第115話 ヨロイ(1)


 ――ヨロイ視点――


 上空でなにかが光った。

 恐らく、ハナツが魔法を使ったのだろう。


 一度や二度ではない。何度も何度もかがやく。

 それは彼女が戦い続けている事を意味する。


「オレも負けてはいられないな……」


 自分に言い聞かせるようにオレはつぶやく。

 この前まではこんな性格ではなかった。


(そもそも、戦いになど興味がない……)


 そんなオレが、今は街の広場に居る。

 全裸で中腰になりりきむ。戦う準備をしているのだ。


 ――本当に、自分はどうかしている。


(このオレが誰かを守るために、この能力ちからを使う日がくるとはな……)


 内心、笑えてくる。


「こ、こんな場所でウ〇コしないでください!」


 とヤンカがわめいた。


なにを勘違いしているのやら……)


 ――これはオレにしか出来ない戦い方だ!


 先程から、肌を突き刺すような強い魔力を感じる。

 どうやら、敵は近いようだ。


 急がなくては――


「うおぉぉぉぉぉっ!」


 オレは全裸で声を上げる。

 何故なぜかヤンカが悲鳴を上げたが、気にしない。


 どうやら、街の人々もこっそりとのぞき見ているようだ。

 視線を感じる。明らかに軽蔑の眼差しだった。


 だが、オレは負けやしない。

 ここで<魔族>を倒さなければ、皆の苦労が無駄になってしまう。



 †   †   †



 オレの家は裸族だった。

 外では常識人をよそおってはいるが、家の中では家族全員裸だ。


 当然、友達を家に上げる時は注意が必要となる。

 オレの友達が家に来ている時、姉は裸で廊下をウロウロしていた。


 姉の友達が来た際にオレがそれをやると、後で姉にボコボコにされる訳だが――


(世の中、理不尽な事が多い……)


 そんな理由もあり、中学生になるとオレは友達を家に上げなくなった。

 自分が変だという事は重々承知している。


 それでも止める事は出来なかった。

 いくら友人でも、真実を知れば距離を置き、バカにしてくるだろう。


 オレは家族の事をバカにされるのが一番、許せなかった。

 結果、友達との付き合いも減る。


 そんなオレが家で一人、遊べるゲームにまるのは、自然な流れだろう。

 そして高校生になり、ギャルゲーに出会った。


 ゲームの中の世界には全てがある。恋愛や友情、泣いたり、笑ったり。

 エロスは勿論もちろんだがうつ展開や暴力、ギャグにパロディ――オレは夢中になった。


 また、ゲームの話さえしていれば、友達とも仲良く出来たのだ。

 話題のゲームをチェックするのは至極しごく、当然と言える。


 そんなオレがなん因果いんがか、異世界に召喚されてしまうとは『事実は小説よりなり』というヤツだろう。


 今まで自分の欲求が抑圧よくあつされていたオレは、この世界で自分を解放する。


 ――そして、失った。


 どうやら異世界であっても、人前で全裸はダメらしい。

 絶望にひしがれるオレの前にあいつらが現れた。


 ツルギスケベアスカロリコンだ。

 この二人もまた、異世界に来て自分をつらぬく<勇者>だったのだ。


 特にアスカロリコンは自分の性癖をさらけ出しながらも、人々から理解されて行く。

 アスカロリコンにあって、オレにないモノとはなんだろう。


 答えはアスカが教えてくれた。

 オレは『ただの全裸』でしかなかったのだ。


 しかし、アスカは『いいロリコン』だった。

 オレも人々から認められる『いい全裸』にならなけばいけない。


 ――そして今日、その時が来た。



 †   †   †



「<魔族>を誘導したぞ!」


 と男が広場に駆け込んで来る。

 たしか――『ガイヤーン』といっただろうか?


 アスカの事を兄貴あにきと呼んでいたので覚えている。

 他に二人居る事から間違いない。奴らは三人組だった。


「すまん! もう少し掛かる――時間をかせいでくれ!」


 オレの切実な願いに、


「分かった! 任せておけ……」


 と彼はこころよく引き受けてくれる。


「紙ですか⁉ 紙ですよね?」


 とヤンカがうるさい。

 目の前に現れた<魔族>は2メートルを超える巨漢だ。


 今更、『神』にいのった所で意味などないだろう。

 それよりも、あの三人組――オレの言葉を信じてくれる――というのか?


 <勇者>とはいえ、オレは全裸だ。


 ――いや、違う!


(あいつらが信じているのはアスカだ……)


 アスカは――チート能力など持ってはいない――と言っていたが、そんな事はない。人とヘンタイとをつなぐという、特別な能力ちからがある。


 それは人間だけにとどまらなかった。

 実際に<魔物>モンスターとも心を通わせている。


「来てやったぞ……<勇者>」


 と言う<魔族>に対し、


「あれをやるぞ! マッサマン、オースワン」


 とガイヤーン。その台詞セリフに、


「「おうっ!」」


 二人が呼応する。ツルギやアスカから聞いていた<魔族>の肌は青だったが、目の前にいる<魔族>の肌はだ。


 全身が筋肉で引き締まった、いい身体をしている。

 オレも筋肉はある方だが――高校生にしては――という程度。


 相手の<魔族>の方が『質』、『量』共に上のようだ。

 武器を持っていない事から、格闘を得意とするのだろう。


 素早そうには見えないので、パワー型と見るべきか――


「フッ、ニンゲンごときがなにをやろうとも遅い!」


 と<魔族>の大男。

 自分がこの街に入った時点で『勝利は決まった』と思っているのだろう。


 わざとガイヤーン達が動くのを待っている。

 彼らを止めるべきだろうか――いや、信じよう。


 何故なぜか、そう思えた。


 ――これがアスカの能力だ。


 そして、彼らは動いた。


「ロリっモンスターズアタックを掛けるでち♥」


 とガイヤーンが可愛らしく決める。なんたる気色悪さだ。


「行くでち!」「分かったでち!」


 仲間の二人もそれに続いた。

 突如とつじょとして始まる奇怪きっかいな動きに流石さすがの<魔族>も困惑する。


 ガイヤーンは剣を抜くと、それで斬りつけるのか――と思わせた。

 しかし実際は、勢いを付けて<魔族>の股の間をくぐっただけだ。


 なにをしたいのか分からない。

 これには<魔族>も唖然とする。


 身体の硬さには自信があるのか、腕で防御ガードをしていたようだが、それを下ろしてしまう。しかし、油断大敵だ。


「食らうでち!」


 とマッサマンの槍による攻撃が防御ガードを解いた<魔族>の顔面を直撃した。

 同時に、


「配管工事!」


 ガイヤーンが<魔族>の尻に剣を突き立てる。

 完全に<魔族>の体勢が崩れた所へオースワンが鉄槌ハンマーを叩き込んだ。


 <魔族>は吹っ飛び、広場に面した家壁いえかべへと激突した。

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