173話 お姉さん?とデート?5
毒物でもないのに一口で半死レベルまで精神が追い込まれそうになり、二口めへの指どおりが億劫になっていると何かに気付いたようにメイドさん手を叩く。
「ああそっか!何か致命的に足りないと思ったら一番大事なスパイスが足りていなかったんだ!」
おい、この子は何を言っているんだ。こんな必要以上にもりもりに盛り込まれている物にこれ以上何を継ぎ足すんですかね?寧ろ引き算の方が必要不可欠な要素だと思うんですけどねえぇ?いや、やっぱり変えなくていい!改善してくれとかそんな贅沢は言わないからこれ以上改悪されるのだけは勘弁してくださいお願いします!
「はい、お姉さんどうぞ」
「ありがとう……いや待て、何故私にフォークを差し出すんだ?私の方の分はもう完食しているぞ?」
見事なまでに半分ね。どうせなら7、8割。いっそのこと全部平らげてもらってもよかったのだが
「何って、もう分かってるくせに。そこの男の子も妙にいちゃもん付けると思ってましたけどお姉さん成分が足りなくてただ拗ねてただけなんですね。うんうん」
「申し訳ないが本当にわからないんだが」
「もう、分かってるくせに。あ~んですよ、あ~ん!」
「「は?」」
この瞬間店に入ってからズレのあった俺とメアさんの歯車が見事元に戻り両者の意見がピッタリと重なった。結果妖精メイドの前で間抜けずらを晒す二人の絵ずらが完成していた。そんな二人の気持ちなど知る由もないと言った感じメイドはノリノリな調子で続けた。
「だ・か・らあ~んですよ、あ〜ん!つまりは食べさせっこです!その相方さんはきっと彼女という据え置きというかメインが足りなかったから彼氏さんも乗り気じゃなかったんですよ。ほら、料理は愛情が最高のスパイスって言うじゃないですか!」
「それはあくまでも作り手の話…」
「そおぉんな細かいことはどうでもいいんですよ。さあさあさあ!」
「い、いや私たちはそういう事は!」
「このお店まで来て何言ってるんですか!ほら彼氏さんも待ってますよ」
「いえ、別に待ってるわけでは」
「ももううぅおおおおぉぉ!!せっかく可愛い彼女さんがこれから勇気を出してラブアピールしてくれるっていうのにそんな可愛くないこと言ってると嫌われますよ!恥ずかしがらなくていいですから。さぁあ!さああぁ!!」
相変わらず人の話を聞かないなこの妖精モドキは。にしても…
「~~~!!」
よっぽど恥ずかしいのかめっちゃ手が震えてる。そのせいでフォークが振動ものすごい左右に揺れ動いてる。甘い甘くないは置いといてもあ~んで食べさる為の行為なのに寧ろめちゃくちゃ食べずらい気がするな、雰囲気とかは別にしても。
「ほらほら、彼女さん待ってるんですからいつまでも焦らすと可哀そうですよ」
隣からヤジが飛びフォークの先に視線を移すと紅色の瞳どうようにその白い素肌を朱に染めながら恨みがましそうにこちらを睨みつける金髪美人が戦闘時でも見せなかったような圧力を惜しみなくぶつけてきていた。まあ、フード脱いだ状態での戦闘姿は目にしてないのだが。
にしても、うん。話には聞いたことがあったけど確かに美人が怒ると大変怖い。そのととのった容姿が迫力の凄みを助長せてるな。空気が歪んですら見えるこの現状を夢だと思いたい。何で普通の喫茶店(?)と思わしき店でこんなボスイベント並みの威圧感とと対峙しなければならないんですかね?昨日がっつり強敵と戦ったばかりなんですがねしかも結構ダメージのある半死みたいな状態で。その翌日にこれはあんまりだと思うんですけど私に安息の地はないんですかね、くそたれ!
「………」
う〜ん、再度顔色を伺ってみたけどやっぱり綺麗だ。白玉のように透き通った肌に端正な顔立ち。まさに美人を絵に描いたような人だ。そしてその美貌故に今にも爆発しそうなほど怒りが膨れ上がっているのが目に見えてわかるメアさんが心底怖い。
なんら昨日のゴリラよりもよっぽどちびりそうだ。だって高速移動してるフォークが今にも飛んできそうなんだもん。なんなら当の本人も我慢の限界を迎えて掴みかかって来そうな雰囲気だもん。
「いつまでそうしているつもりだ君は?」
「え?」
「いつまで私のこの恥を晒したような状態を鑑賞しているのかと聞いているんだ!」
あ、そうだった。今待たせてる状態なんだっけこれ?
「昨日の事といいさっきといい、君はよほど私が羞恥で苦しむ様を好むと見える。こんな目に遭わされるなんて!うぅ」
「別に全然そんな趣味は。そもそもこんな事になってるのは店が特殊過ぎるからで。それにここに連れて来たのは少なくとも自分じゃな…」
「いいから早くしてくれ。さあ!あ、あ~ん!!」
目の前に突き出されていた物が更に距離を縮めた事で否応なく震えるフォークの動きも速さを増したように感じ、最早そのスピードから残像が見えるまでになっていた。
俺も早く解放してさしあげたい。あげたいのだが…まるで電動ノコギリのように現在進行形で超絶振動中の凶器と言っても差し支えなさそうな
眼前の鉄の塊を眺めながら現実逃避していたが人の方には目が届いておらず、その当人は限界を迎えつつあったようで隣に備えられていた予備のフォーク2本をもう片方の手で持って獲物目掛けて思いっきり突きさそうとしていた。
俺は意を決して超振動を続けるメアさんの右手を両手で抑えつつ何も考えないようにしてフォークに口を突っ込んだ。両手でホールドしていたお陰でなんとか口内を傷つけられることはなかったが本来恋人同士がやるこのやり取りにおいて二人の、俺の方は甘酸っぱいトキメキなんて感情よりも爆発物に口を突っ込むような恐怖の方が遥かに凌駕しており相手がメアさん限定ではあるがある意味で一種の罰ゲームを体験・発見している気分だった。そして被害を受けなかった(?)安堵からかあの激マズレベルの甘さすら特にどうでもいいと思えたのだった。
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