第124話 旅立ち(2)


 最後に【剣】の〈勇者〉ツルギだけれど、簀巻すまきにされ、連れ去れて――

 いや、間違えた。ラニスと一緒に旅立ってしまった。


 本人は国に留まって女の子達から、ちやほやされたかったようだ。

 当然、ラニスが許すはずもない。


「〈姫〉が忙しいのだから〈勇者〉も忙しくするべきよ!」


 と愚痴ぐちっていた。


(あの二人は仲が良いのか悪いのか、よく分からない……)


 こと発端ほったんは、お城の爆破事件にさかのぼる。

 〈ザマスール教〉をはじめとする高位の神官。


 それに〈勇者〉の仲間になろうとする高ランクの冒険者。

 貴族とその護衛。彼らの多くは無事だった。


 けれど――あの事件は、それ以上に多くの犠牲者を出してしまった。

 救いがあるとすれば、高位の神官達が多く来城していた事だろう。


 生きてさえいれば、回復魔法による治療が間に合ったからだ。

 また高ランクの冒険者達が協力して、救助活動に当たった事もさいわいする。


 結果、あの規模の事故にしては『助かった人間の数は多かった』と言える。

 しかし問題は、その後の貴族達の対応だ。


 大臣を更迭こうてつしたばかりだというのに、今度はお城の崩壊。

 国内に裏切り者が潜んでいる事は、誰の目にも明らかだ。


 互いに人間不信になるのは自然な流れと言える。

 ある者は犯人探しに躍起やっきになり、またある者は保身に走る。


 当然、国王の求心力は急速に落ちた。

 加えて、一命を取りとめたモノの重症を負ってしまう。


 そのため国王はしばらく、人前に出る事が出来なくなっていた。

 次に白羽の矢が立ったのは、無事だった〈王子〉と〈姫〉だ。


 どちらに王位を譲らせるべきか、国は二つに割れる。

 また、ディアナ姫と結婚すれば『国王になれる』と考える人物まで現れる始末だ。


 現状、彼女の存在は国を混乱させるだけだった。

 建前としては――公務なんて面倒なのよ!――と言うのだろう。


 彼女は自ら身を引く事を選んだ。

 しかし、政治に利用されそうな〈勇者〉を連れ出す点、流石さすがと言える。


 また、ユーリアも一緒に付いて行ってしまった。普段は天然な彼女だけれど、今回〈魔族〉達が起こした事件について、責任を感じているのだろう。


 現状のまま放って置いても〈人族〉と〈魔族〉の間に修復不可能な亀裂が出来るだけだ。誰かがなんとかしなければならない。


(考え方としては立派だけれど……)


 ――そこに一切、ツルギの意思が反映されていないのがすごい。


 〈姫〉二人に拉致らちされる〈勇者〉とはなんなのだろう?

 『ロリモンクエスト』でも、そんな〈勇者〉見た事ない。


 くして、ロープでグルグル巻きにされたツルギ。

 彼はラニスとユーリアと共に、世界を救うため、旅立ったのであった。


(当然、話はここで終わらない……)


 行方不明になった〈姫〉を探すため、お城では冒険者を募集しているらしい。

 何故なぜか申し込んだ訳ではないのに、僕がその一員メンバーに組み込まれていた。


(謎だ……)


 マルガレーテさんに事情を確認すると――〈冒険者ギルド〉としては、ある程度『高ランクの冒険者』を〈姫〉の探索に参加させる必要があります――との説明を受けた。


 事前に言って欲しい所だけれど『ロリス教徒』あつかいの僕は、そういう会議では名前が上がらないらしい。ギルド内の暗黙のルールという奴だ。


 僕に承諾を取っていては――間に合わない!――という事もあり、事後報告となってしまったらしい。勿論もちろん、その事については頭を下げて、謝ってくれた。


 しかし〈姫〉の探索という理由が出来たのも事実だ。

 〈冒険者ギルド〉からの依頼で世界を旅する――という建前が出来た。


 マルガレーテさんも、そこまで考えての行動だ。

 完全に納得した訳では無いけれど、僕は名前を貸す事にする。


 やはり僕はどうあっても、あの三人と『これからも関わっていかなければならない』ようだ。



 †   †   †



 〈勇者〉達から遅れは取ったけれど、僕も旅立つ時が来た。本来なら貴族の空きが出た事と、活躍が合わさり、爵位の一つでももらっていたのだろう。


 良くも悪くも、国がゴタゴタしている現状では、迂闊うかつに爵位など与える訳にも行かない。


 僕としても派閥争いに巻き込まれたくはない。それに土地の管理が面倒な上、この国に縛られる事になる。当然、要請があったとしても遠慮する。


 僕もラニスを見習って、さっさと脱出――いや、旅に出るべきだろう。

 セシリアさんを始め『ロリス教徒』の信者は僕に留まって欲しそうしていた。


 けれど、メルク達を再び成長させる必要がある。

 いては『ロリライブ』のためだと言えば、こころよく送り出してくれるだろう。


 またウラッカの会社の方も順調なようだ。

 今回の事件で、当分の間は仕事に困る事はない。


 ガイヤーン達三人組も謎のカリスマ性を発揮している。

 『類は友を呼ぶ』というヤツだろう。ガラの悪い連中を取り仕切っていた。


 ルイスは今回の事件を機に、貴族が少なくなっため、正式に爵位を得たようだ。


(これでレイア達の暮らしが良くなるといいのだけれど……)


 彼には騎士団や冒険者時代の仲間が多くいる。

 きっと上手くやっていくだろう。


 トレビウスはバルクスさんと和解出来たようだ。

 <ロリス教>における彼の役割は『ロリ』の伝承を集める事にあった。


 僕が『ロリの紋章』を得た事で、再び旅へ出てしまったらしい。

 人型兵器ロリガインも国に帰ったようだ。


 人々からは強力な兵器と見做みなされているため、なにやら国家間で取り決めがあるらしい。僕は自分で考えていたよりも、大変な事に首を突っ込んでいるようだ。


(やはり、早急にこの国を出た方がいいかも知れない……)


 けれど、最後に一つ――

 彼女の事が気掛かりだった。

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