第7話 次の街へ

 この国で冒険者が集まる第一の街といえば、ここシハバだった。

 連休でこの世界に訪れた私とアリサは、まずはアリサの装備を調えようと、街中を馬車でゆっくり移動していた。

「うーん、魔法使いか……。あっ、マントはあった方がいいよ。私も持ってないから買わないと。場所によっては、埃が凄まじいから」

「いきなりマントかい。定番だね」

 アリサが笑った。

「色々聞いてるけど、この先にいい感じのマントが売ってるらしいよ。いこう」

「うん、分かった」

 私は目的の店を見つけ、馬車を店先に駐めた。

「よし、いこう」

「よっと……」

 私とアリサは馬車から降り、店に入った。

「いらっしゃい。どのようなものをお探しで」

 感じのいいお店のオジサンが私たちを見た。

「頑丈さ優先で、飾り気があまりないマントがいいです。二人分」

「そうですか……。私の方で見繕いましょう。ちょうどいい品があります」

 おじさんは店内を回り、落ち着いた色のマントを何着か持ってきた。

「いかがでしょうか。いずれも魔法の糸を編み込んで作られているので、少々の魔法なら弾き返してしまいます。お値段もお手頃ですし、おすすめですよ」

 焦げ茶色のマントと深緑のマントを見て、私は即決した。

「この緑色下さい。アリサは?」

「じゃあ、私はこっちの焦げ茶色にしよう」

 アリサが笑った。

「ありがとうございます。二着で金貨一枚でいかがでしょうか?」

「分かりました」

 私はカウンターに金貨を一枚置き、さっそくマントを羽織って店を出た。

「なんか、冒険者っぽくなったね」

 私は笑った。

「そのために買ったとかいわないでよ。まあ、いいけど。必要な武器は、ゾルティさんからもらってるし、後はなんかある?」

「……私、もらってないよ。多分、ぴったりなのがなかったんだと思うけど、なにか欲しいなぁ」

 アリサが笑った。

「それもそうだね。拳銃撃てる?」

「触った事もないよ。日本だぞ!!」

 アリサが笑った。

「じゃあ、あんまり使わない前提で、短刀にしよう。といっても、店が多いんだよね」

 私は馬車でゆっくり進んで店を探していると、バトルアクスという長柄の斧と金属鎧を着込んだ女性が、私の馬車に止まってとアピールしてきた。

「なんだろ?」

 私は馬車を止め、御者台から飛び下りて女性に近づいた。

「どうしました?」

「ごめんね、急に。あなたがパーティのリーダー?」

 女性が笑みを浮かべた。

「凄い装備ですね。パーティというか、私たちは冒険者免許は持っていますが、旅人のようなものです。リーダーは私ですが、メンバーは一人しかいません」

 私は苦笑した。

「二人しかいないの、それは危ないよ。私が直前までいたパーティは内部分裂が起きちゃって、この際抜けようって一人旅でここまできたんだけど、ここなら新しいパーティに入れてもらえるかなって。ダメかな」

 女性が冒険者免許を提示した。

「分かりました。つまらないかもしれませんが、よろしくお願いします」

 私は笑みを浮かべた。

「私はエルザ・ウィンド。これ仮名なんだ、魔法使いがいきなり本名を教えるなってうるさいから。よろしく!!」

 エルザが握手を求めてたので、私も笑みを浮かべて応じた。

「私はマールディアで、後ろに乗ってるのがアリサです。よろしくお願いします。

「じゃあ、さっそくだけど、荷物載せるね」

 エルザは大きな背嚢を軽々と馬車に荷台に積み、重そうな鎧にも関わらず、身軽に馬車の荷台に乗った。

「それで、なにしてたの?」

「はい、アリサが護身程度の武器を欲しいといい出して、短剣なら大丈夫かなって思って」

 私は苦笑した。

「なれないと短剣でも危ないよ。アリサだっけ、免許見せてもらっていい?」

 アリサが面倒を取り出し裏返した。

「こりゃ極端だね。『魔法使い』以外のセンスがほとんどない。こういう時は。一か八かのナイフがいいよ。自分を斬っちゃうリスクが減るから。中古でよければあげたいだけど、私のナイフも折れちゃって、ちょうど作りに行こうって思ってたんだ。いい店があるよ」

