第45話 冒険者ギルド(6)


 どうやら――<ロリス教>の息子とそれを良く思わない父親――という構図のようだ。周囲の反応から察するに、あの喧嘩ケンカは良くある事らしい。


 ルキフェはすっかり警戒けいかいしてしまい、僕から離れてくれない。


(なるほど、<コウモリ>の翼で悪魔っ娘なのか……)


 僕は別の事に関心していた。

 一先ひとまず、窓口のお姉さんに間に入ってもらう事で今は落ち着いている。


 トレビウスと名乗った青年には、今日はお帰りいただいた。


「では、アスカ殿、ルキフェたん♥ またね――でござる」


 デュフフ――ルキフェの名前が分かった事に満足したのだろう。

 なんとか、穏便おんびんに事が済んだ。


何故なぜ、あんなに殴られていたのにピンピンしているんだ?)


 別の意味で僕は戦慄せんりつする。


「彼はアレで『聖なる円卓ホーリー・ラウンズ』の<称号>を持っていますからね……」


 困ったモノです――と窓口のお姉さんこと『マルガレーテ』さんは溜息をいた。

 元ネタは『円卓の騎士』から来ているのだろう。


 僕達は今、<冒険者ギルド>の三階にある応接室へと通されていた。

 バルクスさんは非常に興奮していたため、しばらく、別室に監禁されるようだ。


「バルクスさんも『千剣サウザント』と呼ばれたうての元冒険者です」


 その剣の一振りは、千本の剣に匹敵する――と言われていたらしい。

 今は後進の育成もねて<冒険者ギルド>に身を置いている。


 息子が『ああなってしまった』ため、<ロリス教>嫌いになってしまったようだ。


経緯けいいは分かりましたけど、僕がここに呼ばれた理由ワケは?」


「事情を存じていない――と思いまして……」


 なので僭越せんえつながら、色々と説明させてください――とマルガレーテさん。


「最近は外で――冒険者同士が争う――という出来事も多いようですし……」


 彼女は眼鏡を――クイッ――と動かし、そんな事をつぶやく。

 これは――あの三人組との戦いがバレている――と考えた方が良さそうだ。


「そんな事があるんですね……」


 困ったモノですね――僕はとぼけておく。

 一方で――カッコイイでち!――とルキフェは目を輝かせる。


 どうやら『聖なる円卓ホーリー・ラウンズ』や『千剣サウザント』という<称号>が琴線きんせんに触れたようだ。


「先日は失礼な態度を取って申し訳ございませんでした」


 とマルガレーテさんは頭を下げる。セシリアさんやトレビウスのような存在が居るのであれば、こちらにも非があるだろう。


 頭を上げてください――と僕は言う。

 流れからいって、面倒な事を頼まれるのは明白だ。


 僕はメルク達に――少しの間、大人しくしていてね――とお願いする。

 ルキフェも先程の出来事を引きっている所為せいか、大人しい。


 今は僕のひざの上を独占どくせんしていた。


「まずは『聖なる円卓ホーリー・ラウンズ』についてですが――」


 これは偉業いぎょうした冒険者に送られる<称号>です――と教えてくれる。

 この情報は僕のゲーム知識にはない。マルガレーテさんは続けて、


「その定員は十三名なのですが――」


 と話すのだけれど、何故なぜ口籠くちごもる。


なにが問題なのだろうか?)


「失礼しました――現在、その十三名すべてが『ロリス教徒』なのです」


 ついた渾名あだなが『ロリスⅩⅢサーティーン』です――と彼女は教えてくれる。


「『ロリスⅩⅢサーティーン』!」


 僕は思わず、声に出してしまった。

 なんだろう? 相手が悪過ぎる。


「『聖なる円卓ホーリー・ラウンズ』は<冒険者ギルド>において、各『ギルドマスター』と同等、もしくはそれ以上の発言権を持っています」


 なるほど、根本的な謎が解決した。要するにギルドのトップが――<ロリス教>に牛耳ぎゅうじられている――と言っても過言ではない状況だ。


 ――どうりで<ロリス教>が嫌われている訳だ!


勿論もちろん、普段の言動もあるのだろうけど……)


 真面まともにギルドが運用されている今の状況は――彼らがそういった事に興味がない――からだろう。


(首の皮一枚でつながった――という所だろうか?)


 <冒険者ギルド>がいつ<ヘンタイ>の巣窟そうくつと化しても可笑おかしくはない状況だ。


「<ロリス教>は少数のため、今は辛うじて均衡を保っている状況なのです」


 口惜くちおしいのだろう。マルガレーテさんは肩を震わせた。

 自分の就職先のトップが<ヘンタイ>では仕方のない事だ。


「しかし『ロリス教徒』は一騎当千の猛者もさばかり……」


 とマルガレーテさん。あのトレビウスという青年も相当強いのだろう。


「アスカ様……少なくとも、貴方あなた様はお二方に多大なる影響力を持っております」


 彼女は僕を見詰める。一方、


(二人?)


 僕は首をかしげた。


(『ロリス教徒』はセシリアさんとトレビウスしか、知らないのだけれど……)


「一人はトレビウスさんです――二つ名は『無傷の剣聖アンタッチャブル』」


 僕は吹き出しそうになる。色々な意味でピッタリの名称だ。

 どうやら、あのシャツを汚される事を非常に嫌っているらしい。


 そして、シャツを守るため、無類の回避能力と剣技を習得したそうだ。


なにソレ?)


「もう一人はセシリアさんです――二つ名は『鮮血の聖母ブラッディ・マリア』」


 僕はせき込んだ。お茶が変な所に入った。


(その二つ名だと、鼻血を吹いている彼女の姿しか、思い浮かばない……)


「らいじょーぶ?」


 とメルクが背中をさすってくれる。


「汚いでち!」


 とは僕の膝の上で転がっていたルキフェだ。

 イルミナは――仕方ないなぁ――という目で僕を見ている。


 メルクにお礼を言って、ルキフェに謝る。

 僕がマルガレーテさんに向き直ると、彼女は、


「こんな事を頼むのは心苦しいのですが……」


 そう言って、カップを見詰める。

 どうやら、僕に<ロリス教>を制御コントロールして欲しいようだ。


 正直、出来るか不安だけれど、この場はうなずいておく。


「それと、バルクスさんの件なのですが……」


 彼女が言いにくそうにしていたので、


「息子さんと仲直り出来るように、頑張ってみますね――」


 僕が返答すると、彼女は――パッ――と花が咲いたように笑った。

 どうやら、バルクスさんに気があるようだ。


 僕としても、風当たりの強い<冒険者ギルド>内に理解者が出来たのは助かる。


(三人組の件も、み消してくれるようだし……)


 彼女にお礼を言われ、僕達は<冒険者ギルド>後にした。


「兄さん、これから、どうする?」


 イルミナに聞かれ、少し考える。


「正直、疲れたよ……」


 僕は項垂うなだれると、財布サイフを確認した。

 少し余裕がある。


「そうだ! レイアさんを紹介するよ」


 今は普通の人に会いたい。それになにかあった時のために、ルキフェとイルミナを紹介しておいた方がいいだろう。


 僕はお土産の『お菓子』を買う事にした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る