第七章 勇者との冒険⁉ 二人のプリンセス?

第82話 冒険者ギルド(12)


「お帰りなさいませ! 先輩♥」


 お早いお帰りですね――と僕を見付けるなり、出迎えてくれるウラッカ。

 プレゼントした髪飾りカチューシャのリボンがウサ耳みたいに可愛く揺れている。


 受付嬢の制服もクラシカルなメイド服のようで、そのすじの人達からは人気が出そうだ。現に彼女と親しげな僕をにらみ付ける視線を感じる。


 大人びて見えるようにしていた化粧は落としたらしい。

 今は年相応のあどけなさを残していて、可愛らしい印象だ。


(これは人気が出そうだな……)


 冒険者達も何処どこのパーティーが最初に彼女に声を掛けるか、牽制けんせいし合っていたのだろう。そこへ僕が現れたため、悪い意味で注目を集めてしまったようだ。


(まぁ、今更か……)


「ウラッカ――至急、報告したい事があるんだけど……」


 マルガレーテさんを呼んでもらえるかな?――僕は相談する。

 彼女はなにを思ったのか――ハッ!――とした表情を浮かべた。


流石さすがは先輩! すでに敵の動きを――」


 ニンニン!――ウラッカはそう言って『印』を結ぶ。そして、


「先に上でお待ちください! シュシュシュッ!」


 そう言って、事務室の方へと姿を消した。


(う~ん、突っ込みどころは多いけど……)


 あながち、彼女の堪も間違ってはいないのかも知れない。



 †   †   †



「はぁ……」


 僕の説明を聞き、マルガレーテさんは溜息をく。

 『あきれた』とも取れる反応だけれど『理解が追い付かない』とも取れる。


(多分、両方だろう……)


 ギルド側はようやく、派遣する冒険者の選別を終えたところのようだ。

 <魔物>モンスターの大量発生について、対応に追われていたらしい。


 また、それだけの人間を動かすのであれば、国の許可が必要だろう。

 下手をすると、他国から軍事行動と見做みなされる場合もある。


 それに今は『勇者召喚』の日も近い。

 許可が下りなかった場合の事も考えて行動しなければならない。


 ――しかし、その必要はなくなってしまった。


(どうやら、僕が解決してしまったらしい……)


 また、大規模な戦闘になる事を見越していたようだ。

 ギルドとしては遺憾いかんながら<ロリスⅩⅢサーティーン>の一人に救援要請を出した。


(それが『幼女鉄騎ようじょてっきロリガイン』なんだろうな……)


 しかし、全ては徒労に終わってしまった。

 マルガレーテさんとしては、複雑な心境だろう。


 一方、空気が読めていないのか、自分の欲求に忠実なのだろうか?

 ウラッカは目をキラキラとさせ、


流石さすがは先輩です! すでに事件を解決するとは……」


 ニンジャです! ニンジャすごいです!――と連呼れんこする。

 それがアリスの琴線に触れたのか?


 彼女も一緒に「ニンジャ! ニンジャ!」と叫び出した。


「更に<魔族>の暗躍あんやく――そこまで見抜くとは……」


 やはり、わたくしの目に狂いはありませんでした!――と興奮する。

 状況は深刻だというのに、やけに楽しそうだ。


「いや、その証拠をつかもう――っていう話なんだけど……」


 僕は補足したのだけれど、聞いてはいないようだ。


(面倒な事になる予感しかしない……)


 僕達は今<冒険者ギルド>の三階の会議室に居た。

 三日月村での事件を報告していたのだ。


 僕としては、ギルドからの正式な依頼ではない。

 そのため、報告する義務は無いのだけれど――


 しかし、それだと僕の担当になってくれたウラッカにも迷惑が掛かる。

 勿論もちろん、<魔族>が関係している可能性についても無視は出来ない。


 正直、ギルドを通さずに依頼を受けた事が問題視されると思っていた。

 そう考え、マルガレーテさんに相談しようとしたのだ。


(まさか、解決した事件が国家を揺るがすレベルの案件だったとは……)


 一冒険者――更には<ロリス教>関係者――である僕が解決した。

 その事実はかなり不味まずい。


「ウラッカさん、静かにしてください……」


 マルガレーテさんに言われ――ピタリッ!――と動きをめるウラッカ。

 空気を読んだのか、アリスもさわぐのをめた。


 ルキフェとイルミナは疲れているのか、別のソファーで一緒に眠っている。

 心境としては、僕も混ざりたい所だ。


「困った事になりましたが、一つずつ解決するしかありません……」


 ギルドの依頼うんぬんは良しとしましょう――とマルガレーテさん。

 彼女はそう言って眼鏡を――クイッ――となおす。


「冒険者の派遣はするにしても……」


 再編成が必要ですね――と溜息をいた。

 内容を『討伐』から『調査』に変更するためだろう。


「アスカ様には、大変申し訳ありませんが……」


 彼女は言いにくそうに言葉をつむぐ。


「『幼女鉄騎ようじょてっきロリガイン』様に要請を断る旨、伝えて頂けますでしょうか?」


 ギルドの立場的にも『ロリス教徒』達を刺激したくはないのだろう。

 また、僕自身も冒険者達から見れば『ロリス教徒』だ。


 本来なら、表彰されるべき手柄なのかも知れないが、今は不味まずい。

 『勇者召喚』に合わせ、ギルドと<ロリス教>は均衡バランスたもっていた。


 それが崩れてしまう。


「分かりました。そちらは任せてください」


 上手くやっておきます――僕が伝えると、


「本当に申し訳ありません」


 マルガレーテさんは頭を下げる。

 僕は――理解していますので、頭を上げてください――と伝えた。


 本来なら、もっと上の連中が出て来るべき話のはずだ。

 どうやら<ロリス教>関係者である僕とは話をしたくないらしい。


(ギルドについても、色々と調べた方が良さそうだな……)


 僕はウラッカを見詰めた。

 すると彼女はなにを勘違いしたのか、頬を染める。


 そして、僕にウインクをした。


 ――ダメだ……伝わってない!


(方向性を変えよう……)


 僕はマルガレーテさんへ向き直ると、


「後、僕が今回の件に関係していた事は内密でお願いします」


 と伝える。僕としても、今は目立ちたくない。

 メルク達が危険な目にう可能性も増えてくる。


なにからなにまで気を遣って頂き、ありがとうございます」


 流石さすがは『三勇者』に認められた御方――マルガレーテさんは再び頭を下げた。


(また、それ?)


 『三勇者』と言われても、僕はツルギとヨロイにしか面識はない。


(いったい、何処どこで知り合ったのだろう?)


「なるほど! 先輩はニンジャですからね……」


 隠密行動ですね……ニンニン!――とウラッカ。

 色々と理解していないようだけれど、その明るさに今は助けられる。


 僕は一呼吸置き、


「――という訳で、今回の黒幕はウラッカです」


 と告げた。

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