 エルザが笑い、それほど遠くない店の前で止まってといった。

「大丈夫、腕は確かだよ」

「は、はい……いよいよファンタジックになってきた。

 アリサが笑った。

「よし、いこう」

 私たちは馬車を降り、武器屋の中に入った。

「なんだ、客か……」

 店内は熱気に包まれ。奥で仕事をしていた。小柄で強面のオジサンがカウンターによってきた。

「私はナイフ、こっちの子もナイフだよ。二本とも吊しでいいよ」

「分かった、好きに選ぶといい」

 おじさんが笑った。

「あまり派手なのとか、大きなものは選ばない方がいいよ。さりげなくね」

 エルザが笑みを浮かべた……。

「さりげなく……こんなのとか?」

 アリサが手にしたのは、どうみても包丁だった。

「それ冗談でしょ。よりによって、万能包丁なんて、いくらドワーフの旦那が打ったものとはいえ、戦闘には向かないかな」

「ドワーフ?」

 私がアリサが声を上げた。

「ああ、私たちと同じように見えるが、異種族だ。よく人間社会でも見かけるぞ。ここのオヤジはドワーフだ。剣を打たせたらこの街一番だろうね。ナイフはこっち」

 エルザが笑い、ゴツいナイフが並んだコーナにアリサを連れていった。

「……こ、これは。職質されて逮捕されちゃうよ」

 アリサの顔が引きつった。

「よく分からんが、このくらいでないと意味がない。これなんかいいな」

 いわゆるサバイバルナイフを手にしたエルザにそれを手渡した。

「シースナイフといってな。鞘にしまうタイプのナイフだ。私も同じものでいいか」

 エルザがナイフを二本持って、カウンターに移動した。

「なるほどな、さすがにいい物を選ぶ。料金はいつも通りいいか」

「いいよ。さて、いこうか」

 エルザがアリサの腰のベルトにナイフを付けてから、小さく笑みを浮かべた。

「あのお金は……」

「出世払いでいい。それはククリといってな。まあ、もうほとんど短刀に近いサイズだが使える」

 エルザが笑った。

「さて、どうしようか。リーダー!!」

 エルザが私に聞いてきた。

「リーダーって……。この街は便利だから、家を買おうかと思うのですが、どうでしょう?」

「それは、引退した冒険者がやる事だよ。それより、貸金庫を借りた方がいいよ。この大荷物は金貨でしょ。みんな、まさかと思って手を出さないだけだから、今まで無事だったんだよ。私の指示通りの道を進んで」

 エルザは笑みを浮かべた。

「はい、分かりました」

 私はエルザの指示通りの道を通り、やがて巨大な建物の前で馬車止めた。

「ちょっと待ってて。荷物が多いし現金だから、貸金庫の職員と話してくる」

 エルザが馬車から飛び下り、装備の重さを感じさせない身軽さで、建物の中に入った。

「……あの鎧、何十キロあるんだろ?

「……重そうだよね」

 私とアリサが小さく笑った。

 しばらく待っていると、疲れた顔をした二人のマントを羽織った女の子たちが、ヨロヨロと馬車に近づいてきて倒れた。

「うわ、なんとかしないと!!」

 私は御者台から飛び下り、二人の様子を覗った。

「み、水を……」

 一人が声を出したので、私は水筒から二人に水を飲ませた。

 たちまち人だかりが出来上がり、その中心の私たちは周囲に助けを求めたが、関わりたくないのか、誰も動かなかった。

「やっぱりね。私でもこうしたかも……。厄介ごとを抱えているのは、ほぼ間違いないから」

 私はため息を吐いた。

 しばらくすると、『退いた、退いた!!』と声が聞こえ、エルザが帰ってきた。

「なに、病人?」

「それが分からないんです。ヨロヨロとここまできて、そのまま倒れてしまったので」

 エ

 エルザが二人の様子を見て、鞄の中から薬瓶を取りだして二人に飲ませた。

「カランカランの砂漠にでも入ったか。二人だけって事はあり得ないから、他にメンツもいただろうに……。こういう事もある。大サソリの毒を食らって、よくここまで頑張ったよ」

 エルザが笑った。

「……ますます、ファンタジー」

 アリサが、小さく零した。

「あ、ありがとうございます」

 言葉も出ない感じのもう一人に代わってという様子で、一人が笑みを浮かべた。

「私はオーエル。こっちはカレン。エルフの私たちを助けて頂いて、本当にありがとうございます」

「私は種族なんか問わないよ。困っている人がいたら助ける。人として当たり前でしょ。さて、こっちの用事を片付けるから待ってて。金貨なんていってないよ。現金って聞いたら、隣の銀行の方がいいって事で、係の人が台車を持ってくるから」

 しばらくして、建物からワラワラと台車を持ってくる人たちが見えた。

「どんなヤマを当てた知らないけど、小麦十五袋はあるよ。私もあやかりたいね」

 エルザが笑った。

 程なくやってきた人たちが、荷台の中を見て声を上げた。

「私はシバハ銀行の者です。今回はご預金頂くとの事で、大変ありがとうございます。まずは危険なので運んでしまいましょう」

 眼鏡を掛けたおじさんが頷いた。

「マールディア、いってらっしゃい。口座作らないといけないから」

 エルザが笑った。

「分かりました」

 私は皆を残し、銀行の方々が急いで建物に台車を運び込んでいく姿がみえた。

「いらっしゃいませ。まずはこれにご記入下さい。冒険者の方と伺っていますので、住所は空欄で結構です」

 私は差し出された紙にペンを走らせ、最後にサインをした。

 その間にも、麻袋から金貨を取り出して機械に通して数える作業は続いていて、最後の一袋が終わったのは、かなりの時間が経ってからだった。

「紙幣なら楽なのにね……」

 私は小さく笑った。

「こちらが通帳です。ありがとうございました」

「ありがとうございます」

 私は通帳を開き、ちゃんと手書きで記載されているか確認してから、私は馬車に戻った。 中身が大分スッキリした馬車の荷台には、まだ子供にみえる二人が泣きながら、エルザの質問に答えていた。

