ホワイトバレンタイン

宵闇(ヨイヤミ)

第1話

ある年のバレンタインに、僕は彼女を……

_____亡くしました。


白い雪が降り積もるホワイトバレンタインに、僕は彼女へ渡すチョコをラッピングし、彼女の元へと向かっていた。

何処を見渡しても、そこには大勢のカップルがいた。そして彼女との待ち合わせ場所にも、それは多くのカップルや学生がいた。


「千雪、待たせてごめん」

「全然大丈夫よ。私も来たばかりだから」


本当ならその台詞は僕が言うはずなんだが、彼女は普段から待ち合わせ時間よりも早く来る。それより先に行こうとしても彼女に何故か負けてしまう。


彼女と合流してからは、映画にショッピング、ランチなどをした。

気が付けば時刻は16時に差し掛かっていた。未だにチョコを渡すことが出来ていなかった僕は、彼女を呼び、足を止める。


「尚くんどうしたの?」

「千雪、これ……」


僕は鞄の中からバレンタインのチョコを出し、それを彼女へ渡す。


「これは……」

「今日、バレンタインだから……」

「私に…?」

「千雪以外にいないよ」

「嬉しい。ありがとう、尚くん」


その時の彼女の笑顔と来たら、太陽のように眩しく、月のようにおしとやかだった。

流石にこれは過大評価かもしれないけどね。でも、僕の目にはそう写った。



だが、それがいけなかった。

僕があそこで、彼女の足を止めてさえいなければ、彼女は今も僕の側にいてくれただろう。



足を止め、それを渡してすぐだ。

近くから悲鳴が聞こえる。目を凝らすと、奥から刃物を持った男がこちらの方へ走って来ていた。それに気付いた時にはもうすぐそこまで来ており、僕は彼女を連れて逃げようとした。

彼女の手を取ろうとした時、急に腕が重くなった。通り魔の男の方が足が早かったんだ。

僕が彼女の手を取るよりも先に、彼女は男に刺されていた。


「ち、千雪…おい、しっかりしろよ……」

「尚、くん……」


彼女は細い声で僕を呼ぶ。

無理に声を出しているのがすぐ分かった。


「いい、いいよ…無理に離さないで……今、救急車を呼ぶから…大丈夫、大丈夫だ。きっと助かるからな……それまで持ち堪えてくれ…」

「尚くん……もう、無駄だよ…死ぬ時くらい、自分で…わ、かるから………」

「そんなこと言うな……言うなよ…!助かるから…千雪は、これからもずっと、僕といて……結婚して、子供も産まれて…それで、それで……」


涙が目から溢れる。それは蛇口を捻ったかのように溢れ出てくる。止めようとしても止められない。彼女が死んでしまうという現実が目の前に突きつけられていた。



救急車が到着した頃には、彼女はもう、息を引き取っていた。

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ホワイトバレンタイン 宵闇(ヨイヤミ) @zero1121

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