53話 報復に成功した筈が…

 大河は作戦を考えながら脳内シュミレーションを行った。


□作戦1 逃げる

 一番現実的に思えるけど後ろに兵士いっぱいいるもんな。あれを搔い潜って逃走するのはやっぱ無理。大体ここがどういう建物なのかすら把握できていないから逃げ切れないだろうし。何よりこの邪魔足枷なのがある上にフライパン取り上げられてる時点でまともに踏み出せないんだから100%不可能。


 □作戦2 戦う

 武器無し、防具無し、魔法無し、片足不自由。そもそも恐らくまともにやっても勝てない。うん、無理ゲー。


 □作戦3 弁明する

 姉妹が王様の娘とかいう時点で聞く耳持ってもらえると思えないので却下。


 □作戦4 許しをこう

 上記理由によって無理。


 □作戦5 神に祈る

 状況の悪化はあっても良くなる事はないだろう。何よりアレクソ神に祈るくらいならこのまま死んだ方がいい。


 □作戦6 死んだふり

 すぐばれそうな上、バレなくても死体撃ちとかで結局殺されそう。


 □作戦7 玉砕戦法

 *隕石みたいな超巨大物体が頭上に落下して 尚且つ、自分が助かるのが前提で引き当てるまでゆびをふるを連発する。


(どうしよう…本来一番有り得ない最後の選択肢作戦7が他が事実0%みたいなものだから必然的に一番生存の可能性が高い策になってしまってる)


 大河は悩んだ。自分がこの危機的状況を切り抜ける為にはやはりスキルを行使するしかないだろうが、今自分が居る場所が何処なのかさえ把握出来てない大河がこの状況を打破するとなると最低でもこの場にいる自分以外が気絶や身動きがとれなくなるなどの行動不能が大前提となってくる。


 私怨で自分を陥れた王女姉妹クラリスとエルノアは元より明確な勝手に誤認して散々訳わからないあだ名で犯罪者扱いするしてきた赤青コンビレッドとブルーならば精神的躊躇いはなかったが、誤認とはいえ立場上仕方なく連れて来た他の者達兵士になにが起こるかわからないスキルを向ける事には躊躇いがあった。


 何よりこの国の王の眼前で不貞行為を働けば文句無しに犯罪者。立派な国のお尋ね者になってしまう事実が余計大河の決心を鈍らせていた。


(何もしなえれば王女に危害を加えたとかの罪で死刑。何かしたらお尋ね者として追われてびくびく逃げ回る羽目になる上、結局捕まって死刑。まさに詰んでるんですけどこの状況)


 すると手が右ポケットの膨らみに触れて大河はあることを思い出した。


(そういえばこれがあるのも忘れてた。これがあればもしかしたら)


 手錠で固定された両手を何とか学ランのポケットに忍ばせて必死に取り出し叫んだ。


「王女様の言った事はデタラメです。俺はお2人に何もしていません!無罪です!」


「突然何を言い出すかと思えばよくもぬけぬけと。騙されてはいけませんよ父上。先程申し上げた通りこの者は『ガチャリ』私と姉上を非道な行いをオワアアアアアー」


 大河の突然の発言に反論を述べたエルノアだったが途中で装着されたウソビリ君によって身体中に電流が走り奇声を挙げた。当然のエルノアの悲鳴に周囲は驚き彼女に視線が集まった。


「なんで…いきなり、ビリって♡」


 とても電流を流されたとは思えない高揚した表情で不思議がっていると大河によって腕に取り付けられたウソビリ君の存在を認識した。そして同時に彼女は最高のおもちゃを手に入れた子供の様な顔をするとすぐさま口を開いた。


「わらしは…本当に…この不届き者に汚されてまショワアアアアアアアー♡」


 またしてもエルノアの嘘を感知され、ウソビリ君のメーターがレッドラインに振り切られると同時に彼女の体に電流が流れ込まれた。


 電流の流れが止まるとエルノアはそのまま力なく床に倒れた。それを見たレッドが一目散に駆けつけて大河に向かって怒鳴り声を上げようとしていた。


「貴様!またしても…」


 しかし、レッドが言い終える前に一緒に来たブルー含め2人の男性兵士は背後から飛んで来たクラリスに突き飛ばされた。そしてクラリスは倒れている妹の横顔を地面に横面を付けながら息を荒くして眺めていた。


「酷いです!何でことをするんですか貴女は」


「今おたくが吹っ飛ばした無実?の兵士2人を見てから言ってもらおうか」


 彼女にしては少し大きな声で大河を怒鳴りつけていた。だが罵倒している口とは裏腹にその表情は怒りとは別の一因による興奮を覚えた表情を孕んでいた。


よくやってくれました。最高です!どうしてこんな最低な事が出来るんですか


「おい、興奮しすぎて建前と本音が逆なってるぞ」


 大河の言葉も届かぬ内にクラリスはエルノアに付けられているベルトを自分に装着して興奮気味に喋り始めた。


「お父様誤解しないでください。私もエルノアも断じてお父様に虚言など吐いてはございませアアアン♡」


 陛下への提言の言葉を何故か妹を見つめながら喋り続けるという可笑しな行動を行なっていると嘘をキャッチしたウソビリ君によってエルノアと同じ結果となり、彼女の時よりも数段甲高い嬌声が室内に響き渡った。


「ああ、凄い。これが貴方エルノアが味わった…何ていう快感。しあ…わせ」


 エルノアに語りかけるように呟いた後。人生に悔いなしとでも言わんばかりの満足げなだらしなさを含んだ表情のまま気絶していた。


(俺は一体何を見せられているだ?というか…)


 結果として嘘を暴き電撃を食らわせて気絶させたのだから濡れ衣を晴らして無実を勝ち取り復讐したと言える状況なのだが、大河の心はちっとも晴れていなかった。


 何せ電撃を食らって倒れている2人の王女様の顔がお茶の間に出せない様な淫ら感じになってしまっているものの、それ以上にまるで福引で当たった温泉旅行を満喫しているみたいな幸せの絶頂を味わっている様な感じで笑ってもいる為、報復した筈が結果的に2人の幸福へと繋がってしまったのだからやり返したはずの大河からすると当然2人の反応はまるで納得いかないものだった。

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