第114話 ハナツ(2)


 ――ハナツ視点――


 それはあたしの魔法の意味を知った日の事だ。

 仲間がいる場所では使えない。


 その事実に愕然がくぜんとした。

 でも――


「ハナツ、この世界の魔法をどう思いますか?」


 ロリガインさんが質問する。

 意味が分からず、あたしは――さあ?――と首をかしげた。


 そんなあたしに、


「発展途上にあります!」


 とロリガインさん。


「<魔法使い>の強みを生かすのなら……」


 空中から強力な魔法を撃つべきなのです!――そう力説する。


「ハナツ……貴女あなたはこの世界で最強の<魔法使い>になるかも知れません!」


 その言葉にあたしは――信じられない――という表情を返す。

 ロリガインさんはなおも続ける。


「救世主殿――アスカ殿はすでしめしましたよ」


(アスカ君が?)


 首をかしげるあたしに、


避雷針ひらいしんというのでしたね……」


 <ザマスール教>の神官に対し、直撃させました――と少し楽しそうに語る。

 『ロリス教徒』という事で、何かしら思う所はあるようだ。


「あ、あれはわざとじゃ……」


 言い訳するあたしに、ロリガインさんは首を横に振る。


「条件がそろえば、貴女あなたの魔法は的確に相手を狙えるのです!」


 もっと、自分に自信を持ってください――ロリガインさんはそう言ってこぶしを握った。


(自分に自信を持つ?)


 そんな事を言われたのは、生まれて初めてのような気がする。


流石さすがはアスカ殿です!」


 身体を張り、証明していたのですよ――ロリガインさんが教えてくれる。


貴女あなたの魔法で自分は傷つかない事を……」


 ――なるほど、そうだったのか!


 彼は身体を張って教えてくれていたのだ。

 人を信じるという事は、自分も傷つく覚悟をする事だと――


 結果、あたしを利用する事を考えていたセヴァールという神官は倒れた。

 でも、アスカ君は身を挺して、あたしに可能性を教えてくれていたのだ。


流石さすがはアスカ君だ♥)


「ダメですね、あたしは……」


 自分の事ばかり考えている。けれど、


「そんな事はありません」


 とロリガインさん。


「少なくとも、アスカ殿はそんな風に考えてはいませんよ」


 その言葉だけで、あたしの心に勇気がともる。



 †   †   †



 空をおお<魔物>モンスターの群れ目掛け、あたしは魔法を放った。

 次々に黒焦げになって<魔物>モンスターが落ちて行く。


 そんな中、あたしは<雷>の魔法で球体を複数作る。

 そして、それを自分の周囲に展開した。


 <雷>の魔法は強力だ。

 でも、それゆえ何度なんども連発は出来ない。


 弱い魔法も同時に併用するのが『戦いの基本だ』とロリガインさんに教えられた。

 今、使っている【サンダーボール】の魔法は本来は攻撃用だ。


 <雷>の球体を相手につけるモノで、普通はこんな使い方はしない。

 しかし、周囲に展開する事で――攻撃にも防御にも使える――という訳だ。


 こんな事が出来るのも、あたしが【魔法】の<勇者>だからである。更に、この【サンダーボール】の魔法は【サンダーランス】の魔法にも変換が出来た。


 球体を槍の形に変えるだけなので、言われてみれば、そう難しくはない。

 同時に、これで中距離の相手にも対応する事が出来るようになった。


(あたしって、やっぱり最強かも……)


 つい調子に乗り、そんな事を思ってしまう。

 残りのMPに注意して、魔法の反射と吸収――


 そして<雷>に耐性のある敵との戦いをさけければ、一人でも十分に強い。

 後は苦手な『アレ』が出て来なければ、ほぼ負ける気がしなかった。


 そこへ――プゥ~ンッ!――と耳障みみざわりな虫の翅音はおとが聞こえる。

 瞬時に鳥肌が立った。


 高速で移動してくる謎の敵影――いや、問題はその姿だ。

 蠅人間ともいうべき姿のそれは、


「よくも吾輩の手駒達を……『ロリアハン』壊滅支部四天王の一人『軍隊の――」


 なにしゃべっているようだったけれど、あたしはそれ所ではない。


「いぃやあぁぁぁぁぁーっ!」


 悲鳴と同時に【サンダーランス】を発動。

 周囲に展開していた【サンダーボール】をすべて発射してしまった。


 更にアスカ君からもらった『MPポーション』でMPを回復。


(本当は大切にとっておくつもりだったのに……)


 そんな事を考えるひまもなく、魔力を<雷>へ変換して放出する。

 周囲を感電させると同時に折角、回復したMPがなくなってしまった。


 そばに居たのがロリガインさんだったから良かったモノの――

 他の人だったら大変な事になっていただろう。


 そんな訳で、あたしはまだ修行が必要らしい。

 一方、黒焦げになったそれは下へと落ちて行く。


(人間サイズの虫の姿など、確認したくもない……)


「落ち着いてください! ハナツ……」


 とロリガインさん。ロリガインさんにはすでに説明はしている。

 あたしは昔、耳の中に虫が入ってきた事があった。


 それ以来、虫が苦手なのである。

 虫の翅音はおとが聞こえると、ついつい耳をふさいでしまう。


 流石さすがに普段はここまで取り乱す事はない。

 けれど、相手は巨大な昆虫だ。


 見たくもない関節部分や呼吸のために動く腹部まで、ハッキリと見てしまった。

 ハァハァ――と息を切らせ、涙目のあたしに、


「どうやら、MPを使い果たしたようですね」


 とロリガインさん。続けて、


「残りの敵はワタシが相手をするとして……」


 <ロリスタル>の回収が面倒ですね――とまるで溜息をくように言った。


(そう言えば、そんな事をアスカ君に頼まれていたっけ……)


 あたしは恐る恐る、地上を見下ろす。

 するとそこには、黒焦げの死骸しがいが山のように転がっていた。


 この中から、あの<魔族>の死体を探すのは骨が折れそうだ。

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