109話 踏み出すと同時に 

「ふん」


「グヘッ!!」


違う、またズレた!


 大河が真っ向勝負が厳しいと感じたもう一つの理由ワケ。それは大河の攻撃がイマイチ決まらないことにあった。


 相手の射出速度を見切り、踏み込めるタイミングは徐々に掴めるようになり、攻撃を叩き込む事が出来るようにはなってきた。しかし肝心なその攻撃、パンチにイマイチ出応えが掴めず、内心焦っていた。


「もう一発」


「ゴホッ!」


これも違う!もう少し、もう少しだけ…



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「はぁっ‼」


 大河の突きを受け止めたブライトの手から軽く乾いた音が周囲に響いた


「う~む、やはりまだパンチ力のムラが大きいな」


「拳に力を乗せるタイミングと力加減がイマイチ掴めなくて。ブライトさんは日頃どういう意識で繰り出してるんですか?」


「私か?私はこう…グッとやって、スッとするとズーンとなってからギュギュっなって、最終的ババーンといい感じになるな」


「………」


なんだろう…今の残念臭漂う憐れまずにはいられないレベルの擬音のオンパレードは


「…取り敢えず俺には理解できない事とブライトさんの語彙力の低さが飛び抜けてすごいのは分かりました」


「ぐぬぬ、やはりまだ子弟としての絆が浅い故の弊害か。伝わらないのも仕方ないか」


きっとそういう問題ではないと思いますよ


「まあだが、君が言った通り今のはあくまで私の間隔に過ぎない。仮に君がそれを理解できたとしても、それが君にフィットするかどうかは別だ」


「けど私が受けて来た中では恐らく足を前に出してから力を入れていた時が一番いい感触だったぞ」


「本当ですか?」


「ああ、だから今は踏み出すのと同時に拳に力を入れる感じを目指してやってみるといいだろう」


 それから大河はブライトともに感覚を磨く特訓を繰り返し、自分の感覚を会得していった。



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 この実践の場でもそうしようとしていたが中々上手く決まらなかった。


 大河の攻撃が上手く決まらない理由は2つあった。


 1つは爆発によるダメージ。踏み出した際に足元が若干ふらつき、上体が安定しきれなかった事。


 2つ目は相手が自分よりも小柄であった事。今まで大河はブライトを相手に攻撃の練習を積んできた。高さを調整してくれていたとはいえ、大体自分と同じがそれ以上の背丈の向かって拳を繰り出す練習しかしてこなかった。自分より背の低い者を相手にするのは慣れておらず、苦戦していた。


 相手の攻撃を避けながら攻撃時に拳を打ち出す角度の微調整といつも以上に足を踏ん張ることを意識しつつ、ベストなタイミングで力を込める作業をしなければならなかった。


 負傷した状態でのいつもとは違う慣れない動作。しかもそれらを戦闘中に行うのは難しく、中々糸口が掴めずにいた。


クソッ!いつも通りの型だと素通りして当たらねー。フォームや崩たり打ち方変えれば攻撃を当てられる。だけどいつもよりタイミングとりずらいし、打ち下ろしなんて体重も力も上手く乗せられないからどうしても決定打にはならねない。今は混乱してくれてるからなんとかなってるけど、冷静さを取り戻して攻撃を続けられると体力的にも打つ手がない。どうする?


 悩んでいるとふらついてバランスをく崩しかけた。


「くっ、もっと強く足を踏ん張んないと姿勢が維持できな…」


(待てよ)


 大河は片足立ちをして右足に全体重を掛けて踏ん張れるかどうかを試した。いつもの数倍以上に体重が重くのしかかるのを感じたが、意識して踏ん張れば維持できないこともなかった。


やってみるか


 迫り来る攻撃を避けながら攻撃可能範囲に到達した


ここだ!ここでいつもより少しだけ踏み込んで…


 通常よりも膝が沈みだ状態。これにより上体を変えぬまま低い姿勢となった。そのお陰で突き出した拳は見事相手の顔面を捉えて吹っ飛ばした。打ち込んだ拳には相手の顔にめり込んだ感触がしっかりと残っており、確かな手応えを感じた。


