第2話海外に転勤? 二日後?

 無事に引っ越しが終わり、新生活が始まった最初の夜。新しい家族と一緒に晩御飯を食べていると、親父が爆弾発言をした。


「海外に転勤することが決まった。二日後に日本を発つ」


 んん??

 聞き間違いか?


「海外に転勤? 二日後?」

「おう。そうだ。後は任せたぞ!」


 いやいやいや! 任せたとか意味わからないから!


 再婚したばかりなのに、何で急に海外に行くんだよ!


 小さい商社に勤めているって話だったけど、そんな非人道的なことをする会社だったのか!? 転勤するにしても、もっと早く告知されるんじゃないのか?


「急すぎないか……?」


 せめて一年、いや半年は四人で暮らしてお互いの理解を深めていくべきだろ!


 どう接すればいいかわからないぞ!


 責めるような目で見るが、親父は涼しい顔をしている。


 愛しい妻とも別居しなければいけないのに、なんでそんな余裕があるんだよッ!!


「一ヶ月ぐらい前に決まっていた話だったんだが、なかなか言い出せなくてな。すまん!」


 すまんで済めば、警察なんていらない! と言いかけて、口を閉じた。


 遅まきながら、辛いのは俺じゃなく親父だと気づいたからだ。


 再婚したばかりの妻と連れ子の娘と別れて、知らない土地で働かなければいけない。価値観が違う人たちの中で、たった一人、生活していかなければいけないんのだ。寂しさやストレスは、俺が想像している以上にあるだろう。


 会社員であれば、自分の意志だけではどうにもならないこともある。


 それを受け止め、家族を養うために働く。

 そんな親父を責める資格は俺にはなかった。


 みきえさんと麻衣との接し方は失敗を繰り返しながら、ほどよい距離感を見つけていこう。


「わかったよ。じゃあ、この家は三人で住むことになるのか。こっちの方は何とかなると思うし、向こうでも頑張ってくれ」


 家族とは支えあうもの。だから、この言葉が正しい。


 直接助けることはできないが、仕事に専念できる環境ぐらいは作れるだろう。


 何年後に戻ってくるかわからないが、その時は三人とも笑顔で向かい入れたいと思った。


「そういうと思ってたぞ。後は任せた」


 親父の力強い言葉にうなずく。


 みきえさんは、俺たちのやり取りを見て感動してくれているようだ。


 目がキラキラと輝いている。


「あ、そうだ。一つ誤解を解かせてくれ」


 ん? いまのどこに誤解するような内容があった?


 なんだろう。もしかして、海外転勤は短期だったりするのか? 一週間ぐらいで帰ってくるから、問題ないと言いたいのだろうかと思っていたのだが、そんな安易な予想は裏切られることとなる。


「海外転勤するのは二人だ。俺だけじゃない」

「まさか……」

「そうだ。みきえさんも一緒に来てくれる。ついでに二人で新婚旅行を済ましてくる。遊びまわる予定だから、土産は期待していいぞ!」


 みきえさん! なんで、恥ずかしそうにしながら、ほほを赤く染めてるんですか!


 子供が邪魔で熱い夜を過ごしたいがために、海外転勤する気だったのかよ!!


 いやいや、その前に仕事で行くんだろッ! 遊びまわるとか宣言するんじゃない!


 俺の覚悟を返してくれッ!!


「日本に残るのは、優希と麻衣の二人だけだ。いやー。優希が生活のすべての面倒を見てくれると言ってくれて助かったぜ。これで、気兼ねなく行けるッ!」


 親指を上げて、グッみたいなポーズするんじゃないって!


 全ての面倒を見るなんて、いつ言ったよ!


 いやいや、この際、俺のことはどうでも良い。麻衣の面倒を見ろと言われれば、しっかりやるつもりだ。


 それよりもだ。麻衣は数日したら高校に入学するんだぞ!


「行けるじゃなくて! 入学式に参加できないんだぞ!」

「代理でお前が出ればいい! 何も問題ないだろ!」

「そうねぇ。優希さんが出てくれるなら、問題はないわね~」


 ルール的にOKでも親として問題あり、だろ!


 麻衣さんを見てみろ……って。あれ? 全然、嫌そうな顔をしていない。


 この会話を楽しそうに聞いているぞ。


「麻衣ちゃんは、お母さんと当夜さんがいなくても大丈夫よね?」

「うん」


 短い返事をすると、立ち上がった。


「ごちそうさま。私のことは気にしないで」


 テーブルに置きっぱなしだったスマホを手に取った。


 一瞬だけディスプレイが視界に入る。録音画面が表示されていたように見えたが……気のせいだろう。そんなことより、この二人の暴挙を止めなければならない!


「麻衣さんは気にしないでと言ってたけど、言葉通りに受け取ったらダメだから! やせ我慢してるにきまってるって!」

「そんなことないわよ~。あの子、意外に言いたいことは言うタイプなの。きっと、優希さんに甘えたいのね~」

「おいおい! いつのまに、そこまで仲良くなったんだ!? 童貞のクセに、やるじゃないか!」


 童貞関係ないだろ!!

 ってか、なんでそのことを、ここで言った!!

 みきえさんの顔が見れないじゃないか!!


「恥ずかしがることじゃないわよ~。良いお相手と出会えるといいわね~」


 あぁぁぁ!!!!

 恥ずかしいぃぃぃぃ!!

 もう耐えられない!!


「ご馳走様! ちゃんと俺たちのことを考えてくれよな!」


 バンとテーブルを手のひらで叩きつけながら立ち上がると、食器をシンクに入れて部屋に戻る。


 明日から顔を合わせづらい。さっさと、海外に行ってくれ!!


 そう願うのだった。

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