第5話 蟲人

「正直、まだ何もかも分からないことだらけなんだけど。あなたに最初に聞いたこともまだ何も聞けていない気がするし。」


「そうなの? 今なら時間あるし、何でも答えるよ。」


「まず、ここはどこなの?」


「ここは裏の地球って言えばいいのかな? 私もそんなに詳しくは知らないんだけど、カミカクシや何かの拍子で開いた時空に入るとこの世界に来るらしいよ。ここには言語は存在しないし、意思疎通はできる。ちなみに、私は中国語でしゃべってるんだよね」


「え、そうなの? ずっと日本語が通じる国だとばかり……。あ、一番気になることを聞きたい。蟲人って何なの? ニーナさんも最初は大丈夫だろうって言ってたのに識別の門にはじかれたとたんに排除しようとしたし。」


「一番楽なのは、そういうものって思ってくれればいいんだけど、それじゃ納得しないよね? それにはまず虫について説明するよ。虫はもともとこの世界に居なかった生物なんだけど、ある時1匹の虫がこの世界に迷い込んだ。最悪な事に、その虫は生物を使って増殖するタイプの生物だったって事かな。私も最初は知らないから何とも言えないんだけど、それ以来ずっと虫と人が戦ってきたらしいよ。ちなみに、最初の虫はクローンで自己再生するらしくて、まだ生きてる」


「そんなの、すぐに人類なんて絶滅するんじゃないですか? どう考えても普通の人が勝てる相手じゃなさそうだし」


「確かにね。虫は弱いやつほど増殖が早く、強い奴ほどゆっくりなんだ。それから言ったらあのトンボは最弱もいいところね。でもね、実は虫すべてが人類を使って生殖するわけじゃないし、寿命の長い奴はあんまり生殖しないし、人類が絶滅したらあいつらも困るから虫同士でも戦ったりしてるみたい」


「虫についてはなんとなくわかりました。じゃあ、蟲人って何ですか?」


「蟲人は、虫に寄生されても自我が残った人たちの事だよ。この世界の住人はほぼ100%寄生されたら虫になる。でも、表の方の地球から来た私達みたいな転移者は完全に虫になる前に薬さえ飲めばほぼ虫にならないの」


「私たちは薬を飲みましたよね? なのに、なんで攻撃されたんですか? 意識もまだ人間のままです」


「虫にならなかった転移者は、それはそれで厄介な存在になるのよ。程度の差はあるけれど、虫と同じような技というか、魔法を使えるようになるんだ。人の知能を持った虫って、生身の人間からしたら虫よりも脅威に感じてもしょうがないかもね、私は蟲人だからさすがに人類の擁護までしないけど」


「魔法……あの火でトンボを焼いたやつですか?」


「そうそう、見てたのね。そっちの子なら使えるんじゃない? 結構浸食されてるみたいだし」


そう言われて千佳の方を見ると、千佳は少し悲しそうな顔をした。


「そうですね、今も背中が少しかゆいですが、確認するのが怖くて触れません。それに、何かこう、空気中に感じるものがあります」


「センサーまである蟲人だともっとはっきりと分かるらしいんだけど。私の感覚だと、その空気を集める感じというか、テニスボールをラケットで1秒くらい受け止めてる感じというか」


「空気を集める……うわっ」


千佳が両手で空気を集めるしぐさをすると、空気の球が目に見えるようになり、それが草刈り機のチップソーの様に回転してハクの方へ飛び出す。それをハクはジャンプで躱したが、後ろの壁がスッパリと切れる


「ちょっと! 危ないじゃない!」


「ご、ごめんなさい!」


確かに、これが人間に当たれば真っ二つになってしまうかもしれない。でも、私は全く空気が感じられないんだけど


「あなたは、まだほとんど浸食されていないようだから無理ね。ところで、あなた達の名前を聞かせてもらえるかな?」


「あっ、ごめんなさい!」


私と千佳は、ハクに自己紹介をし、疲れもたまっていたこともあり休憩する事にした

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