第88話 神殿都市ファーヴニル(12)


 もうれた――とは言えない。

 けれど、神殿都市ファーヴニルへの道程みちのりは苦ではなくなっていた。


「メルクも大分だいぶ、歩くのが早くなったね」


 そんな僕の言葉に、


「うん!」


 と彼女は力強くうなずき、


「もっと大きくなって、お兄ちゃんの役に立つね!」


 嬉しい事を言ってくれる。そんなメルクに、


「フフンッ♪ アタイを見習って頑張るのでち!」


 何故なぜかルキフェが上から目線で言った。


「笑止」


 とはイルミナ。


「見習う所なんてない!」「な、なんでちと!」


 そう言って二人は追いかけっこを始める。


(困ったモノだ……)


 アリスが一緒になって走りたがって、うずうずしている。

 そんな彼女の手をメルクがしっかりと握っていてくれた。


 やがて、僕達は神殿都市ファーヴニルに着く。

 ぐに『ヨージョ神殿』へと向かう事にする。


 朝のため、まだ人通りも多くはない。そんな大通りを歩いていると、


「おっ! アスカの兄貴じゃねぇですかい!」


 と例の三人組に出会う。声を掛けてきたのはガイヤーンだ。

 どうやら、清掃活動をしているらしい。


(感心、感心……)


 適当に挨拶あいさつを交わすと、


なにやら、ギルドの方があわただしいみたいですぜ!」


 とガイヤーンが僕に耳打ちする。


「こういう時は大抵、要人がギルドに顔を出してる時でさぁ……」


 今日辺り、来てるかもしれやせんぜ――と教えてくれる。

 きっと帰ってきたレイアが、昨日の内に報告してくれたのだろう。


 例の森の調査に国が動いてくれたようだ。


「分かったよ、ありがとう!」


 気を付けるね――と僕はお礼を言って、その場を後にした。


(ギルドの動きは気になるけれど……)


 今は詮索しても仕方がない。僕達は神殿へと向かう。

 神殿に着くと、セシリアさんが出迎えてくれた。


「アスカ君、メルク様達も――ようこそ『ヨージョ神殿』へ♥」


 おはようの挨拶あいさつを済ませ、僕は早速、会議室を借りる事にする。

 ずはセシリアさんに『ロリライブ』で使う『応援グッズ』を見てもらった。


「あらあら……この絵、可愛いですね♥」


 とセシリアさん。トレビウスが着ていたシャツをヒントに、デフォルメしたメルク達の絵が印刷されたモノだ。


「お兄ちゃんが描いたの!」


 とメルクが元気に答える。


あるじにしては、まぁまぁでちね」


 上から目線のルキフェ。


(昨日は――カワイイでち!――と喜んでいたクセに……)


「<コウモリ>のは売れ残りそう」


 そして一番人気はボク――とイルミナ。


「そんな事ないでち!」


 再び、ルキフェと言い合いになる。


(やれやれだ……)


 セシリアさんは、そんなルキフェ達のり取りを見て微笑ほほえんでいた。

 ふと目が合う。


 僕はずかしくなり、視線をらしてしまった。彼女も同様だ。

 やはり先日のり取りが尾を引いている。


 ――どうやら、彼女の胸をさわる先約を僕がしているらしい。


(冷静になって思い出すと、なにやら気不味きまずい……)


 セシリアさんは『自分の方が年上』という事で先に気を取り直したようだ。

 コホンッ!――と咳払せきばらいをすると、


「トレビウスさんにも、意見を聞きますね!」


 と微笑ほほえむ。確かに、この手のシャツは彼の方が喜びそうだ。


(取りえず、セシリアさんの方は問題なさそうだな……)


 僕は彼女を通して、トレビウスにも協力を頼む事にした。

 衣装の件については、セシリアさんに任せれば大丈夫なようだ。


 当面、僕達はレベルアップにはげむ事にする。

 神殿を出る前に――救世主殿!――とアルティさんに捕まった。


 モジモジとしている。


「どうしたんですか?」


 僕が優しく聞いてみると、どうやら『一緒に冒険したい』との事だった。


人型兵器ロリガインの実力を見せたいのかもな……)


 僕も興味があったので快諾かいだくする。


「でも僕達、これからギルドに行く予定なんです」


 時間が掛かってしまうかも知れません――と説明した。

 アルティさんは少し考えると、


「では、街の外で待っていますので、後で合流しましょう!」


 なん時間でも待ちますよ!――元気に答える。


「そんなに待たせませんよ」


 僕が苦笑すると、


「デートの約束みたいです……」


 彼女は――ボソリ――と小声でつぶやいた。


なにか言いました?」


 よく聞こえなかったので再度、僕は確認する。すると、


「い、いえ! なんでもありません!」


 とアルティさん。あわてて首と手を振り否定する。

 その顔は、何処どこか嬉しそうに見えた。


(余程、楽しみなのかな……)


 自慢したいのだろう。人型兵器ロリガインの性能とやらを――

 取りえず、二時間後に神殿都市ファーヴニルの外で会う約束をした。


 ギルドでの用事が早く終わった場合は、僕が神殿に戻ればいいだろう。



 †   †   †



 <冒険者ギルド>に着くと早速、ウラッカに捕まる。


「待っていてくれたの?」


 まだ冒険者が顔を出すには早い時間だ。依頼も出揃でそろってはいないだろう。

 僕としてはいている方がなにかと都合がいい。


 そのために早く来たのだけれど、


「せ、先輩の事はいつも待っていますよ♥」


 朝、起こしに行きたいくらいです!――とウラッカ。

 僕の質問に答えた後――ん?――と首をかしげ立ち止まると、


「で、ではなくてですね!」


 と急にアタフタし始める。


(カワイイ……)


 落ち着いて――僕は彼女をなだめると、


「三階だよね?」


 彼女の手を取って向かう。

 メルク達がついてこられるように、ゆっくりと階段をのぼる。


 ウラッカを見ると顔をにし、うつむいている。


(さっきまでは真剣な表情をしていたけれど……)


 ――なにかあったのかな?


 今日の目的は『進化』レベルアップだったのだれど、難しいかも知れない。


(簡単な依頼をいくつか受ける予定が……)


 そういう雰囲気ではなさそうだ。


「兄さん、面倒事めんどうごとの予感がする」


 とイルミナ。飛翔して先に上の階へと移動する。


奇遇きぐうだね……」


 僕もだよ――と返した。

 三階に着くとウラッカは僕の手を離し、通路へと立つ。


「ゴメン、急に手を取ったりして嫌だったよね……」


 僕が謝ると、


「いえ、このままずっと手をつないで……」


 お仕事をお休みしたい所です!――彼女はそう返した後で、


「で、ではなくてですね!」


 再びあわてるウラッカ。


(少し面白い……)


「どうやら、真剣な話みたいだね」


 僕がやや真面目まじめな口調で言うと、


「はい、心してください……」


 彼女はそう断った後、


「『三勇者』の皆様がそろっています」


 と静かにげた。

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