「ああ、お帰り。この二人は、魔法使いとヒーラーのコンビなんだって、他に三人いたけど、巨大毒蜘蛛にやられちゃって、なんとか逃げ帰った幸運の子だよ」

「ヒーラー……ああ、回復専門の魔法使いか。生きててよかったよ」

 私は笑みを浮かべた。

「まっ、落ち着くまで待とう」

 エルザが笑った。

「あっ、いい物があるよ」

 私はトランクボックスからオレンジなどの果物を取り出し、みんなに配った。

「あれ、気が利いてるね。オレンジは好物だよ」

 エルザが笑った。

 どれほど経った頃か、泣いていた子たちが泣き止み。静かに座っていた。

「どう、大丈夫?」

 私が聞くと、二人は頷いた。

「私は、オーエル。魔法使いです。こちらはヒーラーのカレン。あの、もし差し支えなかったら、このパーティに入れて頂けませんか。ご迷惑はお掛けしません。エルフなので、なかなか相手にしてもらえないのです」

 なにか、オーエルが必死な目つきで訴えてきた。

「いいよ。いっておくけど、このパーティはまだ急作りだからね。危ないかもよ」

 私は笑って、馬車の御者台に座った。

「さて、どこにいこうか……酒場で探そうかな。商隊の護衛とか、比較的穏やかなやつで」

「マールディア、穏やかなのもいいけど、準備体操を兼ねてゴブリン討伐でもやらない。この近くのペンタクスって町で、毎晩のように襲われて迷惑してるんだって。受けるなら、ひとっ走りして、酒場に行ってくるけど……」

