39話  これまでは


『いいですか、女性が一人で子供を授かれるなんて当たり前の事じゃないですか』


 クラリスから口から放たれた衝撃の事実に大河は頭を悩ませた。前の世界の基準で言えば女性1人でも子供を埋めるようになったと言うのは『子供は欲しいけど結婚するのが嫌』といった世の女性達にとっては有難い話である。


 結婚し男性が働き、女性は家庭をという当たり前だったひと昔前の時代から、人の働き方やあり方が変わり、時代の流れと共に女性の女性の社会的立場が向上し、社会進出が進んでいった。それによって今では女性が働く事が当たり前の時代となった。


 逆に女性が働き、専業主夫として男性側が家庭に入るといったケースまで現れるようになり、新たな家庭の形というのが築かれるようにもなってきた。


 また年月と共に科学の発展によって昔と違いテレビや冷蔵庫、自動車などの家電や生活必需品が増えていき生活水準の向上とともに1家庭あたりの生活費や出費など上昇していき、昔と比べて男性側の給料だけでは生活やこれからの子供の養育費を貯蓄するのは厳しいため男女共に働きに出る共働きの家庭も増加している。


 しかし悲しい事に女性の社会進出により女性が働く事が日常化していく反面、女性が社会に出て活躍しキャリアを経て役職などに付けば付くほど女性の結婚年齢の平均が上昇していき、当然それに比例して出産年齢の平均も上昇していった。結果、少子化が社会的問題に至るまでの原因の一つとなった。


 しかも単に婚期が遅れた分が出産の遅れに繋がっただけでなく男性側にあった多忙期などの会社の事情や立場的理由から妊活に励まない時期があるように、女性側も働き会社での責務を果たすようになった事でこれに当てはまる事が現れ始め、子供は欲しいけれど互いの事情から時期をずらしざる得ない状況などが発生するようになった事が出産年齢が上昇する理由の一端となったと考えられる。


 子供自体は望んでいるけれど職種故に出会いがなく婚活が大変だったりや夫婦生活などに不安を抱き足を踏み出せない人もいる。

 例えば最初は夫婦協力して子育てを頑張ろうと言っていたのに実際子供が生まれると世話は奥さんに任せきりで家事育児に全く協力してくれない男性などいることから『自分の彼氏・旦那は大丈夫だろうか?』と不安を覚える人もいる。


 中には奥さんを労って家事育児を積極的に手伝ってくれるイクメンと呼ばれる旦那さんやそこまでいかずとも普通に協力してくれる旦那さんも当然存在する。

 しかしママ友の間などで旦那の愚痴を言い合っている時に育児等に非協力的な旦那さんの事がよく挙げられる事を考えると決して割合的に少なくないだろう。



 また出産の事も鑑みて早めに子供を作りたいと焦る女性側に対して子供の誕生によって自分の自由な時間が削られることを嫌い『まだ早くない?もう少し後でもいいんじゃない?』と子作りを先延ばしにし女性視点で考えてくれない楽観的な男性などがいる事や単に男性が嫌いだったり嫌悪感を抱いていたりなど色々な理由から『子供は欲しいけど旦那はいならない』といった考えの人も出てくるようになった。


 更に嫁姑問題などの夫婦間以外の問題やしがらみを嫌い結婚しないのが珍しくない世の中になったのが後押しとなり結婚しない男女が増加していった。それも結果的に少子化の道を辿る事になった一つと思われる。


 他にも人々の生活水準の向上とともに子供1人を育てあげるための養育費が格段に上がった事で昔のように1世帯で何人もの子供を養う事が難しくなり、1世帯につき出産する子供の数が減少したのも大きな理由ではあるが結婚願望がない、個々の理由で結婚しなくなっている男女の数は年々無視出来ない人数に膨れ上がってきている。


 これらによって何年晩婚化・未婚化が進み出生率が低下し続け、あらゆる出来事の積み重ねによってできた少子高齢化問題が社会的に深刻な事態であると問題視されるようになった現代社会において、メリットとデメリットがそれぞれ混在して必ずしもどちらがいいと言い切れない節はある。


 実際大河もこれがあくまで『女性が1人だけで妊娠出来るようになったら?』といった事が議題として挙げられたら色々な主張・意見が出てきて面白そうとは思えるものの、それはあくまでフィクションだからこそ楽観視できるのであって現実それが可能となれば大問題である。


 色々な事を抜きにして安直に考えるのであれば女性が1人だけで子供を授かることが出来るようになれば出産平均年齢の低下や出生数増加の可能性もあるだろう。


 しかしこれまで人は男性と女性との間で子をなし、その新たに生まれてきた生命を2人で協力する育て、その子供が成人しまた別の誰かと愛を育み子を宿し、育て、子孫を残していくといったサイクルが人のあり様であり、人類の歴史だ。


 これまで男性と女性という2つの異性の存在によって新たな生命が誕生していたが、それが女性だけでもなしえてしまえるとなればどうなるだろうか?

 大河はそれらを深く考えていく内にある大きな疑問が浮かび上がった。


(男性の価値ってどうなるんだろうか?)


 その疑問が更に大河を深い混乱状態へと陥らせていく。


 


 


 

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