第16話 能力[チート]


 ーー此処に来て二ヶ月。


 日中は厨房の手伝いや馬の世話、夜にはクリミアやアレスに言葉を教えてもらう生活を続け、日常会話程度なら何とかイケる様になってきた。文法が日本語と変わらないので単語を覚えるだけで良かったのは助かった。


 それと、俺の魔力量が異常に高いと言う事もアレスから教えてもらった。魔力の使い方はまだ解らないが、他者からの魔法がほぼ無効化出来るらしい。


 此処にきてやっと俺の能力チートが判明した! かもしれない……多分『魔力特大』かな? 広範囲に壊滅的な破壊をもたらすメテオとか撃てちゃう? 夢が広がるなっ!

 魔法を覚えるまでは微妙な能力だが、副次的効果で相手の魔法を無効化できるなら中々に良いの能力チートが当たったんじゃないか? 最初の戦闘で必死に反復横跳びで魔法躱してた俺に教えてやりたいっ!


「はいっ、今日の勉強はお終いっ! 明日はキミも戦闘訓練に参加するんだから早く寝るんだよ?」


「ありがとうクリミア」


「クリミア先生ね? せ・ん・せ・いっ! クリミアお姉ちゃんでも良いよっ?」


「ア、ハイ。クリミア先生……」


 明かに歳下のクリミアに先生はなんだか変な感じがする。いやいや! 年下だろうが教えて貰ってる立場なんだからちゃんと感謝しなきゃな駄目だよな……。


 反省する俺の背中に向かって氷柱が飛んでくる。


「……そうだぞ……ウルト様と……呼んでもいい」


 コイツは暇があれば俺に魔法を撃ってくる、マジdangerだ! まぁ効かないんだけどね?


 でも、急に目の前に氷柱が飛んできたらヒエッ! ってなるじゃん? それが面白いのか容赦なく撃ってくるんだよなぁ。もし俺の魔力が無くなったらどうするんだよ……死んじゃうんだぞ?


「お前には何も習って無いんだけどなぁ〜」

「……毛も生えてない……子供のくせに……生意気」




ーーーーえっ!?


「そうそう、ウルトお姉ちゃんにもちゃんとした言葉使いした方が良いと思うよっ!」



ーーーー待て、待て待て待てっ!?


 あの時か!? あの時に見られたのかっ!! 馬小屋で衣類を無理矢理ひん剥かれて洗われた時に見られていたのかっ!!


 筋トレが趣味な俺は汗をかいても身体を清潔に保てる事や筋肉がキレイに見える・少ない面積の衣類を着る事が多いなどの理由から全身脱毛をしていたんだ。


 どうせならと、ちょっと下までやり過ぎちゃったんだけど・・・・。 だって、ムダ毛は無いに越した事ないじゃない……ねぇ?



ーーそれが……それがこんな事になるとは・・・・


「……しっかり……生え揃ってから……言え……ツルツル」


 ウルトは俺の頭をポンポンと叩きながら言った。


・・・・・え、永久脱毛なんだよ……生え揃う事なんて永久に無いんだよ!


 どうやら、俺の能力チートと共に異世界コッチで俺は永久に大人扱いされない事も判明した。



「そこッ! もっと周りと詠唱を合わせろ!」

「動け! 動け! 相手も魔法を撃ってくるんだ! 躱しながらでも詠唱は続けやがれッ」


 詰所に併設された訓練場にカイルの怒号が飛ぶ。


 人に見立てた的に向かい号令に合わせて魔法を放つ。敵の攻撃を喰らわぬ様に足を絶えず動かしながらの攻撃は事の他難しく、着弾率はまだまだ低い。


 これまで第三の戦闘訓練は対大型獣を想定した待ち伏せや罠などがメインであった。

 山賊や野盗などに対しての対人訓練もあったが、山賊達の多くは学も無く魔力も低い者達の集団でさほどの脅威は無い。


 だが、ビエルは先日のパカレー軍との戦闘を経験し、これからは対人戦が重要になってくると予想。実戦形式の訓練に力を入れる様になっていた。


(パカレー軍は合成魔法に波状攻撃とかなり手強かった)


 国境の壁が無くなった今、第三魔法騎士団や辺境伯達の軍隊は実質、他国の進軍を止める壁となる。


 近くニーガン辺境伯の軍との合同訓練も予定されており王国と貴族の連携も重要となるだろう。


 しかしあれ以降、国境警備を担当している第三魔法騎士団やニーガン辺境伯の所にパカレー軍と遭遇したとの報告はまだ無い。


 捕虜の尋問によりパカレー軍は国境を越えてしまった認識が無かった事が分かっている。ビエル達が遭遇した小隊は一人残して全滅、残った一人も捕虜としてここイアマへと連れてきた。

つまり、パカレー軍側はが行われた事実を知らない可能性がある。


 ドライゼ城で先日行われた軍議ではパカレー共和国へ使者を出すとの事だったが、使者の人選や旅路の日数を考えるとまだ着いて無い可能性が高い。


(パカレー共和国はまだ、国境の壁を越えサーシゥ王国側に誤って進軍している事に気づいていないかもしれない)


 あの兵士は言っていた『俺達の他にも何部隊かが同ルートを使っている…』と。


 近く起こるであろう事態に向け、早急に戦力の増強をと焦燥感に駆られるビエルの目は憂慮に揺れていた。


「他のパカレー軍は・・・今、何処に居る?……」


 いつもと同じ平和な日々が過ぎて行く事がかえってビエルには不気味に思えた。

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