第16話この料理教室に行ってみない?
麻衣と一緒に通う料理教室を調べてる。やはり、男性一人だと出会い目的だと思われる可能性もあるらしく、変に警戒されてしまったら行きにくくなるので、二人で通うという話は都合が良かった。
仕事の休憩中にカタカタとキーボードの音をたてながら、近場の料理教室を検索。全国に店舗を持つ企業が運営している所から個人で細々と運営しているところまで様々だ。こんなにあるとは思わなかった。自分が知らなかっただけで一定の需要はあるみたい。
自宅から徒歩圏内を探してみると二つ候補があった。一つは全国に店舗を持つ料理教室。大手ということもあって、ケーキといった特定の分野に特化したコースや一般的な料理を学ぶコースまで幅広く取り扱っている。ただ、月額の料金が少し高めなのが気になった。二人で通うと出費が大きくなり、生活の余裕がなくなりそうだ。
料理を学んだのに生活が厳しくなりました。といった状況は避けたいので、ここはパス。残るもう一方は個人が運営している料理教室だ。
大手の料理教室のように何でも教えてくる訳ではないが、和食や洋食のメジャーどころは学べそうである。料金は安く二人分と考えても問題ない。さらに体験申し込みは材料費のみなので非常に安く済むのも魅力的で、試しに行ってみるには丁度よいかな。
俺が見ているサイトは個人が頑張って作ったんだろうなといったデザインで、コース内容と料金、あとは連絡先のメールアドレスしか記載されていない。どんな場所なのか分からないが、まあ大外れって事はないと思う。
『この料理教室に行ってみない?』
『行きます!』
舞衣チャットで料理教室のサイトを送ると、すぐに返信がきた。その速さは、絶対にサイトは確認していないだろう事が分かる。丸投げではなく、変な場所は選ばないだろうと信頼されていると思うことにしよう。
『了解。土日のどっちかで予約入れておく』
『お願いします!』
『ちゃんと授業は受けるんだよ』
時計を見ると授業を受けているはずの時間帯だったので、注意だけしておく。小言の多い義兄だと思われなければいいな。
『は~い!』
文字の後にお辞儀をする鹿のスタンプが送られてきた。小言を言われても機嫌は悪くなってないと思うことにしよう。
チャットを終わらせるとサイトのお問い合わせフォームに必要事項を記入していく。日程は土曜日の午後を指定して送る。
翌日には料理教室から返信が来ていて無事に予約は取れた。
◇ ◇ ◇
土曜日は朝をゆっくりと過ごし、昼食は出前を頼んで済ました。お腹が落ちついた十五時頃になると家を出て料理教室に向かう。
服装は汚れても問題がない格好ということで、俺は七分丈のシャツとジーンズをはいている。嬉しそうに隣を歩く麻衣も似たような格好だ。体験授業に必要なエプロンはトートバッグに入れているので、何も持っていない。
この辺は学生時代に使っていた通学路に近いこともあって、地図を見なくても料理教室の場所は分かる。懐かしい気持ちになりながら手をブラブラとさせながら歩いていると、麻衣に服の端を捕まれてしまった。
「どうしたの?」
何か言いたいことがあるのかと思って聞いてみた。
「特に意味はありませんが、ダメですか?」
心を許して甘えてくれていると思うのであれば、悪い気分ではない。
それにだ。可愛い義妹に上目づかいで言われて、ダメと言える義兄はいないだろう。少なくとも俺は拒否するような言葉は思い浮かばなかった。
「ダメじゃないよ」
「よかったです」
俺の返事を聞いた麻衣は、服がくっつくような距離まで近づいて機嫌良さそうに歩く。ちょっと恥ずかしさを覚えたが、口には出さずにいると目的地の建物が見えてきた。
住宅街に大きな一軒家がある。通りに面する部分はガラス張りの大きな部屋が見えて、大きめなキッチンや料理にも使えるテーブルがあった。個人で運営している料理教室というのは分かっていたけど、自宅の一部を改造してやっているとは思ってもみなかった。
二階は洗濯物が干されているので、自宅兼職場といった使い方をしていそうだ。
自宅の前には自転車が置かれている。数は五つ。どれも電動式のママチャリなので、子持ちの主婦が乗っていたのだと思う。その場に俺が一人で乗り込んでいたら場違い感が凄かっただろう。麻衣が一緒にいてくれてよかった。料理教室に入る前から、感謝しっぱなしだ。
ドアベルの前にあるネームプレートの下に「明日香 料理教室」と書かれた小さな看板がある。昔、何度か聞いたことのある名前だったので、偶然の一致とはあるものだなと感心しながら、ベルを鳴らした。
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