第2章 冒険者編

105話  再びピンチからの始まり(前編)

 転移魔法ワープで一瞬視界が途切れた直後、次に大河の視界に入ってきたのは普段よりも随分大きく見える太陽だった。


「うっ、陽が眩し…て、なんじゃこりゃ⁉鳥がこんなに目の前に⁉しかも滅茶苦茶風が強いな。吹き飛ばされちまいそうだ」


ん?鳥が…目の前?風が…強い?


 唐突に自身の体を襲う強風。過去に覚えのある感触なだけに大河は恐る恐る目線を下げて下を確認した。するとあら不思議、果てしなく広がる大地や木々、王都には劣るもののそれでもかなりの広さをほこる街。まるで何処かで見たかような景色が拡がっているではありませんか。


しかもそれらの風景に徐々に徐々に近づいてく独特な感じ。新鮮過ぎて忘れたくとも忘れられない特殊な感覚。それが今再び大河の身に襲いかかっていた。


んん〜〜???似たような景色を何処かで見た気がするぞ。これはアレかな?デジャブってやつかな?あ〜〜そっか〜これは夢か、夢なんだな。そうだよね、そうに 決まってる


「う〜〜ん??」


あっっれれっ?おっかしいな〜?頬が痛いな〜何でだろう?あっ、そっか。夢じゃないからか、アハハハ…夢じゃねーじゃねーか!


「おーい!これ前の時転生時もあったぞ!何でまたこんなパラシュート無しダイビングみたいな事やらないといけないんだよ!」


「なに!?同士よ、お前はこんな素晴らしい経験を過去にもしたことがあるのか?なんて羨ましい奴なんだ!」


「ええい、オダマリ!」


この超絶ドMちゃんが!こんなクソ恐ろしい経験の何処に羨む要素があるってんだよ⁉︎


 エルノアは最新作のゲームを買ってもらって羨ましいみたいな感情を大河に抱き羨望の眼差しを送るが、大河には状況が状況なだけに到底理解できない感情だった。


「おい、阿保姉クラリス!お前なんて場所に転移してんだよ!失敗にも程があるだろ!何とかしろ!?」


「何を頓珍漢な事を仰っているのですか貴方は?その濁った目でしっかりとご覧なさい。ちゃんと成功しているではありませんか」


「お天道様が間近に感じられて、カモメみたいな鳥さんが文字通り目先にいる上空そらへの転移魔法ワープの何処か成功だってんだよ!強がりも大概に…」


「凄い!凄いですよ姉上!都市の入り口付近真上。ほぼドンピシャじゃないですか!流石姉上です!」


「………おい、まさかとは思うがこれ落下が出発前に言っていた目的じゃないだろうな?ここが上空が出発前に座標設定した目的地とか言わないよな?」


「そうですがそれが何か?」


「ばぁっ!この、ほっ…」


言葉が…あまりの衝撃に言いたい事が多すぎて言葉が出ねー!


「やれやれ落ち着きが無いだけでも恥だというのに幼児レベルの語彙力とはほとほと情けないですね。もう少し言葉を学ばれては如何ですか?」


「そう言う姫様は常識を学ばれてはいかがですかね⁉」


「ああ、これぞまさに至福の一時!」


「こっちはこっちで本当に自由だな⁉︎というかこの状況をどうやったら幸福だと勘違い出来るんだよ⁉︎てか本当にどうすんだよこの状況⁉︎このまま落下し続けたら死ぬんだが?確実に⁉」


「あぁ、死に直面する程の衝撃が目の前に…イイ!」


「良くねーよ!微塵も良くねーよ!」


「ギャーギャー喚かないで下さいませんか?せっかくのエルノアが、国宝クラスの美少女が幸せの絶頂を味わっているのですから、男子たるものそれを黙って見守ることこそが責務でしょうに」


「そんな責任があってたまるか!」


「そう責めないであげてくださいませ姉上。口では色々と愚痴や不満を垂らしていますが、内心では飛び跳ねるほど喜んでいるのですよ」


「喜んでねー!」


「ただそれを口にするのが恥ずかしくてできないのです。だからそっっとしておいてあげましょう」


「おい、なんだそのよくよくわからん憐れみは?」

 

「これが世に言う『ツンデレ』というやつなのでしょう」


「お前無事に地上に着いたらちょっと話をしようか」


「男の恥らないなどどこに需要があるというのでしょうか?ほとほと理解しかねますね」


「お前とは転移魔法ワープの件も含めて念入りに話し合わないといけないみたいだな」


「これはどちらかというと『ツンデレ』というより『ムッツリ』というやつなのでしょうね…いやらしい」


「お前本当に後で覚えとけよ!」


確かにこの上空から故に眺められる景色は芸術レベルといえるのかもしれないが、でもそれは死の危険のない安全が保障された場所から観覧するからこそ口に出来る感想だろう


「といか本当にどうすうんだよ!どんどん地面との距離が近づいてきてんぞ!まさかこのまま大地に激突してその衝撃を楽しみたいとかネジの外れたこと言わないよな!?」


「おお!それも良いかもな!」


「嬉々として喜ぶな!」


「エルノアには悪いですが、生死が不明確な危険な行為を容認することはできません」


「こんな事を実行した張本人がどの面下げてほざいておられるんですかね?」


「ですので当初の予定通りを使います」


アレ?


「ああ、そうでしたね。実験の成果を試すのでしたね」


「アレって何だ?こっから助かる秘訣でもあんのか?」


「当たり前でしょう。なんの回避策も用意せぬままこのような事に踏み切るわけがないでしょうに。そんなことも見抜けの程に脳ミソがスカスカなので御座いますか?」


色々言ってやりたいことはあるが、この状況を何とかできるでのあればとりあえずどうでもいい


 大河が希望がの光が訪れたと喜んでいる中、エルノアはポケットからボタンのついた丸い白玉を取り出した。


「それ何なんだ?」


「ふふふ、これは私が考案し作成した秘密兵器。W・K・Bだ」


「えっ?作った?誰が?」


「勿論私が」


 自信を指さしながら自信満々な表情で誇らしげにしているエルノアとは別に大河は不安による恐怖や背筋が寒くなった。


「…なあ、それ失敗したりとかしないか?」


「なっ!貴方エルノアのことを信頼できないとでも仰っるつもりなのですか⁉︎?」


「………」


正直できない。こじれそうだから口にはしないけど


「落ち着いてくだされ姉上。姉上のお気持ちは最もですが私にはこやつの気持ち、疑念を抱くのも仕方ないと思うのです」


「エルノア…」


「ちゃんと気持ちよくなれるかどうか不安なのだろう?」


「そんなこと欠片も不安視しいないんだが⁉」


大丈夫だ。設計段階から自分の体を使ったりして確認してるから間違いない筈だ」


(この白いボールみたいなのがパラシュート的な役割をして鳥になったような空を飛んでる感覚を味わえるとかそんなのだろうか?)


「?まあよくわからんが、つまりそれを使えば安全ってことだな?」


「ああ、これのWKBギリギリ死なないレベルの激痛による快感を得られる筈だ!」


「はい?」


エルノアの予想外の発言に間抜けな声が出てしまった。


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