うちの息子がすごい

カワウソくん

第1話 プロローグ

=三経ニュース=

日本経済界の巨星逝く


白岡一郎さん死去

 白眉商事名誉会長である白岡一郎さんが心不全により死去。94歳だった。

 戦後日本の復興に商社として参画し、衣食住だけでなく娯楽まで商品とし今日の日本を礎を築いた。ゲーム会社や、飲食業への投資家としても知られ、数多くの企業設立に携わり、経済界では氏の弟子を自認する企業代表が多数存在する。

 晩年は趣味人として生き、音楽や各種スポーツ、eスポーツの普及にも尽力した。

 政界からは国葬の提案もあったが、親族が固辞。家族、知人だけでの葬儀がいとなまれる予定となっている。

 偉大なる故人のご冥福をお祈り申し上げます。

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○ポルト・ランケウス


統一歴1296年3月14日 記


 宮廷で多忙な日々を送るうちに筆が遠のいていたが、久々に日記をつけようと思う。今朝、上官から内示をうけた。宮廷史家として非常に名誉なことにシーザーの史書の編纂に関してだ。


統一帝 シーザー・バルディウス・マーロ

神話期を終わらせた英雄


 このティラトスに生きる者で、この名を知らない者はいない。皇帝としてこの世界の礎を築いた歴史上最も人気のある英雄だ。


 統一歴前、領域主と呼ばれる魔物の長が率いる魔物の群れと、人間やエルフ、ドワーフなどの人族が対立していたとされる神話期。今とは異なり盤の目のように100の領に分かれた世界として描かれている。古い史書にはその世界にはいくつかの理があったとされている。


一つ 1領につき1体の領域主が生息している

一つ 人族は領域主を殺すことで領主となる

一つ 領主になることで1領につき1つの特産物、1つの特殊能力が領主権として与えられる

一つ 領主が死亡した場合、領主権は消滅する

一つ 領主権は領主の意思で禅譲することができる

一つ 領主になることで自領の各生産物の量が2倍に増える

一つ 領域主は死亡後10年で復活する

などなど


 あたかも盤上の遊戯のような理の数々。いや、この理のあった神話期をもとに今の遊戯ができたと言えるのだから、遊戯のようだと表現するのは語弊がある。神話期にはこのように遊びのような決まり事があったとされているのだ。


 シーザーはこれらの理に則り、すべての領域主を滅ぼし、全領を統一し、現在のティラトスを生みだした。シーザーがこの世界の生みの親として扱われるのはこのためだ。


 産まれた直後から治癒魔法を用い、宙を浮き、成長してからは最前線で異常なまでの力を振るい、領域主率いる魔物との決戦では地を覆う魔物の群れを剣の一閃で滅ぼす、などシーザーには耳を疑うような逸話や伝説が数多く存在する。


 後世の創作である可能性は高い。だが、シーザーは確かにこの世に存在していた。伝説に類似する何かを成し遂げたというのは事実であろう。


 シーザーに関しては様々な歴史家がこれまで史書を残してきた。諸先輩方の作品に類似するものを残す愚の骨頂を避けるため、自身の研究題材としても私が焦点を当てたいのは、英雄の父だ。


 父親の視点から書くことでシーザーの本当の姿が見えてくるのではないか。


 これまでの史書の表現はシーザーへの信仰が強すぎる、またシーザーの周囲の人間を軽視しずぎなのではないか。宮廷史家が雇い主の皇家を礼賛するのは致し方ない。が、過ぎた礼賛は時に事実を隠してしまう。


 みな忘れがちであるが、この世に最初の帝として君臨したのはシーザーの父、征武帝バルディ・ソリニウス・マーロである。


 傭兵からマーロの領主に成り上がり、シーザーに帝位を禅譲するまで、彼が50以上の領域主を討伐し、領内を発展させ、シーザーへと続くマーロの礎を築いていたのだ。ある意味ではシーザーはバルディの作り上げたものを継承したに過ぎず、統一の最終局面の美味しいところだけを奪ったとも言えるのだ。


 それだけではない。人材面で焦点を当ててみると、武神や剣聖、神の軍略と謳われたマーロの家宰キャベリなどの武人たち、文化面では食聖やギルドの創始者ナルド、食の補給者など、どの分野でも一人いれば世界が変わったと思われる英雄たちが示し合わせたかのようにマーロに集結し、バルディのもとに集ったのだ。しかも、そのほぼ全員がバルディからシーザーへの権力の移行に従っている。


 数多の歴史が示す通り、強力な権力者が最後に失敗するのが後継者への権力の委譲だ。後継者が一人に絞れず内乱が起きる。後継者のために優秀な側近を排除する。後継者が前任者の治世を乱す。優秀な君主ほど最後に失敗する例を挙げれば枚挙に暇がない。


 バルディはその難事を見事に成功させた。その事実だけでも彼が優れた統治者であった証拠になるのだ。


 誤解や批判を恐れずに言おう。統一帝の名に相応しいのはバルディである。


 これから編纂する史書がシーザー礼賛とも言える今の常識を覆すものになり、世間からの批判を浴びるかもしれない。皇家からの横槍が入るかもしれない。だが、そのようなことで筆を止めるつもりはない。


 難事業であることは覚悟の上だ。史書の編纂のため、各地を旅して周り、伝承や歌、口伝を収集しバルディの功績を書き記すつもりだ。


 狙い通りになれば、シーザーの功績を父親の視点から論じ多角的に語り、本当の功績を洗い出すことで、統一歴前の神話を歴史に落とし込むことが出来るはずだ。


 私の人生は残り20年、30年あるか分からない。人生をかけた事業になることだろう。後世の歴史家が私の史書をどう評するか知ることはできない。


 だが歴史に一石を投じる大作の予感にすでに心が昂っている。気持ちが抑えきれず、乱文になってしまった。明日から忙しくなるのだ。しばらく日記をつける暇もないかもしれないな。

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