 エルザが束にして持っていた依頼書から、一枚引き抜いて私に手渡した。

「……うん、これなら良さそうだね。基本的には、町から出ないで戦えるから」

「分かった、行ってくるよ」

 相変わらずの身軽さで、エルザが馬車から飛び下りていき、赤いバンダナを手に帰ってきた。

「今はピリピリしてるから、依頼を受けた冒険者だって分かるように、これを左腕に巻いてくれって」

「分かった。みんな、出来る?」

 みんなといっても、オーエルとカレンに対してのようなものだが、二人ともちゃんと巻き終えた。

「えっとペンタクスね………」

 この町は四つある主要街道が一つに集まる、王都の近所だ。

 どこにでも行けるので、私は特に考えず、地図通りに馬車を進めた。

「おーい、食料と水を忘れているよ」

 エリザが笑った。

「えっ、ここで補充するような距離では……」

「甘い。なにが起きるか分からないぞ。ちゃんと三日分は買っておこう」

 私は頷き、通りすがりにあった店で、食料と水を購入して馬車に積み込み。改めて町の出入り口に向かった。

 特に止められる事もなく町から出た私たちは、草原しばらく走り、前方に見えてきた北方街道に入った。

 目的のペンタクスは、ここから半日走ったところにあるが、出た時間がおやつ時の十五時頃だったので、野営は必須の旅だった。

「もし、アリサとだけだったら、出発は明日にしただろうな」

 笑いながら、私はここには必須だと思って、秋葉原で投げ売りされていた無線機を安いからと、予備を含めて十台買いインカムを接続して上着のポケットに入れてあった。

「ん、なにそれ?」

「うん、遠くにいる人と会話出来る機械。必要だと思って買ったんだよ。

 私が答えると、エルザが驚きの表情を浮かべた。

「全員分あるから、仲良くね。アリサ、使い方の説明をよろしく」

「あいよ!!」

 元気よく答えたアリサが説明し、さっそくエルザの声がインカムに入った。

『これでいいのか?』

「大丈夫。問題ないよ」

 私はインカムのトークボタンを押して答えた、

『これはいいな。声が届かなければ、まず私が不安にあるからな。これは面白いものを手に入れたぞ』

 エルザが大事そうに無線機をしまった。

「ちょうど十台あったから、一個は予備にしてね」

「分かった。一個は予備だぞ」

 エルザはまるで弟子に説教するかのように、オーエルとカレンにいった。

「はい、分かりました」

 オーエルが頷いた

「はい、これどんな仕掛けなんですか?」

 カレンが不思議そうに聞いてきた。

「それは、私もよくわからないな」

 まさか、電波とかいっても分からないだろうと、私はお茶を濁した。

 しばらく進んで行くと、役立たずと評判の街道パトロールの一団がすれ違っていった。「滅多にいないんだよね。仕事しろ!!」

 私は笑った。

「おっと、この辺りじゃ珍しいけど、乱暴な輩が接近中だよ。馬の地響きで分かる」

 エルザの声で、私は馬車を止め、ビノクラで辺りを見回し、馬の土煙が上がるのを確認した。

「距離は約二百メートル。オーエルとカレンはいけそうなら、馬車から降りて戦闘準備!!」

「はい、いけます」

「ただ乗りは嫌です、二人で決めました」

 私は笑い、皆で馬車から降りた。

「どういう戦術でいく?」

 エルザが戦斧を構えた。

「はい、また個々の能力が分からないので、魔法使い二人で一発かまして下さい。それで散ったら、乱戦に持ち込みましょう。私は適宜移動して、狙撃しながら監視を続けます。もう少し引きつけてからの方がいいでしょう」

