たい焼き屋さん

以前、私が大学生の頃、夜の東京を友達とふらふら歩いていたときのことです。9時くらいまでだらだら話しながら、目的もなく歩いていたのですが、明日も授業があるし、そろそろ家に帰ろうか、とりあえず一番近いJRの駅に行こう、ということになりました。スマホで地図を調べて、一番近い新橋駅を目指して歩いていました。

新橋はサラリーマンの街で、駅周辺はオフィスビルのほか、居酒屋といかがわしい店が本当に多くて、細くて汚い道に酔っ払いがたくさんいました。夜だったこともあって、当時の私は正直ものすごい嫌悪感を感じていました。

「こんな風になるなら、私、社会人にはなりたくないな。」私がそう言うと、友達はたくましくて、

「お前ピュアだからね。大学もサークルによってはこんな感じだから。」なんて笑われてしまいました。私としてはずっとピュアでいたいですけど。

そんな中で、列ができているお店があったんです。何かな、見てみようかと近くまで行ってみると、鯛焼き屋さんでした。そのとき私は驚きました。驚くところではないかもしれないですけど、汚い、いかがわしい店が立ち並んで、やかましい客引きがいて、そんな中に列ができているのが鯛焼き屋さん、というのは似合わない気がして、不思議で。大人気とかではなくて、単純に小さい店で、一人ずつ渡す方式なのですぐにさばける訳ではないという理由もあったのでしょう。ただ、夜の街に甘い匂いが漂って、疲れた心と身体には、アルコールよりもしみるものがあったに違いありません。アルコールが入って甘いものがほしくなった人もいたかもしれません。でも、「飲みュニケーション」とかいう言葉もあるけれど、そんなものよりもずっと良い、本当の意味の癒やしってこういうことだと思います。私が甘党だからでしょうか。

少し歩き疲れていた私たちも粒あん鯛焼きを買いました。クリームが入っている鯛焼きも美味しいですが、私はあんこ派。温かくて、甘い幸せの味です。歩きながら食べられるのがさらによいところ。鯛焼きを食べながら、友達と駅へたどり着きました。私たちはそこで別れました。

私の住んでいるところには、手軽に食べられる鯛焼き屋さんとかはなくて、あるとしてもコンビニ、温かいものでは中華まんやホットスナックくらいです。街中に居酒屋や風俗じゃなく鯛焼き屋さんが増えれば、世の中もっと平和になるんじゃないかなあ、そんな気分になったひとときでした。

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