第89話 勇者(5)
「失礼します――アスカ様をお連れしました」
とウラッカが会議室の
中から――どうぞ――と女性の声がした。
マルガレーテさんだろう。
ただ、その声音から、いつもより
彼女でも、緊張する事があるようだ。
(でも……<勇者>の相手だけで、そんなに緊張するモノだろうか?)
ウラッカが会議室の
僕は
再び立ち上がり、姿勢を正すと、
「失礼します」
そう言って、会議室へと入った。
いつもの部屋かと思いきや――広い。
人数が多いためだろう。
(確かに人が多いな……)
意外だったのはトレビウスの父親である『バルクス』さんが居た事だ。
その隣には見た事のない職員が立っていた。
――ギルド長だろうか?
細目で、その表情からは
ギルド長という事はそれなりの年齢なのだろうけど、若くも見える。
元冒険者というよりは『ホテルの支配人』といった方が納得出来るだろう。
清潔感があり、キッチリとした恰好をしている。
(マルガレーテさんの上司というのも
また『三勇者』も
彼らの後ろに
形式だけとはいえ、まだ『召喚の儀式』も終わっていない。
(それなのに……
――横暴が過ぎる。
他の神殿も、黙ってはいないだろう。
――余程<ロリス教>を排除したいのだろうか?
(下手をすると宗教戦争になり兼ねないぞ……)
僕はつい、そんな事を考えてしまう。
「ようっ! アスカ……」
と笑顔で声を掛けてきたのはツルギだ。
国の思惑や宗教戦争など、彼には関係ないのだろう。
(元気そうで
僕に気付いたヨロイも不敵に笑う。
久しぶりの再会に、
「どうやら、刑期は終わったようだね」
僕が冗談めかしてを言うと、
「いやいや、
とツルギは笑った。次に僕はヨロイへと身体を向けると、
「ヨロイも元気そうだね……」
服を着ていたから一瞬、分からなかったよ!――その冗談に、
「脱いでいいのなら、脱ぎたいくらいさ」
ヨロイはそう言って、シャツの
すると、
若い――どうやら少女のようだ。
(確か、あの神官服は<ザマスール教>だった
――若い女性をあてがって、
冗談だ――とヨロイがシャツから手を離す。
少女神官は――ホッ――と胸を
――どうやら、苦労しているようだ。
(完全に遊ばれているな……)
それにしても二人共、変っていないようだ。
僕としては安心する。
(神殿側による『洗脳』という手段もないとは言い切れない……)
お互いに無事を確認した所で、僕達は
そして、
「こ、これが……男の子同士の友情――」
と下から声がする。
視線を向けると『ハナツ』がしゃがんでいた。
両手で
ツルギもヨロイも
――僕が相手をしないとダメなのかな?
内心、溜息を
「しゃがんでないで立ちなよ」
そう言って、僕は手を差し伸べた。
ハナツは嬉しそうにその手を取る。
「ある意味<勇者>だな……」
クックックッ――とツルギが笑う。
「うむ、
ヨロイはそう言って、感心した様子で
どうやら、
「王子が
ウラッカが耳打ちで教えてくれる。
それが聞こえたのだろうか?
ツルギの後ろに
「ちっ、違うんです!
と言い訳を始めるハナツ。
推測するに、魔法を失敗して『この国の王子』を
(ハナツは【魔法】の<勇者>だと思ったけど……)
このまま、彼女と『冒険の旅に出る』のは危険な気がする。
「分かってるよ――後で
僕の
「スゲェーッ!
ニッシッシッ!――と笑うツルギ。
(ハナツは
「お前には、
とはヨロイ。
(
「お取込み中の所、申し訳ありません」
とマルガレーテさん。
「
そう言って、
† † †
今、僕達は『勇者御一行』と<冒険者ギルド>の面々で向かい合って座っている。
どちらに座るべきか
単純に――『勇者御一行』の人数が多い――というのもある。
(ツルギ達は気楽なようだけれど、他は真面目みたいだ……)
――これは話が長くなるかな?
僕はウラッカに頼んで、メルク達を預かって
その際、気になる事があったので一つ確認をした。
「ねぇ、ウラッカ」
僕は彼女に耳打ちをする。
「この国の王族って、『紅い髪』だったよね……」
その言葉に――ピキンッ!――とウラッカは
(分かりやすいなぁ……)
僕が気になっていたのは、ツルギの仲間の一人だ。
「そ、そ、そ、そうでしたっけ?」
まるで電池の切れかけた
(まさかとは思ったけれど、本当に『お姫様』が来ているとは……)
恐らく、ツルギは気が付いていないのだろう。
彼の性格からいって、真っ先に自慢する
先程、『王子が……』と言って、悲しんでいた女性は侍女だろうか?
姫の身の回りの世話をするために付いてきた可能性が高い。
この国のお姫様が来ているのなら、マルガレーテさんの緊張も
他にも
(トラブルの予感しかしない……)
僕はウラッカに――ありがとう――とお礼を言うと席に着いた。
お互いに簡単な自己紹介を行う。
とは言っても、『三勇者』の
<勇者>の仲間達は
ただ気になったのは、ハナツの仲間のイケメン神官だ。
彼も<ザマスール教>のようだ。
時折、僕に対して、ゴミを見るような視線を向けて来る。
(別に敵対する気はないのだけれど……)
――やれやれ、先が思い
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