 私はビノクラから銃のスコープに変え、戦闘をいく盗賊だか強盗だかに照準を合わせた。 「……私が撃ったらスタートです。いいですね」

 私は百五十メートルまで引きつけ、銃の引き金を引いた。

「今です!!」

 私の声でアリサとオーエルが魔法を放ち、エルザが大きく戦斧を振りかざして構えた。

「リーダーを守るのは、当たり前の事だよ。ここで闇雲に突っ込んでも意味がない」

 エルザが笑みを浮かべた。

 やってきた敵は大混乱に陥り、私はリーダーと思しきモヒカン頭に照準を合わせ、引き金を引いた。

 弾丸は外れたが馬の背中に命中し、元々混乱状態で暴れていた馬が死に物狂いで暴れ、乗っていたモヒカンを振り落とし、どこかに向かって走っていってしまった。

「……もう一発」

 私は地面に落ちて、うずくまっているリーダーの背中を撃った。

「いい腕してるね。じゃあ、そろそろ私も暴れてくるかな」

 エルザが身軽な動きで飛び出し、混乱状態からなんとか立ち直れそうな感じの賊を狙って巨大な斧を振り回し始めた。

「……すっごい」

 その暴れっぷりに思わず目を丸くした私だが、私はビノクラで辺りを見回し、あっという間に片付いた事を確認した。

「ふぅ、あまり強くなくて良かったよ。集まったらいこう」

『あー、エルザだ。終わったぞ』

 無線でエルザの声が入った。

「分かった、お疲れ様。帰ってきて」

 私は笑みを浮かべた。

『おっ、声が聞こえた。これは便利だな』

「はい、そういう機械なんです」

 私は笑った。

『うん、面白いね。これは作戦が立てやすくていいね』

 魔法使い隊もお疲れさま。

「はい、久々に撃ちまくりました。これで、当分ここには寄りつかれないでしょう」

 カレンが笑った。

「マールディア、ちょっと酷使しすぎ。目が回る……」

「魔力切れですね。薬を飲めば治ります……。あれ、品切れ。そんなバカな!?」

 カレンが声を上げた。

「カレン、全部使っちゃったでしょ」

「しまった」

 オーエルの言葉に、カレンが頭を抱えた。

「そうでした。しまった」

 どこまでいってしまったのか。エルザはなかなか帰ってこなかった。

「エルザ、どこ?」

『ごめん、最速で走ってるんだけど。もう二十分待って!!』

 荒い息づかいと共に、エルザの声が聞こえた。

「あれ、ずいぶん遠くまでいっちゃったね。アリサ、生きてる?」

 私は後の荷台をみた。

 すると、荷台の床に寝かされたアリサが、荒い息をつきながら、明らかに危険な状態だった。

「私がヒールで抑えていますが、このままで死んでしまいます。薬があれば、一瞬で治るのですが……」

 カレンが焦りの表情を見せた。

「まいったな……」

 しばらく途方に暮れていると、御者台に長身の女性が近づいてきた。

「お困りのようですね。私は薬を売り歩きながら、世界を旅しているものです。見せて頂いてもよろしいですか」

「はい、お願いします」

 女性が荷台に乗り込むと、私も御者台から移動した。

「これは魔力切れではなく。毒矢を受けましたね。この鎧の継ぎ目に、掠った後があります。薬が違います。少しお待ちを」

 名も知らない薬屋さんは、違う薬を持ってきた。

「毒消しはこちらです。さっそく飲ませてあげて下さい。銀貨二枚になります。では、よい旅を」

「よし、飲まそう」

 私はぐったりしてしているアリサに薬を飲ませた。

「毒と魔力切れを間違えるな!!」

 オーエルがカレンにゲンコツを落とした。

 薬を飲んだアリサは、身を起こして首を横に振った。

「うげぇ苦い……なんか変だったったな、毒がどうとかそれを私が食らったとか……」

「夢じゃないんだよ。全部ホント」

 私は苦笑して、立ち上がった、

「大丈夫そうだけど、なにかあったら呼んで」

 私はトランクボックスをよじ登り、御者台に座ってみると、ちょうどエルザが馬車に到着した。

「ゴメン、ヤツらの本拠地までブッ潰してたら、遅くなっちゃった」

「そこまで追ったの!?」

 私は思わず驚きの声を上げた。

「うん、そうしないとキリがないから。勝手にいっちゃってゴメンね」

「せめて、そういってからにしてね。心配だから」

 私は小さく息を吐いた。

「うん、そうする。こっちはどうだったの?」

「それがね、ボスを倒したのはいいけど、アリサが毒を食らっちゃって」

 私の言葉にエルザが反応し、すぐさま荷台に飛び乗った。

「おい、大丈夫か!?」

「大丈夫だよ。今は問題ないけど、服が汗だくだよ」

 アリサが苦笑した。

「おーい、いくよ。すでに予定をかなり押してるから」

 私は馬車を出し、街道をガタゴトと揺れながら走りはじめた。


 街道を行く馬車は、徐々に夕闇が迫る中、全速力でかっ飛ばしていた。

『エルザだ。この先にちょっとした森がある。ここらで止めておかないと、夜が厄介だぞ』

 インカムにエルザの声が聞こえた。

「分かりました」

 私は馬車の速度を落とし、邪魔にならないように路肩に馬車を乗り入れた。

「それじゃ、テント張るよ」

 エルザが笑った。

「待って、面白いテント持ってるから」

 この五ヶ月でこの世界のテントがいかなるものか知った私は、あんな寝られないものよりと、十人用の大型テントを持ってきていた。

「……あっちで使うなっていわれていたけ、文句いわれないからいいよね」

 私は空間に裂け目を作り、中から色々取りだした。

「アリサ、得意でしょ!!」

「任せなさい!!」

 アリサが手際よくテントを張り始め、その間に私はコンロや炭などの調理器具を下ろし、暗くなる前に全ての準備が整った。

「な、なんというか、物珍しどころではないぞ」

 エルザが驚いた様子でいって、テントなどを触り始めた。

「中に入っていいか?」

「いいよ。但し火気厳禁だから、これつかって」

 火起こしが終わり、私は電池式のランタンをエルザに手渡した。

「明るい、しかも熱くない。在庫があれば、これを売ってくれ!!」

 エルザが真顔で迫ってきた。

「今からあちこちに置いて、躓いたりしないようにするけど、それ一個でいいならプレゼントするよ」

「ありがとう、恩に着る。油はどこに入れるのだ?」

 困り顔のエルザに小さく笑い、分かる範囲で答えた。

「ふむ、電池とな……」

「これが予備で買ってきたものなので、一つあげます」

 私はエルザに、パック式で販売されている電池の束を渡した。

「何から何まですまんな。金貨十枚でどうだ?」

 エルザが財布から金貨を取り出し。

「えっ、プレゼントですよ?」

「いや、イカン。これはもらいすぎだし、私の個人装備だからな」

 エルザが無理矢理、私の手に金貨を押しつけて笑った。

「は、はぁ、でした。頂いておきます」

 私はもらった金貨を財布にしまった。

「うむ、いい買いものが出来た。ところで、これは調理器具に見えるが」

「当たり。早くご飯作らないと夜になっちゃうよ」

 私は笑みを浮かべた。

「よし、私が担当しよう。この構造だと焼き物が最適だな。任せろ。オーエル、カレン、手伝ってくれ。日暮れまでもう時間がない」

「はい、分かりました」

「はい」

 こうして、私たちは力強い味方を得たのだった。




 実は。アリスは料理が上手い。

 水も食材も限りがある中で、十分豪華な食事を楽しんだ。

 食事も終わり片付けを済ませると、私たちは適当な地面にカンテラを置き、食後の座談会になった。

「そうか、冒険者になってまだ一年も経ってないのに、もうプラチナ五か。キワモノ揃いのブラックまであと少しだな」

 エルザが笑った。

「まだ上があるんですか?」

「ああ、伝説級の冒険者ばかりだがな。アリサは今回がデビュー戦か?」

「ほぼ、そんな感じだよ!!」

 アリサが笑った。

「私はもう二十年やってるが、嬉しい事も悲しいことも色々あったな。リーダも色々経験があるだろう。でなければ、免許ランクがプラチナなどあり得ん」

 エリザが笑った。

 しばらく三人で話していると、街道を誰かが歩いてくる音が聞こえた。


「夜分済まなないな。冒険者でこっちは二人だ。無論敵意はない」

 男の人が声を上げ、私が明かりの光球を浮かべると、ボロボロにやられた鎧姿の男性と女性の姿が表した。

「今晩は、どうしました?」

「ああ、強盗に三人食われちまった。俺はマーティンで、こっちは魔法使いのミンティアだ。よかったら混ぜてくれ」

 アンガスはつかれた笑みをみせ、ミンティアは苦笑した。

「怪我を治しましょう」

 静かにしていたカレンが動き、二人の傷を治した。

「ヒーラーがいるのか、羨ましいな。ありがとう」

 アンガスが笑みを浮かべた。

「ゴメンね、この先の町が目的地なんだけど、まさかこんなイージーなところでって感じだよ」

 ミンティアが小さくため息を吐いた。

「夜の草原は危ないですよ。絶好の狙撃の的です」

 私は苦笑した。

「それにしても、冒険者に生き死には付き物だが、戦力的な意味を含めても三人同時に亡くしたのは痛い。近くの街で体勢を立て直そうと思ったが、一時的でもいいから俺たちをパーティーに加えてくれないか?」

