47話 膨れ上がる混沌

「更に最も重要なのがクラリス様の異変だ」


「何か感じるのか?」


「ああ、クラリス様の目元から涙の匂いがする」


(涙の匂いって何?涙って普通無臭じゃねーの?どういう嗅覚してたら感じとれるんだよ)


「おお、相変わらず凄いなお前の鼻は」


「いつものクラリス様から漂うバラにも勝る素晴らしい香りの中に別の匂いが混じっていればすぐに分かることさ」


(あ、コイツもコイツでヤバイ奴だ)


「やっぱお前天才だな。30km以内で痕跡が残ってさえいれば追跡できるもんな」


「まあクラリス様限定だけどな」


(天才じゃなくて奇才というかストーカーというか、ただ気持ち悪いだけだと思う。女性視点だと特に)


「流石ブルーですね。私の些細な変化にも機敏に反応できるとは相変わらず絶交を言い渡してしまいたくなるほど気持ち悪くて鋭い洞察力と嗅覚ですね」


「お褒めのお言葉と頂きとても嬉しゅうございます」


(え?まって、今のってぶっちゃけ褒めてないよね?ほぼ直接的に貶されてたよね?どういう感性してたら称えられてると勘違い出来るの?)


「何故本来特技と言うべきソレ嗅覚が斜め上の特殊な方向に向上してしまい、感受性を筆頭とした他が色々可哀そうなレベルなのでしょうか?」


(自分の事棚に上げて発言している自覚はお持ちなのですかね?)


「そんな、クラリス様に心配していただけるとは。このブルー、嬉しさのあまり涙が溢れてきてしまいます」


 実際にポケットからハンカチを取り出して左右から零れる涙を拭きとっている姿と感性に大河は疑問を抱かずにはいられなかった。


(待って、本当にどういう思考回路をしてたらさっきの発言を心配してもらえてると錯覚できるの?この人の感受性どうなってんの?)


「という事はこの不審者にエルノア様だけでなくクラリス様も涙を流されるほどの非道を受けたという事ですよね。恐らく暴行の類などを」


「別に2人に暴行なんて俺は…」


「…その通りです。私たちはその無法者に言葉では言い表しようもないほど酷い目に遭わされました」


 クラリスが全く涙腺が緩んでいないにも関わらず、目元にハンカチを当てながら悲痛そうに語る姿に呆気にとられそうになると同時に、またしても良くない流れに直行しそうだと感じていた。


「おい、ちょっと待っ…」


「そしてその行いに耐え切れず私もエルノアも涙を流し懇願しました。しかし彼は決して手を緩めることなく私達へ残虐の限りを尽くしてきたのです」


「そこまで言われるレベルの行いに全く身に覚えがないんだが!?」


(まさか結果的にコイツらの趣味妨害をしてしまった事を残虐だの何だなと騒いでる訳じゃないだろうな)


「私達にあれだけの仕打ちをしたにも関わらずもうお忘れらなられたと仰るのですか?」


「仰りますけど」


 クラリスが追及していると、彼女の声によってようやく頭が冷え、状況を理解したエルノアが参戦してきた。


「凄惨な状況に追いやった記憶はないのですか!」


「全くないけど?」


(そもそも悲惨な状況に追いやった事実と記憶そのものがないんだから当然だろ。寧ろ追いやられた側な気さえするくらいだ)


「そんな…あれだけ私達が辞めてと非難の声を挙げても一切聞く耳持たず非道の限りを尽くしていたのに。あんまりだわ」


 つい数秒前まで大河の首を掴んでいた威勢は何処えやら、クラリスを真似るかのように顔を覆ってまるで泣いて悲しんでますよといった感じに演出して見せた。


 しかも棒読みとか見たいなポンコツ演技とは違いまるで真に迫るかのようなつい騙されてしまいそうになるくらいレベルの高い演技ウソのため、一層大河への視線が厳しくなった。


「ちょっと待て、聞く耳持たない以前に俺はお前の言う非難の声とやら自体を耳にすらしていないのだが?」


「やはり極悪非道な輩に純真無垢でか弱い乙女の嘆きは届

かないという事なのですね」


「純真無垢とはほど遠いほどに罵詈雑言浴びせせ、般若の様な顔で人の首を締め付けてきたか弱いとは言えない生物上ギリギリ乙女がなんか言ったか?」


「そのようなありもしない喧騒を口走ってしまうなんて…なんて可哀想な人でしょうか」


(こ、こいつ…本当に…)


 少し前まで暴れまわっていて少女としても品性に欠けていると言わざる得ない行動と言動を繰り返していたエルノアが、現在は被害者面してか弱い少女を演じている事にどうしようもない苛立ちを感じていた。


「エルノア様もクラリス様も苦労されたのですね」


「つまりこいつはゴミカスではなくハナカスだったってことだな」


(ハナカスって何?ハナクソの間違いじゃないの?それにどっちにしたってどこにそんなに区別するくらいの違いがあるんだよ?と言うか状況的に仕方ないとは思うけど俺の味方1人もいないの!?)


 怒りで先程よりも数倍顔を赤らめながら怒涛の勢いで怒鳴りだした。


「さあコイツの罪ははっきりしたし、とっとと処刑しちまうぞ」


「そうですね。文字通り万死に値する重罪を犯した愚かな咎人は早めに粛清するのが世の為人の為ですからね」


(本当〜にめんどくさいことになったなこれ。誰かこのハッピーセット×2組を引き取って帰ってくれないかな?今の俺の全料金差し上げるので。まあ持ち合わせ0円というか0オリスなんだけど)


 鞘から解き放たれ突きつけられた剣と赤青兵士の参入により更に混沌カオス化した状況を前に最早自力で、まして口論では絶対解決できない事を悟ったしまった大河は『ドラマや映画みたいに誰か颯爽と現れてこの状況を何とかしてくれないかな?』と完全に他力本願な考えの中、問題の原因となっている4人を見つめていた。







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