アバターが眠るとき

水姫

本編

 どこまでも続く緑の平原。それを覆う青い空。遠くに見えるモンスター。

 動くことのできない私はそれをずっと見続けている。


 パラレル・ワールド・オンライン。私がいる世界ゲームの名前。モンスターを狩って商売したり、農園を作ってスローライフを過ごしたり等々ファンタジーの世界を自由に、まるでもう一つの日常のように過ごすことができるオンラインゲーム。ユーザさんに長く愛され続けたらしいこの世界も、サービスを終了することになったらしい。それが今日らしい。この前ユーザさん達がチャットでそんな話をしているのを見た。

 でも私はアバターだから、ユーザがいなければ動くことができない。なのでこうして私のユーザさんが最後に落ちたログアウトしたこの平原で景色を眺めている。

 サービス終了となると、この景色も見納めということになる。そう考えるともう見れなくなるのは少し寂しくなってしなう。それと、私を使ってくれたユーザさんとも会えなくなるし、仲間やお世話になったNPCの皆とも会えなくなる……。

 そういえば、サービスが終了すれば私はどうなるのだろう。今は暇だな~とかログインしてこないかな~とか思っているけど、そんなことすらも感じなくなるのだろうか。それで、ユーザさんから忘れられていくのだろうか。私はいなくなってしまうのか……。


 ん?ユーザさんがログインしてきた。それと同時に体が引っ張られるように動く。おそらくこの世界にお別れをしに来たのだろう。一通り平原を見渡した後、どこかへ歩き始めた。


あぁ、この洞窟は初めてユーザさんがボスを倒した場所だ。すごく喜んでたことは今でも覚えている。

この遺跡は攻略に苦労してたなぁ。ここで何度死んだことか。

ここの酒場でよく仲間と盛り上がってたっけ。

よくクエスト受けてた案内所だ。受付嬢さんにはたくさんお世話になったな。

こうやっていろんなところを回っているとたくさんの思い出があったことを思い出した。思い出すほど、別れがつらくなってくる。


結局最初にいた平原まで戻ってきた。よくレベル上げをしていた場所だから、ユーザさんにとってはここも思い出の場所なんだろう。

こうして、景色を見つめている間にも終了の時間が迫っている。正直、怖い。

ピロン

ん、チャット?

[お世話になりました。ありがとうございました]

お世話になりました。ありがとうございました、か。

この言葉は誰に向けたものだろうか。きっと開発者に向けたメッセージだったのかもしれない。それでも、このゲームに対する愛を少しだけ感じることができた気がする。

気がするだけかもしれないけれど。この世界の住民として、誇らしく思えた。


[サービスが終了しました。]

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アバターが眠るとき 水姫 @undaredia

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