「それなりに戦えるつもりだよ。回復もそこそこ出来るけど、ヒーラーが乗ってるなら別だね」

 ミンティアがが笑った。

「はい、こちらこそ喜んで。こちらも、戦力が不足していたんです。直接攻撃出来る前衛が一人では辛いですし、うちの魔法使いはまだ修行中で……」

 私は笑った。

「そうか、ありがとう。名前を聞いていいか?」

「うん、私がマールディアで、こっちの髪の毛が長いのは友人でもあるアリサ、最近仲間になったエルザ。エルフの魔法使いオーエルとヒーラーのカレンです」

「よろしくな。弔い酒するなら付き合うぞ」

 エルザが笑った。

「それもいいが、つかれちまった。宿営の準備も出来ている用だし、馬車の下でも貸してくれ。嫌な事は寝て直すさ」

「私も寝る。なに、あの面白い三角形の家みたいなの?」

 ミンティアが興味津々にみた。

「テントっていって、中で寝られる家みたいなもの。シュラフもあるからそれに包まって寝るんだよ」

 私は笑った。

「それじゃ、おれは馬車、女性陣はテントにしますか。悪いが寝るぜ」

 マーティンは馬車に上った。

「一人きりで悪いな……」

 私が呟くと、ミンティアが笑った。

「一緒の方が可哀想だって、あんまり気にしない冒険者だけど、男は男、女は女だからね」

「それもそうか……」

 ミンティアが元気よくいって、私たちはテントに入ったした。

 私は屋根の部分にあるフックにLED式のカンテラを引っかけ、武器類を纏めているベルトを外し、そのままシュラフに潜り込んだ。

「こら、部屋着に着替えちゃいかん。いつなにがあるか分からないから、防具を外す位にする事!!」

 アリサが笑みを浮かべた。

「そっか、これじゃ話にならん」

 アリサはパジャマを脱ぎ、杖を持てばかにも魔法使いという格好に戻した。

「ありゃ、素直だね。いいことだ。それじゃ寝るよ。これ、明るさの調整は出来るの?」

 アリサが聞いた。

「ああ、さっき教わった。私がやってみよう」

 エルザが灯りを調整し、程よく暗くなったところで、私たちは全員眠りについた……思ったら……テントを外からノックされた。

「おい、まだ起きてるか? 前方の森から殺気を感じる。魔物か?

