第2話 旅の始まり
面接を終えた私は
「あ~。やっぱり落ちちゃったよ……。レオ姉、私これからどうすれば良いと思う?」
同席してくれた愛すべき幼馴染みに相談します。名はレオーネ。由緒あるドレッド家のお嬢様で、凄腕の魔術師です。歳が私の二つ上の為、悩みごとがあった際は良く相談をしていました。スキルによって全ての魔法が使える彼女は、復活した魔王討伐の為に編成された勇者一行の一人でもあります。一週間前にここを出発したにも関わらず、こうして
「そうね。私のお嫁さんとかどうかしら?」
この、私に向ける異常な愛さえなければ彼女はモテモテだったでしょう。背は高く、出ているところは出ており、腰まで伸ばした艶やかな黒髪は手入れを欠かしていないことを物語っています。顔も整っており、切れ長の目に収まっている茶色の瞳は魅力的です。
それに比べて私は、女性として見てもなお低く、凹凸のない体。短く切りそろえた金髪と緑の瞳が綺麗と言われて――目の前にいる彼女にだけしか言われたことは有りませんが――はいますが誇れる所なんてそれくらい。せめて、身長だけでも彼女と並べたらなぁと思ったことは何度もありました。そんなことはさておき、彼女の冗談を受け流して他の案が無いか催促します。
「いや、冗談はそれくらいにしてなにかない?」
「そうねぇ……私たちと一緒に来る?魔王を倒せば能力の有用性を示せるはずよ?」
「う~ん。それは遠慮しておこうかな。『無能はいらない』とか言われて追い出されそうだし。けど、旅して有用性を示すのはありかも。早速一人旅の準備してくる!」
そう言って酒場から飛び出します。気づけば日は傾いていました。急いで帝都のはずれにある自宅に駆け込み、冒険の役に立ちそうなものをかき集めます。見た目通りの重量しか詰め込めないバッグを見て、決意します。
この旅を通して、
拡縮能力は、持ち運び以外にも役に立てるのだと、証明してやる。
……明日から。
窓の外は既に真っ暗です。冒険への旅立ちはやっぱり朝にするべきでしょう。ふかふかのベッドに身を投げ出して飛び込むと、面接で緊張していたのか、あっという間に夢の世界へと旅立って行きました。
翌朝、日が昇る前に目を覚ましては桶に張った水で顔を洗います。いつもであればこれから体力作りに走って王都を一周するのですが、今日は日課を行う必要はありません。旅の道中でいつも以上の距離を歩いたり走ったりするからです。とにかくレオ姉がここに来る前に早く出発してしまいましょう。
レオ姉のお誘いは実に魅力的なものでしたが私としてはそこまで迷惑を掛けるわけにもいかないのです。人間界でも指折りの実力者だけで構成された勇者一行に能力を持っていない私が着いていってもそのうち疎まれて追い出されることは目に見えていますから。
そんなことを考えながら荷物の最終点検を終えると改めてこれから旅に出るんだという期待と一人でやっていけるのかという不安が混ざりあい、私はその場で立ち尽くしてしまいました。やっとのことで不安を期待で塗り潰し、意を決して木製のドアを思いきり押し開けるとそこには私のよく知っている人物が待ち構えていました。
「来ちゃった」
黒のローブと三角帽子、どこからどう見ても魔法使いといった装いをして穏やかな笑みを湛えたレオ姉はさも待ち合わせをしていたかのように私の目の前に現れました。呆気にとられている私に向かって彼女はこれからどうするのかを問いかけてきます。
「それで、これからどこに向かうのかしら?私は可愛いエレナのそばならどこでも良いのだけれど」
「何でここに居るの!?まだ夜明け前なんだけど!?というか勇者一行との旅はどうするの!?」
混乱していた私は慌てて質問をいくつも投げ掛けますがレオ姉は涼しい顔――というよりも少しだけ誇らしげな顔――をして答えます。
「決まっているじゃない。エレナの行く先には私がついていかないと心配で夜も眠れないわ。それに、勇者たちにもきちんと話は通してあるの。さぁ、一緒に行きましょう?」
考えていた中で一番起きてほしくない事が起こりました。私と一緒に行きたいが為に駄々をこねて世界を救う目的を持った勇者一行に迷惑をかけるという暴挙。常識的に考えれば世界の命運がかかった旅とたった一人の悩みを解決する為の旅、どちらに力を入れるべきなのかは明白でしょう。ですが、目の前の彼女はそんなことはお構いなしに私情全開で全世界に迷惑を掛けようとしています。
私は拡縮能力こそ持っていますが5秒という短すぎる持続時間のせいでほとんど役に立ちません。それでも何とか
一番避けたいのは『私が付いて行った上で魔王討伐に失敗した』という結果に終わることです。勇者一行は人類でも選りすぐりの実力者4人からなるパーティです。そこに無能力同然の私が放り込まれたら何かしらよくないことが起きた場合『私なんかが一行に居たから』と目の敵にされるに決まっています。そうすれば万が一私が生き残ったとしてもその先に待っているのは全ての人々から
痛む頭を手で押さえ、私はレオ姉に進言します。
「レオ姉……言いたいことはいろいろあるけど、まずは勇者さんたちの所に案内して?事情を説明してどうにかするから」
両手を合わせて『もちろんよ!エレナが付いてきたら私いつも以上に張り切っちゃうんだから』と嬉しそうなレオ姉をよそに、私はどのように勇者さんたちに説明してお断りするか頭を悩ませるのでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます