103話 戒めのサイレン(後編)

「このサイレンはその後に作られたのです。朝の始まり8時、12151。忘れてしまわないように一日に中で3回鳴るようになっています。過去の他者を顧みなかった出来事を教訓にあのような事が二度と起きないようにする為、亡くなった方々の冥福を祈る意味が込められています」


「そしてもう一つ大きな意味があります。です。ですがあのような差別意識よって生まれた非人道的な行動によって起きた悪夢と類似した事をこの先決して起こさないように、との意味も込めてこのサイレンが作られました。そして陛下は国民にこう仰いました」


「『これから先、化学の発展や魔道具の品質向上にもっとより便利な世の中になっていくかもしれない。しかし、扱う道具や器具によっては使い方を誤れば取り返しのつかない事態になる事を忘れないでほしい。そしてもし怒りや焦りなどの感情によって忘れそうになった時、いつもなら踏み留まる一線を超えそうな時、サイレンの音を聞いて思い出してほしい。貴方のその行動1つによって人の人生が左右してしまうかもしれない事を。それが出来なければ、人が他者を思い行動できるようにならなければきっとまたあの人が人を虐げ、その果てに人同士の忌まわしい争いの歴史を繰り返す事になるだろう。私は一国の王として、1人の国民としてそうならないように尽くしたい』と」


エルドは再び白線に視線を移すと苦い表情を浮かべた。


「もし当時から車扱う上での交通ルールや車道の整備がしっかりしていいれば、そういった準備がなされていたのなら死傷者を出すことはなかったのではないか?誰もが笑って自動車という物を享受出来ていたのではないか?と、悔やまれます」


 エルド隊長の言葉を聞いて胸が痛くなり言葉が出てこなかった。


 大河の前世にも自動車という物は存在していた。それも一人一人が移動手段として欠かせない物として所持しているのが当然の世界。


自動車の普及化が進み、車を使用する上でルールは確立され、それに伴い自動車による事故を防ぐ為に信号機や標識、ガードレールなどの交通にまつわる様々な物が設けられ設置されていった。自動車を使用するためには自動車を扱う知識と経験を一定以上習得したことを証明する自動車免許証を所持しているのが義務付けられるようにもなった。


 しかし、そのように整えられた世界でも尚、交通事故による被害は日常茶飯時と言えるレベルで続いている。様々な感情の起伏によっていつも通りや平常運転が崩れる事が日常的に起こりうるからだ。


 それだけなら起してはならないが、人という存在が扱う限りは時として起こってしまう仕方なない事なのかもしれない。だが、近年では飲酒運転、無免許運転、スピード違反、更には煽り運転などという恐ろしいものが多発していた。


 これらが何故怒ってしまうのか?危険極まりない悪質行為なのに何故それに足を踏み込んでしまえるのか?


簡単だ


それらを大事と捉えていないから


と簡単に軽んじてしまうからだ


なにより、人を殺してしまう危険な代物としてきちんと認識しきれていないから


凶器として捉えらえれていないからだ


 殺人の道具などという本来製作者が意図した使用から完全に逸脱しきった使い方は悪という言葉しか出てこないが、多様に交通違反が増え続け、様々な法律で規制が引かれて罰則が厳重になりながらも


自分の都合の為に簡単に踏み込んでしまうスピード違反


正常でない可能性があるにも関わらずしてしまう飲酒運転


そして自分の娯楽の為に行われる迷惑極まりない煽り運転


 自動車という物が生活必需品同然となっているが故に誰しもが使用出来、誰しもが間違いを犯してしまうかもしれない前世どちらの方がより醜悪でどちらの方がより凄惨な声が多いのか大河には答えが出なかった。


「今お話ししたこと以外にも様々な不安要素や疑念を貴族の方々に陛下は抱いております。貴族が全てそいった価値観をもっているわけではありませんし、陛下もそれはよく理解しています。なので国王もなるべく平等に国民を愛するよう心掛ける努力はしていますが未だに本心で信じきるには厳しいのが現状です。王女様方も色々あって変わってしまいました」


「え、でもあれは天ね…いえ、変わってしまったですね」


「ええ、変わってしまった…《《いえ、歪んでしまった、

ですね》》」


う、うわ~。エルド隊長、意外とボロクソ言うな


「誰かに呪いでも掛けられたんですかね?俺みたいに」


「呪い…そうですね。


「「「………」」」


「でもそんな感じなものですから王族という立ち位置としては位の高い貴族の子息と王女は結ばれるのが一般的にはそうしなければまた波風が大きくたつでしょうけど陛下の本心としてはなるべく貴族、少なくとも信頼を置けない相手に王女を、国の未来を預けられないのでしょうな。それもあって長女のフィーネ様は今年の二十歳を迎えられますが未だに婚約云々の話に至っておりません」


「…過去に色々あって貴族が信用しずらいというのは分かったのですが、何で俺はあんな過剰評価としか思えないくらい信頼されてるんですかね?」


「陛下は特別なスキルによって人の本質を見極める力を持ち合わせております。そのスキル故に信じたくとも人を信じにくいのです」


「え?話が矛盾してませんか?俺は…」


「ですがそれ故に信用できる相手は初対面であろうと問題ないのでしょう。それまでの経験からその人間が信用し続けられるのか、信用に値する人物なのかが陛下の間隔からは下手な言葉や材料なんかより心底信頼を寄せられるものですから。そして王女様方が成長していく内に徐々に娘を託す存在を、王国を先導していくに値するべき人物。或いはそれを補佐していけるであろう人物を探すようになりましたが陛下の思うような人物の登場は中々現れませんでした。そんな時現れたのがタイガ殿、貴方です」


「あの…過大強化のし過ぎというか、今の会話で聞かされた事実によって色々必要以上の緊張感と責任感が軽々重量オーバーしきるレベルで圧し掛かってきているんですけど」


「まあ簡単に言えば陛下はタイガ殿に期待しているという事です」


「『陛下』の部分が無ければ素直に喜べるんですけどその一部分だけで一気に重いです」


「まあそう言うな。あいつは君なら何とかしてくれると思っているんだ。


「サラッと』とか付け加えないで下さい」


「そうだな。本格的に期待しているのは国ではなく娘の方だろうな」


「すいません、それはそれで重いです。別の意味で」


「娘じゃなく娘達じゃないですかね?」


「だから何気なく核爆弾を追加するの止めて下さい。そのうち蒸発してしまいそうです」


「だが、少しだけ嬉しそうにもみえるが?」


「…まあ、信じて任せてくれたという点は素直に嬉しいですよ」


 他人が信用できなくなる。大河自身も身をもって体験しているだけにその気持ちは理解できたし、その中で自分を信頼してもらえた・認められたというのは純粋に嬉しかった。


 そして大河がイメージしていた国王としての固さのようなものがあまりなく、フランクに他人と接し距離を作らないようにしていた理由が分かった気がした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る