第15話料理教室に通ってみようかな

 さすが女子高生というか、二人がおしゃべりが好きなだけなのかわからないけど、会話は途切れることはない。俺はずっと話を聞くだけで食事が終わった。女子高生のパワー恐るべし。


 自宅までの帰り道、麻衣と二人で歩いていた。


「お泊り会の話をしてたみたいだけど、いつするの?」


 柚と別れる直前、二人は近々お泊り会をしようと話をしていた。もし我が家にお客が来るのであれば色々と準備しなければらならないので、嫌がるかもしれないけど深く聞くことにしたのだ。


「うーん。多分、再来週ぐらいだと思います。できれば家に招待したいと思うんですけど、ダメですか?」


 そのぐらいの期間があれば問題はないな。風呂やトイレ、部屋の掃除を徹底的にする時間はある。


「大丈夫だよ。夜ごはんはどうする? 外で食べるならお金を渡すけど」

「柚はお金をあまり持ってないので、晩御飯は家で食べたいなと……」


 最後の方は麻衣の声は小さかった。

 料理を作るのが俺だから遠慮したのだろう。もう家族なんだから気にしなくていいのに。

 そういった気の使い方ができるのは麻衣のいいところだ。


「それなら、美味しい料理をいっぱい作らないとね。それとも出前でも頼んじゃう?」

「お義兄さんの料理がいいですッ!」


 食いつき気味で麻衣がおねだりしたので出前を取るという選択はなくなった。料理は嫌いではないので別に作るのは良いのだが、上手いわけではないので美味しいものが作れるかと言われたら、疑問が残るだろう。


 そんなものを大切な義妹の友人に出していいものだろうか?


「作るのはいいけど、俺が作っても美味しくないかもしれないよ。それでも大丈夫?」

「はい! 柚って家だとずっとコンビニのお弁当を食べているみたいで、家庭料理に飢えているんです。きっと喜びますよ!」


 いつもコンビニの弁当?

 両親は忙しくて料理できていない、といった事情を抱えているのだろうか。人様の家庭の事情に首を突っ込むのは良くないとは思いつつも、元気いっぱいの彼女が家で一人寂しくコンビニの弁当を食べている姿を想像すると、胸が締め付けられるような気持ちになった。


 美味しものを食べさせてあげたい。最近芽生え始めた保護欲というか、兄心というか、そんな気持ちが湧き上がってくる。


「そういった事情があるなら、料理教室に通ってみようかな」


 久々に食べる家庭料理が不味かったら可哀そうだ。少しでも美味しく作れるように今から練習しても良いだろう。そんなことを考えて呟いた。


「ええ!? なんだか申しわけないです……」

「麻衣ちゃんが気にする必要はないよ。丁度良い機会だからちゃんと学んでおこうかなと思って」


 これからも他人に料理をふるまう機会は増えるだろう。親父や俺だけなら適当に済ませていたけど、新しい家族やその友達に振る舞うのであれば、もうちょっとレベルは上げておきたい。


 料理もすごいんですね! って女子高生に言われたい気持ちも少しはある。自慢できる義兄になりたいのだ。


 そんな下心を見好かれてしまったのか、麻衣が俺のことをじーっと見ていた。


 なんだか気まずいので会話を続けなければ。


「麻衣ちゃんも一緒に通う?」


 とっさに出た言葉だった。深く考えたわけではないが、嬉しそうにしている麻衣の顔を見る限り失言というわけではなさそうだ。


「いいんですか?」

「もちろんだよ。男一人で行くのってハードル高いんだよね。一緒に来てくれるなら心強いよ」


 料理教室は女性比率が高い。さらにそんな女性を狙って料理教室に通う男性もいるという話を聞いたことがあるので、変な男だと勘違いされないように麻衣がいるのはありな気がしてきた。思い付きだったけど、意外に良いアイデアなのかもしれない。


「私も料理を覚えたいと思ってましたし、お義兄の役に立てるなら通います!」


 麻衣のやる気は高いようだ。やっぱり年頃の女性だから将来好きな人ができたら料理を作ってみたいといった願望があるのだろうか?


 もし彼氏ができたら少しショックかもしれないが、その時は心で涙を流しながら応援しようとは思う。それが義兄としての正しい姿だ。


「じゃあ一緒に通おう。あとで近場にないか探しておくね」

「ありがとうございます。楽しみですね」


 やはり麻衣の笑顔はずるい。そんな顔をされたら頑張るしかなくなるじゃないか。


 俺の義妹はかわいい。正義だ。何を言われてもお願いを聞いてしまうような魅力がある。


 お金のことは何とかするとして、一緒に料理できる場所を探すとしよう。


 きっと麻衣も喜んでくれるだろうし、お泊り会に参加してくれた柚も楽しんでくれるだろう。そんな期待感が膨らむばかりだった。

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