第56話 ヨージョ神殿(7)


 今朝と同じ会議室に通され、しばらく待つ。

 すると当然のように、セシリアさんが服と下着を持ってきてくれた。


 着替えを終えたメルクはご機嫌のようだ。

 鏡の前をクルクルと回り、何度なんどもポーズをとっていた。


 相変わらず、白のワンピースをまとっている。

 少し短い気もするけど、髪型はツインテールのままだった。


 きっと以前、僕が師匠の髪型をめたからだろう。


「メルクだけ、ずるいでち!」


「ボクも、進化!」


 今度は僕ではなく、メルクに抗議するルキフェとイルミナ。

 メルクは微笑ほほえむと、


「えへへ♥ 私、お姉ちゃんだよ!」


 となにやら胸を張る。

 僕は席に着き、セシリアさんとその様子をながめていた。


「下着も用意して頂いて、助かります」


 いざ買いに行く――となると<魔物>モンスターを倒すより、難易度が高い気がする。

 お礼を言う僕に対し、


「いえいえ、アスカ君のお願いであれば、下着くらい、いくらでも用意します」


 とセシリアさん。


(う~ん、他人ひとに聞かれると誤解されそうな会話だな……)


 早々に話題を切り替える事にする。


「実は<サブクラス>の設定なんですが……」


 僕のレベルも10に上がったので<サブクラス>の設定が可能になっていた。

 これで<魔物使い>の他に、もう一つのクラスを追加出来る。


 さらに多くの<スキル>を習得する事が可能だろう。

 僕としては――<錬金術師>を選択したい――と考えていた。


 けれど問題は――それが『ロリス神殿』で可能なのか?――という話だ。


「問題ありません! ワタシにお任せください」


 彼女はそう言うと、自分の胸をたたいた。


 ――ポヨン!


 大きな胸がれ――いや、はずむ。

 思わず目をうばわれる。


(この人、わざとやっていないだろうか?)


「本当ですか⁉」


 助かります――と僕はお礼を言って立ち上がった。

 すると、セシリアさんも嬉しそうに微笑ほほえむ。


 ただ準備があるらしく――また明日来て欲しい――との事だった。

 どの道、僕としても<冒険者ギルド>で報酬ほうしゅうを受け取る必要がある。


 そのため、明日も街には来る予定だった。

 受け取った報酬ほうしゅうで必要な物を買いそろえなければならない。


 ルキフェとイルミナを進化させるための<アイテム>も必要だ。


(あまりらすと、面倒な事になりそうだしな……)


「ああ、そうだ! それと――」


 僕は――新しい<ロリモン>を二人連れてくるかも知れない――という話をした。

 この話は、セシリアさんにとって刺激が強すぎたようだ。


 突如とつじょとして鼻血を吹く。


(話の加減が難しいな……)


 ――流石さすがは『鮮血の聖女ブラッディ・マリア』だ。



 †   †   †



 僕達は一旦、『師匠の家』へと戻る事にする。

 徒歩だったけれど、夕方には帰宅する事が出来た。


 レベルが上がったためだろう。

 メルクの歩行速度スピードやルキフェの飛行能力が上がったのは大きい。


 正直、疲れていた事もあって、のんびりと歩くつもりだった。

 なので――帰りは夜になる――と予想していたのだ。


「お帰りなのじゃ!」


 と師匠が出迎でむかえてくれたので、


「ただいま」


 僕は返事をする。微笑ほほえむ師匠。

 彼女の笑顔を見ると、なんだか――ホッ――とする。


 この世界に来たばかりだけれど――彼女の事はずっと前から知っている――そんな気がした。


(不思議だな……どうしてだろう?)


 しかし、僕がその原因を考えるひまもなく、


「ただいま! お姉ちゃん」「帰ったでち!」「無事、帰宅」


 メルクとルキフェ、それにイルミナが返事をした。


「うむっ! 無事じゃったか……」


 と師匠。僕達の様子を一瞥いちべつした後、


「今日はあまりよごれていないようじゃな……」


 そうつぶやく。確かに、森の中を歩いたけれど、昨日みたくよごれてはいない。

 メルクは着替えたから別として、皆、確実に成長しているようだ。


「あのね、あのね! ルナお姉ちゃん、私ね……」


 話せるようになった事が嬉しいのか、はしゃぐメルクに、


「分かっておるわ! 進化したのじゃな……」


 師匠はそう言って、彼女の頭をでた。

 えへへ♥――と喜ぶメルク。


(てっきり――まだまだじゃ――とでも言われるのかと思ったけど……)


 師匠の意外な一面に、僕は自然と顔がほころぶ。

 やはり、本来は面倒見がいいなのだろう。


 一人で居る事にれ、強がっているだけかも知れない。

 僕も早く強くなって、彼女を安心させられる存在になりたいモノだ。


 そんな僕の視線に気が付いたのか、


「ええいっ! いつまでも玄関先でさわぐでないわっ!」


 早く風呂の準備をせんかっ!――と彼女に怒られてしまう。


(照れ隠しだろうか? やれやれだ……)


 メルクは動じないが、ルキフェとイルミナにとっては、とんだとばっちりである。

 しかし、二人は大人しくしていた。


 師匠に逆らうとどうなるのか、学習したのだろう。

 僕は早々に、お風呂の準備に取り掛かかるのだった。

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