 私はシュラフから這い出て、御者台からビノクラーで辺りを見回した。

 すると、弓を持った人がどっさり、そこら中の木々の上にいた。

「かなりの人数が、樹上でこちらを監視している様子。数えきれないな」

「なるほど、なんで街道がこの森を迂回するように作られているか分かった、エルフのテリトリーなんだ。刺激はしない方がいいな」

 マーティンが呟いた。

「エルフか……ヤバいね。一回間違えて入っちゃって、追い駆け回れたし。やっぱり、人間はダメなの?」

 飛び起きたオーエルとカレンが、顔を青くしていった。

「人間どころか、私たちはぐれエルフやハーフエルフにも厳しいんです。捕まったらここで殺されますよ」

 オーエルの言葉が震えていた。

「相当だね。じゃあ、動かないのが正解かな」

「そうだな。しかし、この環境もキツいな。馬車を森から離した方がいいと思うぞ。これじゃ、休むに休めん」

 私はたちは頷き、こんな場所ゴメンだとばかりに急いで撤収準備を始めた。

 他の荷物は積んであるので、テントとシュラフだけだった。

「忘れ物ないね。いくよ」

「おはよ……眠い」

 寝起きのよくないアリサが、テントの撤収作業から寝ぼけていた。

「もうちょっと我慢して!!」

 私はビノクラー片手に様子を確認しながら、街道を最大速度で駆け抜けて、木々がぽつぽつと生えた草原に出て止まった。

「ここなら大丈夫かな……どう?」

 丸見えだが、あそこよりはいいと思うぞ。このまま動けるように、今日は全員馬車の床だな。リーダー、ちょっと見張り代わってくれ。疲れがどうにも……」

 マーティンが眠そういった。

「分かった。みんなは寝ていいよ。私はビノクラーを覗きながら、御者台で時々居眠りのように仮眠を取りながら、夜明けを待った。

 やがて空が朝焼けに染まり、私は大きく伸びをした。

「やっと朝だ!!」

 私は御者台から降りて、馬車の各所を点検した。

「変なところは故障してないね。ふぅ……」

 私はタバコのボックスを取り出し一服した。

 今日は町に着かないと、連休中に終わらない。進んじゃおう」

 私は馬車の手綱を取り、ゆっくり馬車を走らせた。

「なんだ、寝不足じゃない!!」

 振動で起きたか、マンドラが声を掛けてきた。

「大丈夫だよ。まだ遠いかな?」

 ミンティアがごそごそやって、赤いバンダナを左腕に巻いた。

「そ、それ!?」

「パクったんじゃないよ。私たちも同じ依頼を受けていたの。他のパーティーには依頼しないってのが鉄則なのに、もし私たちが見知らぬ冒険者だったら。報酬を巡って大バトルになっていたかもしれない。もうあの情報屋は使わない!!」

 マンドラが笑った。

「あれ、もう起きていたんですね」

 眠そうなカレンの声が聞こえた。

「おはよう。エルザはまだ寝ているね。マーティンともか……アリサが起きるわけない」

「大物だね、この振動で起きないなんて

 私は笑って。馬車の速度を上げた。

「ここまでくれば、ゆっくりでも昼前までにつくぞ。無理すんな!!」

 ミンティアが笑った。

 街道の馬車旅は順調に進み、手綱を握る私以外、全員が起きて放り込んだままの大型テントを片付ける作業をやっていた。

「しかし、このテーブルといいテントも生地といいなんともよく出来ていいる。頼む、売ってる場所を教えてくれ!!」

 エルザが両手を合わせた。

「それが、たまたま護衛した商隊のオッチャンから買ったんだよ。だから、今どこか分からないんだ」

 私は咄嗟に思いついた嘘を返した。

 まさか、異世界ですとはいえなかった。

「そうか、商隊ながら流れ流れていくからな。いや、大変気に入っているのだ。また面白い物を手に入れたら、ぜひ見せて欲しい。可能なら買い取らせてもらうよ」

 私は笑みを浮かべた。

「うむ、これは楽しみだ。その炭火コンロは自作出来そうだな」

 エルザが笑った。

「好奇心旺盛ですね」

 私は御者台で笑った。

「そうじゃなければ、冒険などやらん。もっと堅気の仕事をしているだろう」

 エルザが笑った。


 馬車を進めるうちにまるで城塞のような高い壁を作って、守りを固めた街が見えてきた。 街道のそこここに検問があり、私たちの赤いバンダナを確認すると、そのまま通してくれた。

 最後の検問を抜け街に入ると、中は軍の駐屯地かと思うほど、武器弾薬がごっそり揃っていた。

「まずは依頼を出した町長に挨拶しにいこう」

 エルザの提案で、何度かきた事があるというマンドラの案内で、私は馬車を駐車場に駐めた。

「よし、いこう」

 私たちは馬車から降り、大勢連れて役所に入った。

 総合受付で依頼書の写しを提示すると、受付のお姉さんはピクッと体を震わせてから、少々お待ちくださいといって、慌てて階段を上っていった。

「こりゃ、相当町長はビビってるな」

 エルザの声に。私は小さく笑った。

 しばらくして、明らかに偉い人と分かる雰囲気のオジサンが階段で下りてきた。

「待たせて申し訳ない。やっと冒険者らしい者がきてくれた。他の者はチンピラと変わらん。犯罪まで犯す始末でな。我々は急いでいた。今夜総攻撃を掛けるという予告状が届いてな。あらゆる手段で迎撃すべく、冒険者にも声を掛けたが……むずかしいものだな」

 町長は小さく息を吐いた。

「町長、あらゆる手段ということは、大きく分けて三つある冒険者グループ全てに声を掛けませんでしたか?」

 ミンティアが鋭い声を飛ばした。

「ああ、その通りだ。大勢の方がいいだろうと……」

「逆です。依頼の重複は報酬に影響しますので、普通は問題ないで流されてしまいます。私たちが個々にいるのは、偶然が重なったものだと思ってください。それで、具体的な作戦は?」

