第97話 宵闇の森(9)


 僕は『この世界』の事を考える。


 ――とは言っても所詮しょせんはゲームの知識だ。


曖昧あいまいな設定が多いんだよな……)


 ゲームをリメイクするたびに、新しい物語イベントが追加されている。

 本編には、あまり関係ない物語イベントも多い。


 例えば<精霊界>へ行くイベントだ。

 そこで主人公プレイヤー達は強力な魔法を手に入れる。


 上級魔法の更に上――『究極魔法』や『極限魔法』だ。


(後付け設定なので、あまり深く考えない方がいいだろう……)


 当然、ゲームのクリアには関係ない。

 ただ習得出来れば、楽にゲームをクリア出来るようになるだけだ。


 別に『魔法を手に入れよう』という話ではない。


 ――何処どこまで僕のゲーム知識が通用するのか?


 それが問題だ。

 今は<精霊界>の名前を出した。


 けれど、僕達が今る世界は<人間界>だ。

 これは<下界>や<地上>とも呼ばれている。


 <天界>や<魔界>があるためだ。


 ――作品によっては<幼女界ロリスガルド>と呼ばれていたりもする。


 通常はゲームの後半にならないと、別の世界へ行く事はない。


(それが、こんな序盤で行き成り<魔界>とは……)


 ――ゲームバランスの崩壊ほうかいうたがってしまう。


 また『召喚魔法』や『転移魔法陣』もある。

 このまま物語ゲームを順当に進めるのなら『別の世界』とは必ず関わるはずだ。


 <幻獣界>や<妖精界>にも行く事になるだろう。


 ――変わりだねでは<夢の世界>だろうか?


 これは眠っている人物を『目覚めさせる』と消えてしまう。

 よくある『お約束イベント』だ。


 ゲーム内では基本的に『別の世界』へ干渉する事はない。

 世界を渡るのは『主人公プレイヤー達だけ』だからだ。


 ――しかし、現状は違う。


(こんなにも早く<魔族>が侵攻を開始しているとは……)


 最初は<ハードモード>のため――攻略に時間制限がある――と考えていた。

 しかし<勇者>は召喚されていたにも関わらず、足止めを食らっている。


(どうやら、ゲームと同じだと思わない方が良さそうだ……)


 それに<勇者>が三人も居る。

 すでに僕の知っている物語ゲームとは掛け離れていた。


「兄さん、大丈夫?」


 とイルミナ。僕を心配してか声を掛けてくれる。

 どうやら、自分の考えに没頭ぼっとうしていたようだ。


「ゴメン……」


 僕は一言げると、


「そろそろ目もれてきたし、移動しようか?」


 とみんなうながした。今度は僕が先頭を歩く。

 ユーリアの事はメルクに頼んでおけば大丈夫だろう。


 道はないけれど、なるべく歩きやすい場所を通る。


なにを考えていたのですか?」


 とはラニスだ。いつの間にか、僕の横に並んでいた。

 後方のツルギを見ると、ルキフェやアリスに肩車をしている。


 どうやら、なつかれているようだ。


(子供と波長が合うのかな?)


 イルミナはメルク同様、ガネットの手を引き最後尾を歩いている。


(これなら、会話を聞かれる事はなさそうだ……)


「……」


 僕はあごに手を当て、少し考えると、


「<魔族>はどうやって、この世界に来ているのか?」


 ですよ『お姫様』――と小声でささやく。

 ラニスは――クスリ♪――と笑うと、


「やはり、バレていましたか……」


 と微笑ほほえんだ。

 どうやら彼女としても、僕に接触したかったらしい。


(きっとウラッカが『変な報告した所為せい』だろう……)


 追及ついきゅうあとでするとして、


「僕の場合は師匠ドラゴンによって<異世界ちきゅう>から召喚されました」


 <勇者>達はどうやって、召喚されたのですか?――と質問する。


「時折、この世界には<異世界>より漂流物が来るのですが……」


 それらを媒介ばいかいに<聖域>で召喚を行います――ラニスは答える。


「つまり、共通点は魔法で呼び出してもらう事……」


 そんな僕の言葉に、ラニスはおどろいた表情をしつつ、


「やはり、この世界の誰かが<魔族>を呼び出している……」


 とつぶやいた。僕もその考えに辿たどり着く。


「確証はありませんが……」


 僕は口に出してみたけれど、状況は『そうだ』と言っている。

 二人の人間が同じ考えにいたったのが、その証拠だろう。


 ――<魔族>の世界を創りたいのか、<人間>を滅ぼしたいのか。


「目的は分かりませんが……」


 何者なにものかが意思を持って、この世界に干渉かんしょうしているのだろう。

 ラニスは不安な表情をする。


 <姫>といっても、年齢は僕と同じか、それより下だ。


(無理もないか……)


 僕は内心、溜息をく。そして、


「召喚されているのであれば……」


 と一つの可能性を提示する事にした。続けて、


「<魔族>を倒すよりも『召喚者サモナー』を倒す方が楽なのかも知れません……」


 と言った。


(これで少しは楽になってくれるといいのだけど……)


 ラニスは何故なぜか笑いをこらえる。


 ――面白い事を言ったつもり無いのだけれど?


「失礼――」


 彼女は謝ると、


「やはり、ウラッカの言っていた通りの人ですね」


 と微笑ほほえんだ。


(『ニンジャ』の話じゃないよな……)


 僕は少し不安になる。

 一方、ラニスは真面目な表情をすると、


「決めましたわ!」


 と両手を合わせるように叩き、僕を見詰める。

 その目は悪戯いたずらを思い付いた子供のようだ。


 彼女は小声で、


「『ロリアハン王国』の姫・ディアナとして命じます!」


 <魔族>を召喚している人物を特定し、暗殺するのです――とげた。


「断ると『死刑』?」


 冗談半分で確認すると『ラニス』――いや『ディアナ姫』は無言で微笑ほほえむ。


「怖いよ!」


 思わず突っ込んでしまった。


(――というか、やらないと人類が滅ぶのか……)


 どういう訳か、厄介事は僕のもとに集まってくるらしい。


「報酬は『ウラッカ』を差し上げます♥」


 とディアナ姫。なにやらすごく楽しそうだ。


「いや、勝手にそんな事を決めたら、ウラッカも困るでしょう?」


 僕の返答に、


「えっ⁉ 喜ぶと思いますけど……」


 とおどろく。いったい、どういう思考回路をしているのだろうか?

 王族は理解出来ない。


 ただ断るにしても、また『変なモノ』を押し付けられそうだ。


「分かりました――受け取ります」


 仕方なく僕は答える。

 まぁ♥――と『お姫様』は頬に両手を当て、顔を赤くするのだった。


 なんだか、とんでもない事になってしまった。

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