力を入れるタイミングは少しだけ遅かったけど、それでも今まで一番の感触だ。もう一度

 

 再び相手に特攻し先程と同じ体勢から拳を打ち込んだ。今度は感覚が噛み合って先程以上の手応えを感じていた。


前より深く沈み込んでる分、より拳に体重が乗って明らかに攻撃力が上がってる。今までの攻撃ではダメージは与えられても立ち上がられていたけど、今度のは倒れてから全く動かないのがそれを証明してる。このまま叩き込んでいければ恐らくなんとかなる………そう、打ち込み続けられれば!


 大河は攻撃力に確信を得られるようになった反面、自分の膝がダメージや疲労の蓄積などで笑いかけているのを実感していた。


いつもより踏み込む分、足への負担がデカい。正直全員を相手に攻撃を行うのは恐らく無理…だな、流石に。このままなるべく同士討ちをさせ続ける作戦を継続して数を減らしつつ弱らせて、振り回す攻撃慣れないパンチでも倒せるくらい弱らせたいところなんだけど…


 先程まで大河を囲っていた敵はいつの間にか全員後退して固まっており、一定以上の距離を取っていた。


う~ん、熱が冷めちゃってるな。何が何でも討ち取ろうとして全体を囲んでいたさっきまでとは違い、前方に陣取ってる。数が減ってきいるからやむを得ず陣形を崩した…って感じじゃないな。基本的に同士討ちを避けるため後方部分を削った。仮にここでも俺が逃げるにしても前方が敵で塞がれてるから逃げ道は後方しかない。後方なら仮に俺が逃げたとしても追撃して疲労した冒険者共々まとめて攻撃すればいいってところか


 大河が一歩前に出ると相手も数歩後ろへ後退した。


「おいおい、それだけの数がいながら揃って距離を取る為に後退するとか恥ずかしくないのかよ?」


「なんだ…「構うな!」は、はい」


「攻撃準備」


ちぃ、流石にここまでくると安い挑発に乗ってくれないか。どうやら追い詰め過ぎて本気にさせちまったようだな。このまま距離を取るのを優先しながら攻撃され続けると残り体力的にかなりキツイな。どうする?


 迷って何か使える物がないか周囲を見渡したが辺りには爆発の影響でなぎ倒された木々や散乱した枝や葉、そして戦闘不能となり倒れている敵とそれらが所持していた杖しか周りにはなかった。


いっそのことことの杖でも振り回して戦うか?あはははは………駄目だ駄目だ、頭を冷やせ。リーチが多少長くなっても棒術に心得のない俺じゃ攻撃力がガタ落ちするだけだ。冷静さを保て、他に使えそうな物は…


 何か状況を変えられる物がないか再度探していると戦闘不能で突っ伏している敵の呻き声が聞こえてきた。


くっ、このまま戦いが長引いてコイツに復活されたら益々不利に…待てよ、これは…仕方ない、こうなったら作戦変更するしかないな


「いいのか?今俺に攻撃すると大変な事になるぜ」


「耳を貸すな!きっとまた我々を惑うわそうという奴の作戦だ」


「いや~俺はあくまで親切心で教えてあげてるんだけどな~」


「よくもぬけぬけとそのような戯言を。そうか、さては貴様もう体力が残っていないのだな」


「そうだ、ボイラム様の言う通りだ!」


「全員で一斉に攻撃すれば今度こそ仕留められる筈だ」


「全員放てっー!」


「「「<燃えよ>フレイム!」」」


 複数の魔法攻撃が大河に向かって放たれた。しかし大河はその場を離れる素振りは見せず、重なった魔法攻撃は大河のいた地点で大きな爆炎となり辺り一帯の地面を焦がした。


「くっくっくっ、あのようなハッタリが通用するとでも思ったのか?最後は避けようともしていなかったな」


「間違いなく焼き焦げてますわ」


「さあお前たち、とっと他の冒険者どもも片付けて…」


 ボイラムが勝ち誇った笑みを浮かべる中、一人の魔族の悲鳴が上がった。


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