第93話 勇者(9)


「あっ、そうだ!」


 ハナツと目が合った僕は思い付く。

 なんです♥――と嬉しそうな彼女。


「冒険の前に、ハナツの実力を知っておきたい」


 と僕はげる。『王子を黒焦くろこげにした』という【魔法】。

 それを確認しておく必要があると思った。


 飛行形態ロリガインに乗って、ハナツが空から【魔法】をつ。

 そうすれば――<勇者>が戦った――という体面たいめんたもてるだろう。


 少なくとも、レベルの低いツルギ達の安全を確保する事も出来るはずだ。


「確かにな……」


 とはツルギ。ハナツに対して、彼は珍しく慎重なようだ。


(まぁ、目の前で人が黒焦くろこげにされたのであれば無理もないか……)


「一緒に行動するのは危険だろう」


 とヨロイもうなずく。

 二人が言うのなら、僕も慎重になった方がいいだろう。


(状況によっては、ハナツを連れて行くのは止めた方がいいかもな……)


 当の本人はずかしそうに――モジモジ――としている。


「取りえず、そこの岩に向かって【魔法】をってもらってもいいかな?」


 僕のお願いに、


「ええと……」


 と【魔法】を使う事をしぶるハナツ。

 一方、ツルギ達は、


「待て待て! 離れるから、ちょっと待て!」


 と駆け足で距離を取った。

 ヨロイもヤンカさんの手を取り、一緒に駆け出す。


 ラニスがメルク達にも逃げるようにうながした。

 僕を心配しているのか、逃げる事を躊躇ちゅうちょするメルクに、


「危険なようでしたら、ワタシの後ろに隠れていてください」


 と人型兵器ロリガイン


(どうやら、僕も逃げた方が良さそうだな……)


 距離を取ろうとする僕。しかし、


 フッハッハ!――とイケメン神官。


怖気おじけづいたのですか? 『ロリス教徒』……」


 そう言って何故なぜか勝ちほこる。


 ――この人はなにを言っているのだろうか?


 人の忠告は素直すなおに聞いた方がいいと思う。

 しかし、相手をしなければ<ロリス教>の面子めんつに関わるだろう。


 それはセシリアさんに迷惑が掛かる事につながる。


(まぁ、彼女は怒らないだろうけど……)


 ――単純に僕が嫌だった。


 仕方がないので、杖をかかげ立ち止まる。ハナツは<雷>の【魔法】を使うはずだから、こうすれば僕の杖に落ちるだろう。すると、


「フンッ!」


 鼻息をあらくして、イケメン神官も僕の真似まねをした。

 彼の方が背も高く、金属製の杖だ。


 ――僕と同じ考えなのだろうか?


 勝ちほこったように笑みをたたえている。


(だから何故なぜ、張り合うのだろうか?)


 僕は危ないので、メルク達に離れているように指示を出した。

 悪いけれど、人型兵器ロリガインにはメルク達の盾になってもらう。


 本人にとっても、それが本望ほんもうのようだ。

 喜んでいるように見える。


「おいおい……」


 とツルギ。彼を筆頭ひっとうに、全員が僕達の心配していた。

 なんだか、引くに引けない状況だ。


 ハナツはそんな空気に飲まれたのか、


「み、み、み、見ていてくださいね!」


 明らかに緊張した面持おももちで杖をかかげる。


(うん、不安しかない……)


 正直、彼女が「無理です!」と言い出す事に期待していた。

 僕は素早く、地面に杖を突き立てると後ろに飛び退かがんだ。


 ハナツは僕に対して背を向けていたので気付かない。

 しかし、その様子を見ていたイケメン神官は唖然とする。


(いや、だって危ないんだよ……)


 ――絶対、こちらに落ちてくるはずだ。


 当然、その予感は的中する訳で、


「サ、サ、【サンダーボルト】ッ!」


 ハナツの言葉と同時にかかげていた杖が光った。

 目がくらむような発光エネルギーと共に【魔法】が発動する。


 ズドンッ!――と雷が落ちる。

 落ちた場所はイケメン神官だ。


「フゲゲゲゲェッ!」


 明らかに人間が生きて行く上で発する事のない奇声きせいを上げた。

 イケメン神官が黒焦ころこげになる。


 お供の二人があわてて駆け寄った。


「ヤンカさん! 回復を――」


 僕の言葉に茫然ぼうぜんとしていたヤンカさんが反応する。


「わ、分かりました!」


 そう言って、急いでイケメン神官に駆け寄ると回復魔法を使用した。

 なんとか一命は取り留めたようだ。


 流石さすがは高位神官――と言った所だろうか?


「お、おのれ――『ロリス教徒』……」


 と何故なぜか僕が逆恨さかうらみされてしまう。


「安静にしてください! ちゃんとした治療をしないと……」


 貴方あなた達『セヴァール』様を神殿へお連れして!――とヤンカさん。

 お供の二人はその言葉にしたがい、イケメン神官を街へと連れて行く。


 ハナツの冒険仲間パーティーは全滅してしまったようだ。

 わざとではない――と言ったのは本当のようで、ハナツはオロオロとしている。


「確かに威力はある……」


 僕の言葉に、


「どうやら、それゆえに制御が出来ないようですね」


 と人型兵器ロリガイン

 前方ではなく、後方に居た仲間に【魔法】が当たるのは問題だ。


 いくら強力な【魔法】が使えたとしても、これでは一緒に戦えない。


「ロリガイン……」


 僕は人型兵器ロリガインに声を掛ける。


なんですか?」


 少し嬉しそうに反応した。ちょっと犬っぽい。


(かなりの大型犬だけど……)


 僕は内心、苦笑しつつ、


「悪いけど、ハナツ――【魔法】の<勇者>の指導を頼めるかな?」


 とお願いする。

 アルティさんなら【魔法】の制御コントロールはお手の物だろう。


 人型兵器ロリガインの中に居れば【魔法】による被害ダメージもなさそうだ。


「【魔法】――じゃ無かった……」


 【科学】の神髄しんずいを教えて上げて――と僕は言い直す。

 すると、なに勘違かんちがいしたのか、


「なるほど、ワタシにお願いしたい事とは『それ』でしたか!」


 お安い御用です!――と人型兵器ロリガインは胸を張る。


(そう言えば、そんな事を言った覚えがある……)


 人型兵器ロリガインは腕を伸ばすと、ハナツをつかんだ。

 突然の出来事に、


「ほへ?」


 と間抜けな声を出すハナツ。

 しっかりとつかまれているため、身動きが取れず、ジタバタする。


 そんな彼女に、


「頑張ってね」


 と僕は声を掛ける。


「こいつぁ、いいや!」


 とツルギは笑った。


「確かに、現状は付いて来られても迷惑だ」


 とはヨロイ。


「しょ、しょんな~」


 とハナツは情けない声を出す。

 だが、自分でも役に立たない事は理解しているのだろう。


 必要以上に抵抗はしなかった。

 ラニスもえてなにも言わない。


 人型兵器ロリガインは、


「心配りません!」


 発達した【科学】は【魔法】と見分けがつきませんから!――と発言した。


(いや、そもそも【魔法】だけどね……)


 なんの説明にもなっていない。


(う~ん、出発前から冒険仲間パーティーメンバーが半分になってしまった……)


 僕は悩んだけれど――仕方がない――とあきらめる事にした。

 かくして、人型兵器ロリガイン達に見送られ、僕達は出発する。

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