故郷 ふるさと

雨世界

1 いつまでも、君を思う。

 故郷 ふるさと


 登場人物


 雪野墨絵 大自然の残っている場所で暮らしている少女 十七歳


 墨絵のお母さん 墨絵のことを世界で一番愛している人


 プロローグ


 あなたに会えて、本当によかった。


 本編


 いつまでも、君を思う。


 緑色の風の中を一人の少女が歩いている。

 少女の名前は墨絵と言った。

 時刻は朝。

 うっすらとした霧が立ち込めている、とても静かな早朝の時間。

 

 墨絵は一人で周囲の風景に目を向けながらゆっくりと大地の上を歩いていく。空には、よると一緒に消えてしまった美しい星々から取り残されたように、ぼんやりと浮かんでいる白い月が見える。 

 こんな風に誰もいない朝早い時間に家を出て、少しの間、たった一人で家の近くの場所を散歩することが墨絵のいつもの日課(あるいは趣味)だった。


 世界に私ひとりぼっち。

 ……この世界には、きっともう私以外に誰もいない。


 そんな孤独を感じることがこの散歩の目的だった。

 下を向くとそこには自分の足と白いサンダルが見えた。そして上を向くと白い月。前を向くとそこにはずっと向こうまで続いている緑色の立ちがあった。

 今は霧で良くは見えないけど、その先には崖がある。

 崖の先には海がある。

 冷たい海。

 崖のほうは危ないから絶対に近づいてはだめだって、墨絵は小さいころから、お母さんからずっときつく言われていた。

 墨絵は覚えていないのだけど、もっともっと小さかったころ、墨絵はこの辺りで遊んでいて崖のところから海に落っこちそうにってしまったことがあったのだという。

 それ以来、崖は墨絵一人では絶対に近づいていはいけない場所になった。


 そのお母さんの言葉を十七歳になった今も墨絵はちゃんと守っていた。

 でも今朝、こんな風に薄い霧の向こう側にあるはずの崖のほうを見ていると、なんだか久しぶりにその崖がみたい、と言う気持ちに墨絵はなった。


 ……ちょっとだけ、久しぶりに向こうのほうに行ってみようかな?


 少し迷ったのだけど(墨絵は崖と家のあるほうをきょろきょろと見比べたりした)墨絵は崖に行ってみることにした。

 久しぶりに記憶の中にある懐かしい崖を見て、それから海をみたいと思った。

 墨絵はなんだかとてもわくわくするような気持ちで、お母さんの言葉を破って、崖のあるほうに一人で歩いて行った。


 朝の霧はだんだんと深くなり、その霧の中にやがて墨絵の姿は見えなくなった。

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