第3話ハードモード



(どうやら戦闘は終わったようだ。しかしあのでかい熊みたいのを銃を使わず倒すか…魔法スゲェな!)


初めて見た魔法を使った戦闘に俺はかなり興奮していた。遠目で良く見えなかったが氷の棒がビュンビュン飛んで熊にグサーっと刺さったり、足を凍らせたり、特に最後の地面から出てくる杭はマジヤバイ…熊即死、カッコよすぎだろう!


(おっと、感動している場合じゃない。戦闘も終わったみたいだし、声かけてみるか?)


「おーい、すいま〜ウギャァァァ!?」


突然足元が崩れ足場が無くなる。俺は倒れぬ様に懸命に足を前に出す。右足!左足!右足!左足!その結果、崖を物凄いスピードで駆け降りる事になった。止まれば転ぶ、このスピードで転ぶのは危険だ! もう慣性に任せて駆け下りるしかないッ!! 足場は思ったよりも柔らかく着いた足が埋まってバランスが崩れる。


(こんな事っ、スクワット中に何度も経験済みなんだよ!) 


重いバーベルを担いで屈伸するスクワットでは、その重さの為バランスを崩して倒れそうになる事は多々あるのだ。その都度、己の体幹と筋肉を駆使してバランスを保つ経験を俺は日常的に経験していたのだ。


「どけてどけてぇ!!」


目の前に人が立っているのが視界に入る。彼は急な出来事に驚きの表情で立ち竦んでいる。このスピードでぶつかればお互いにただでは済まない。


(クッソ!仕方ねぇ!!)


俺は右腕を思い切り前に伸ばし左足を蹴り上げた、イメージは「飛び込み前周り受け身」。彼をギリギリで躱し俺は2転3転と転がりながら穴に落ちていった。



「あ・・・痛つつ」


思った程衝撃が無かったのは柔らかい土のおかげか、日頃鍛えた身体のおかげか、はたまた受け身が上手くいったのか。2m程の穴の中で肩や腰を回し身体に異常が無いのを確かめながら上を見上げると複数の目が怪我んに俺を見ていた。


「あ・・・ははっ、すいません大丈夫でした?」


気まずさから声を掛けるが返答は無い。それどころか彼等の肩付近には先程見た氷柱が浮いているではないか!明らかに臨戦態勢だ、ヤバイ。


(まずい…怒ってる?そりゃいきなり突っ込んで行ったらそうなるよな…どうしよう?)


取り敢えず愛想笑いしてみる、しかし効果はいまいちだ。それならと、敵意が無い事を示す為に両手を上に上げてみた。すると突然俺の足元目掛けて氷柱が飛んできた! 氷柱は足先3cm前に突き刺さる。危なっ!?


「Ουγκοκουνα!!」


「ま、待って! 暴力反対! ダメ絶対!」


「Νανιοιττειρου?」


「え?・・・・・・な、なんて?」


ま…まさか、言葉が通じない?



…怖い怖いっ! 普通は自動翻訳とかあるでしょうよ。何だこの異世界転移、ハードモード過ぎやしませんかね? だがな…現実じゃ世界共通語の英語でさえ満足に話せかった俺ですからね、こういう時の対処方は既に習得済みよ!


「はっはっは、くらえっ俺式言語魔法、筋肉言語ボディーランゲージ!」


俺は精一杯の笑顔を作り両手を体の前に揃えて出した。「どうぞ逮捕して下さい」のポーズだ。少し肩を落とし腰を屈めるのがポイント。今、俺は明らかに不審者、秋葉原で職質を受ける外国人と同じだ。こんな時自分に非が無いなら抵抗せずにニコニコと素直に質問に応えていれば割と早く解放されるのだ。なんで知っているのかは内緒だ。(ニコッ)


俺が急に笑い出したせいで彼等は一瞬ビクッとしたが、そのままの姿勢で動かない俺を見て何やら仲間内で相談し始めた。暫くしてリーダーっぽい渋めの口髭男が俺に向かって掌を向けて何やらブツブツと呟いた。フアッっと彼の掌に光が灯るが直ぐに消える、彼はそれを見ると驚いた顔を浮かべ仲間の方へ振り向き何かを指示した。

 程なく背の高いイケメンがロープを持って現れた。そして俺を見るなり明らかに面倒くさそうな顔をしやがった。


(え、何かガッカリされたっぽいけど何なん?俺はそんなにもガッカリ対象なの? 寧ろ俺の方がお前らの3倍はガッカリしてるんだからな!」


当たり前に組み込まれていると思い込んでいた言語通訳機能が無い事に落ち込んでる時に、初対面のイケメンに面倒くさげな顔されちゃSAN値は駄々下がりだよ。俺の笑顔今最高に引きつってるのわかるだろう?


 イケメンがロープを輪っか状にして俺目掛けて上から投げ落とす、カーボーイみたいだな。だがイケメン投げるロープは上手く俺に引っかからない、その度にロープが頭や顔にバシバシが当る。


(何度目だよこの下手くそカーボーイめ!)


俺の中でイケメンの株は駄々下がりだ。仕方なく俺は自分で自分にロープを巻きつけてやった。ロープに巻かれた俺はズルズルと引き摺る様に上に引き上げられたのだった。

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