人気声優と結婚できる5つの条件

のだめ

第1話 ――推しに会う時緊張するのは当たり前――

 もし、憧れの人と結婚できたら──

 

 もし、大好きなあの人と結婚できたら──

 

 ****

 

 ガタンゴトン。4月。就職や、入学シーズン。そんな中、俺は満員電車に揺られながらそんなくだらない事を考えていた。

 俺、大川真白おおかわ ましろは、今年で26歳になる。仕事はしていない。いや、厳密に言うならしている。とても目の前に居る、真面目そうな社会人の方と同等とは思えないが。

 そして、俺はこれからとある場所へ行く。

 そう、俺の好きな『彼女』に会いに。

 

 ****

 

「入場開始しまーす。ゆっくり前に進んでくださーい」

 元気のいい声でスタッフのお姉さんがそう呼びかけた。それに従って俺たちは前に進んだ。

 たった一瞬だけれど、この時を1ヶ月前から心待ちにしていた。

 すると、突然勢いのある、可愛らしい天使のような声がホール中に響いた。

「みなさーん!こんにちは!今日は私のために来てくれてありがとう。みんなに会える事をずっと楽しみにしてたよ。今日はたくさんお話しようね!」

 そう、今日は俺の大好きな声優、「夢野日葉梨ゆめの ひより」ちゃんの新曲CDお渡し会&サイン会なのだ。俺が3年前から推してる、超超人気声優だ。俺が初めて彼女を知ったのは、アニメオタクなら誰もが知るあの『さくらシロップ』のヒロイン役「槙野あやさ」の声優だった。

 

 遂に俺の番がやってきた。もう緊張で汗が止まらない……。


 俺は全力で昨日の夜考えた話す内容を言う準備をした。

「あ、お兄さん。また来てくれたんですね!」

 ああ、生ひよりん……何度見てもいい。

 それに、1ファンの俺の事を覚えててくれてるとか、もう神だな。俺は急ぎめに返答する。

「あ、はい。また来ちゃいました。はは……」

 あぁ……ひよりん可愛すぎる。もうすっごい目を合わせて来てくれてるけど、ぜんっぜん見れない。すげー可愛い……

「あ、あの〜」

「えぇっ?!はい!」

「あ、やっとこっち見てくれた。もう、お兄さん前も来てくれたけど全然私と目合わせてくれないし、何にも話してくれないし。私の事嫌いなのかと思いましたよ」

「そ、そんな事ある訳ないじゃないですか!!」

 俺は咄嗟に会場中に響く程の声で言った。

「俺は、夢野さんの事がす、好きで……え、えとすごい好きです……よ」

 凄いたじたじで俺はそう言った。ただの気持ち悪い人だ。

「ふふっ、ふふふ。お兄さん大きい声出るじゃないですか。今度はもっと沢山お話しましょうね」

「あ、あのまだ話が」

「はーい、お時間でーす。ありがとうございました〜」

 スタッフさんに遮られてしまった。

 

 家に帰ってから俺は自分のPCを急いで開いた。そして、俺の管理するサイト「HIYORIBI」の更新をした。

『ひよりん新曲CDお渡し会&サイン会、感想』

『ひよりん今日もすっげー可愛かった!もう天使だった!オレ全然上手く話せなかったけど、ひよりんから話しかけてくれた泣まさに神対応だった……もうずっと、オレは夢野日葉梨を愛し続けるぜ!』

「ふぅ……」

 俺はいつもの『仕事』をしてPCをそっと閉じた。

 

 ****

 

 握手会から2週間経ったある日──

 俺はTwitterを開いてその場で凍りついた。

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