第3話 識別の門
「よし、皆の者集まれ、これより帰還する!」
「まだ敦美が見つかっていません!」
未希が女性に対して発言する。最低限の護衛を残して捜索してくれたみたいだが、学校内には居なかったようだ
「これ以上時間をかけるわけには行かない。もうそろそろ時空が乱れるぞ」
そう言っているうちに、校舎がジジジッとノイズが走ったようにブレる。女性にとってはこれが初めてという訳でもなさそうだ。私達があっけにとられている間に、校舎はジジジジジッとノイズがひどくなって消えた
「え……校舎内に居たら、もしかして元の場所に帰れた?」
未希がポツリとこぼした言葉に、何人か反応した
「まさか、俺達を帰さないためにここに出されたのか!?」
「いやっ! 元の世界に帰して!」
「静まれ!」
女性は地面を剣でドスンと叩く。その際、殺気と呼べるようなものが周囲を威圧した
「言い忘れていた。私はプロシェンという国の副騎士団長を任されているニーナ・フリッチュと言う者だ。この件については全て私が指揮をとる事になっている。今、あの建物に残った場合帰れたのではないか? と発言があったが、それはあり得ない。なぜなら、あれはもともと存在しないモノだからだ。たまたまお前たちが居た世界の建物を偽装して存在しただけの固まりに過ぎん」
「そんな……」
すでに終わってしまった事だが、建物内に居ても帰れなかったということは、今後似たような事に遭遇して帰ると言うのも不可能だという事だ。私達には情報が全然足りない、ここは大人しくニーナさんの指示に従うべきだと思う。
「皆、とりあえず落ち着こうよ。ここは危険かもしれないし、騎士団の皆さんと一緒なら安全だと思うよ」
クラスの中では比較的人気がある篠原(しのはら)君が皆をまとめる。帰れないと分かったショックから、皆も逆らう気力が無さそうだ
「では、転移を行う。この石は半径10m以内の生物をマーキングした場所に転移させる物だ。効果が効果だけに、使用に注意が必要なうえ、使い捨てになっているからできれば1度の使用で帰還したい。私を中心に集まってくれぬか?」
ニーナさんの周りにみんなが集まり、さらに範囲をきちんと10m以内に入れようと慣れた動きで他の騎士団員が円を縮める
「では、行くぞ。転移石、発動」
ニーナさんの掛け声とともに私達は光に包まれる。光が治まり、目を開けると床に魔方陣が描かれた小さな小屋だった。小さな小屋と言っても教室より少し狭いくらいだ
「お疲れ様です!」
待機していた騎士団員らしき男性が、ニーナさんに声を掛ける
「うむ、お前たちこそご苦労。全員ではないが、目的の転移者達を連れ帰ることに成功した。これより識別の門をくぐる。用意しておけ」
「はっ!」
騎士団員は敬礼をすると、どこかへ去っていった。ニーナさんの話の内容から推測すると、おそらく識別の門の場所へ向かったのだろう。何を識別するんだろう……?
クラスの皆もヒソヒソと会話をしているが、とりあえず安全な場所なのだろうと緊張が緩んでいるのが分かる
「準備ができました!」
「ご苦労、それでは皆の者、着いてきてくれ」
座って待機していた皆は、一人、また一人と立ち上がり、ニーナさんの後ろに着いて行く。場所的には私と千佳が一番後ろの方になった。ただ、最後尾はさっきの騎士団員の男性がついてきている
小屋の外に出ると、すぐに城壁が見える。城壁の向こうに見えるのは恐らく、一番高い建物であるお城だろう。ニーナさんに着いて行くと、城下町への入り口の前に鳥居の様な物が用意されていた
「この門をくぐって街へ入ってくれ」
みんなどうしようかと顔を見合わせていたが、率先して篠原君が門をくぐる。特段何も起こらなかったので、それに続いてぞろぞろと門をくぐる。最後に、私と千佳がくぐろうとする
「痛っ」
「あうっ」
私と千佳は何もないはずの場所で頭を打ち付けて弾かれる。さらに、すぐに周りの騎士団員が槍を私達に向けた
「……蟲人め」
「え?」
「やはり、間に合っていなかったか……。構え! やれ!」
ニーナさんの掛け声とともに、私達に槍が突き出された
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