶやく。その顔が、すこしずつにやけ顔になっていく。
・・・あ、これはまずい。
「そっかそっか~。つまり、後輩君はこう言いたいんだね。『俺のハーレムを邪魔する奴は許さん!』って。」
とんでもないことを言いやがりましたよこの人は。
「ちょ、待ってくださいよ。そんなこと言ってないですって。」
僕は必死に否定する。だが、もう遅い。こうなった妹さんは、だれにも止められないのだ。
「いやいや、要約するとそういうことだって。いや~、後輩君もいつの間にか成長したねえ。平気でそんな恥ずかしいことを言うようになるなんて。・・・わたしゃ嬉しいよ。」
涙をぬぐう真似をする妹さん。
・・・ああ、もう。やっぱり、あんなこと言うんじゃなかった。ここは逃げるが勝ちだ。
「僕、ちょっと顧問の先生のところ行ってきます。部費で買う棋書の話をしなきゃなので。」
矢のように僕は部室を飛び出した。むぐぐ、妹さんめ。
後輩君が居なくなった部室。
「・・・あなた、自分の感情をごまかすの下手すぎ。彼だから気が付いてないだけだよ。」
にやけ顔が止まらないわたしを見て、姉さんはそう言った。
さっきは、あまりにも後輩君の言ってくれたことが嬉しくて、顏が自然とにやけ顔になってしまったのだ。まあ、後輩君なら、からかうためのにやけ顔だと思っているだろうが。
「・・・姉さんはポーカーフェイス上手だよね。・・・まあ、姉さんを愛してる私からすれば、姉さんがすっごく嬉しがってることはバレバレだったけど。」
「・・・別に、あなたに気付かれるのはいいの。」
そう言って、姉さんはふいっと私から顔を隠してしまう。でも、知っているのだ。その顔が、いつもより赤くなっていることを。
「後輩君には気づかれたくないの?」
私はにやけ顔を浮かべたまま、姉さんに質問する。今度のにやけ顔は、からかうためのものだ。
「・・・・・・何となくね。」
相変わらず、素直じゃないなあ。・・・いや、ただ自覚してないだけか。
・・・・・・さて、後輩君が戻って来るまでに、顏のマッサージでもしておこう。嬉しいにやけ顔が、また出てしまわないように。
今日の将棋部活動日誌
・後輩君が恥ずかしいことを言いました。
ちょ、妹さん!そんなこと書かないでください。
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