40話 もしもの話
これまで通り男性と交際を重ね男性との間に子供を欲する女性と男性嫌い、男性恐怖症、レズビアン、など様々な理由から男性との付き合いはせず1人で子供を宿す派で分かれ、それが世間に認知され認められるようになるだけなら女性にとって選べる選択肢が広がった世界になったというだけでそこまで問題はない。
寧ろ今まで子供は欲しいけど個人の色々な事情で踏み切れずにいた人にとっては朗報であり、それによって子供を身ごもる母親が増えれば少子化問題は軟化していく可能性もあるかもしれず個人的にも世間的にも喜ばしい事ではある。
だが当然それだけで終わらない可能性は高い。あくまで予測でしかないが下手をすると男性と女性による夫婦の形が減少だけに留まらず消滅してしまう可能性まである。
当たり前の事ではあるが子育てというのはとても大変なもので、夫婦2人で協力しながらでも大変な労力を伴う。それが1人で育てるとなればいかに難しいかなど容易に想像はつくだろう。金銭面も親や親戚に頼らないのであれば1人で負担するしかないためそれもまた難題である。
しかし、深刻な少子化問題を抱えている現在では出生率増加の機会など国々が見逃すとは大河には考えにくく。独身出産・シングルマザーに対しての特別支援金などの法律が制定されるかもしれない。そしてそれに伴い保育園料の負担、0~2,3歳児までの無料ヘルパーなど母子家庭にのみ適用される法律、政策等が行われるようになるかもしれないと思い至った。当然色々なところから贔屓だとか文句や苦情が出てくるだろう。
しかしこのままいけば少子化が進み衰退の一途辿るのは目に見えており、これといった有効な打開策もない現在。出産願望はあるが結婚願望はない、或いはそれまでの過程に踏み込めない。
少なくない女性達に片親でもある程度安心して子供を育てていける環境を提供し子供を産んでもらえれば少子化の緩和に繋がるかもしれない可能性を考えれば踏み出す可能性はゼロではないだろう。
しかも世の家庭の中には年月を経て停滞期が訪れたり、夫婦間が冷めたりしてお互い顔を合わすといがみ合ってばかりで、正直離婚して縁を切りたいけど子供の事を考えると踏み切れないケースも少なくない。
更に男性がいないので夫に頼るといった行為も出来なるのだか、それによって協力してくれない夫にイライラし、寧ろ夫がいない方が気が楽といった家庭によって抱えるであろう悩みが当然となくるメリットも出てしまう。
その上男女同じく言える事ではあるのだが相手がいなければ浮気されたり、それによる離婚という破局も当然消滅される。両親共に揃っていた方が相応しいのだが、嫌な事にいないからこそのメリットが存在してしまっている事が1人での妊娠を後押ししてしまうのでは?と自分で自分の思考を追い詰めていった。
昔から男性の担ってきた役割や風習、そしてそれらが習慣づけられてきたことによって男女格差が生まれた。現在では時代の進みとともに徐々になくなりつつある。そして大河はその点について危惧していた。
(もしそれが逆なってしまったら?今まで人間の新たな命の誕生に男女が必要だったがそこに男性が不要になったら?女性側が人類存続のための特別な性として扱われるようになったら?そしてそれらが現実となったとき女性側に対して男性の印象とは?そもそも男性の価値、存在意義とは?そしてこれらの事が女性共通の間で疑問視されるようになってその際に女性と男性との間に圧倒的な格差が生まれていたら?)
考えを進めるごとに嫌な考えが次々と大河の頭の中で浮上していってた。そして或いは目の前の姉妹と言葉を交わし続けている内に知らず知らず脳が汚染され暴走しまったのかもしれない。
(いや、もし男性がいらない存在としてこの世界で抹消されてたら?今まで出会った男性だと思っていた奴らも本当は女でコスプレとかで男の格好してただったりしないか?)
ブレーキの壊れてしまった暴走車の様に大河の妄想は留まることを知らぬまま勢いを増して加速していった。
(あのクソ神のイカれた対応も実は俺が男だからこの世界に送り出す前の準備運動がてらあんな腐った仕事ぶりだったんじゃないか?与えられたクソスキルも男女格差の激しい世界故に有力スキルが与えられなかったとかないか?受付のお姉さんのあの怪訝な表情も俺の恰好云々ではなく俺が男性だからあんな表情をしてあんな冷たい対応をしたんじゃないのか?)
普通に考えれば否定する材料などいくらでも出てくるのだが今日だけで何度も脳内処理が追いつかずキャパオーバーしパンクする事態の連発により脳内に靄がかかったような圧迫状態で判断力は維持しるしく低下し、その状態からよくない方向へと考えを進めてしまい、恐怖によって疑心暗鬼になりそうに違いないと誤認して結論付けてしまった今の大河には冷静な判断が難しい状態となってしまった。
「その狼狽え様だと本当に知らなかったようですね」
「…一応確認したいんだがそれが冗談ってことは…」
「無知は恥ですがそれ以上の疑いは一種の侮辱になりますよ。過去に何人もの方がそれで出産されているのですから」
「
「ええ、
これまでの膨れ上がり飛躍し過ぎた妄想からのその言葉は一種の死刑宣告に等しく、ただでさえまるで知らないこの世界でこれらか自分はやっていける元から持ち合わせていなかった自信をさらに喪失した。
止めどなく溢れる不安を抑え込み胸にしまおうとするが表情は隠しきれず青ざめるその顔には緊張と得体のしれない恐怖から汗がにじみ出ていた。
「女性が1人で子供を授かる現象を
「そうか」
正常な状態の大河であればネーミングなどから色々引っかかる部分を感じたのだが、今は疑問に思うだけの余裕がなく聞き逃してしまった。
「別名想像妊娠とも呼ばれています」
「は?」
流石に半放心状態の大河でもこの言葉は聞き逃せなかった。まるで強烈なビンタを食らったような感じで自分の世界に浸っていた意識を強制的に目を呼び戻された。
「悪いがもう一度言ってくれ」
「想像妊娠といったんです。まったく、悪いのは頭だけにしてださい」
(落ち着け俺。一旦冷静になれ)
大河はゆっくりと息を吐きながら呼吸を整えた。ちゃんと酸素が脳に行き渡るようになり徐々に頭の靄が晴れていきまともに思考できる状態に回復していった。
「先程も申し上げましたがそれは愛の力で子供を身に宿し今なお語り継がれる偉大なる先人たちに対する大いなる侮辱ですよ。例え貴方にとって超絶不可能な無理難題な事だとしても他人を思いやり配慮する事や最低限自分の発言にもう少し気を配ってください」
(チョイチョイ挟まれてる俺へのディスリは置いといて、確かにコイツの言いうように俺はかなり失礼な事を言っているのかもしれない。だが想像妊娠なんて単語を聞いてしまうとどうしても疑ってしまう)
誤認の敬称とされている言葉だけにこの世界でのそれが大河の居た世界のソレと同じ意味を持つとは限らないが、大河はどうしても疑わずにはいられなかった
「参考までに聞きたいんだがその語り継がれてきた話ってどんなものなんだ?」
「いいでしょう。厚顔無恥でスカスカな貴方の脳に理解できるであろう素晴らしい語り継がれてきた伝説を語って差し上げましょう」
妹に関する話題を除くと基本的にはあまり表情を変えなかったクラリスが高揚した表情をしたことで彼女が語り始める前に大河の不安は蓄積された。
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