「もう外で待っている防衛隊隊長の馬車で確認してくれ。ここは、事務処理でパンクしてるからな。では頼んだ」

 町長は階段を上っていった。

「立ち話か。全く……」

 マンドラが苦笑した。

「まあ、この方がいい。私たちは、依頼を受ける、達成する、即座に引き上げるだからね」

「外で待ってるがいるらしいし、そろそろ行こうか」

 私は皆を促し、役所の外に出た。

「お前えたちが。町長との面談をパスしたのは。ここの武装は強固だが、手が足りぬ故にお前たちの力を借りる事になった。よろしく頼む」

 車の軍人みたいな人が、荷台に地図を広げた。

「君たちには個々を押さえて欲しい。正門前は大混乱になるのは目に見えるからな。

北西門といって、普段は滅多に使われないので、完全に穴になってしまっている。いいか?」

 私は地図を見つめ、一つ頷いた。

「……分かった。やってみよう 

 ……一度、いってみたかった。

「うむ、頼んだぞ。その地図は持っていってくれ」

 私が地図を取ると、忙しそうな隊長は馬車で走り去った。

 私はその地図を折りたたみ、ポケットにしまった。

「なんか、お肌に合わない街だねぇ」

 アリサが笑った。

「終わったらすぐ出ていくから」

 私は笑った。

「そうだね。個々で寝泊まりはしたくない」

「あのオッサン、なんか値切りそうだし、言い値でもらってとっとと去るか」

 マンドラが笑った。

「ずっと気になっていたんだけど、なんでこんな文句ばかりの依頼を受けたの?」

「路銀が尽きたんだよ。どんなクソ依頼でも取らないとだめだったんだ」

 マンドラが苦笑した。

「気をつけろ。油断するなよ」

 エルザの声を聞いて、私はライフルにボックスカートリッジをセットした。

「オーエル、カレン戦闘いける?」

 私たちはゆっくり馬車むかってある気ながら。二人に聞いた。

「はい、大丈夫です」

 オーエルの言葉が返ってきた。

 ちょうど馬車についたので、私は御者台に乗った。

「この地図によれば、ちょっとした林が北西門に迫った場所にあります。別動隊がいるすれば必ず個々を狙います。街の裏手ですし、街中へ奇襲を掛けてくるでしょう。本命は個々です」

 私は迷うわずいった。

「そうだな、俺ももやるならここだな。隙だらけだ」

「そうだね。提案があるんだけど、リーダーが壁の上から狙撃して、怯んだところをねらうってのは」

 マンドラが笑みを浮かべた。

「そう考えていましたが。壁から離れた地点のサポートが出来ないので、没にしたのですが」

「大丈夫だ。リーダーは北西門の守備に当たってくれ」

 エルザが笑みを浮かべた。

「分かった。あれかな……」

 他の門とは様子が違い。いかにも廃れた感じの門に、やる気もなさそうな衛兵が二人いた。

「開門だ。速くしろ」

 エルザが低い声を飛ばした。

「開門だと。そんな命令聞いてないぞ」

 やっぱりやる気のない二人に、エルザとマーティンのパンチが炸裂した。

「な、なにした……ぎゃあ!!」

 抜剣しそうになった二人の手を、エルザとマーティンが踏んで止めた。

「……抜いたら命は亡いぞ」

 マーティンが囁くようにいった。

「わ、分かった。指示が来ていないのは本当なんだ。」

「作戦は町長がいない場所でやったからね」

 マンドラが笑みを浮かべた。

「冒険者マールディアでの名において、ここの開門を命じます」

 私も重すぎて振れない剣を手に、変に格好をつけると。マンドラとマーティンが笑いを堪えているのが分かった。

「わ、分かった。しかし、いいのか。開門と閉門には五分以上かかるぞ」

「構いません。外に出るのは私以外です。この門に近づけさせません。

 私は剣を収め、代わりに拳銃を抜いた。

「サボったらこれだからね。どこからでも狙ってるから」

 私は拳銃を引っ込めエルザとマーティンが手を退け、門番が慌てて門のつっかえ棒を外し、重たい音と共に門があいた。

 すぐさま私を残してみんなが外に出て、私が顎で指示を出すと、恐怖の目が見ていた。「早く!!」

 門番は慌てて門を閉じ、固く閉めた。

「はい、通話チェック。アリサ」

『OK』

「エルザ」

『問題はない。これはどこで売っているのだろうか』

「ミンティア」

『オモチャに見えるけど、本当に聞こえるね。どんな魔法が……』

「分解はしないように。オーエルとカレン。調子はどう?」

『オーエルです。問題ありません。しかし、なぜ私とカレンが一緒なんですか?』

「二人とも、常に一緒でしょ。だから、一緒にしたんだけど。別の欲しい?」

『はい、出来れば欲しいです。常にオーエルと同じとは限らないので』

「分かった、あとでね。今は出来ないから」

『分かりました』

「マーティン」

「ああ、問題ない」

 全員の無線が正常なのを確認し、私は近くにあった壁上への階段を駈け上った。

「えっと……」

 まずは現状確認。

 ビノクラーで確認すると、樹上でこちらを監視する盗賊団だか強盗団の姿が三人。

「……やっぱりいた。おやすみ」

 私は銃を構え四百メートル先の偵察部隊一を倒した。

 同時に走り出した馬の足を撃った。

 これで、狙撃者がいるという情報は伝わらないはずだった。

「さて、次。今の銃声で逃げちゃったかな……」

 ビノクラーで確認すると、いきなりの銃声で驚いたようでワタワタしている様子だった。「……こりゃダメだ」

 私は引き金を引き、そのままその場を離れた。

 三人目は余裕がある様子で、こちらに弾丸の嵐を吹きかけてきた。

「……あんなライフルあるの。でも、私はこれでいいや。覚えるの大変じゃないかと思うし」

 私は迫る弾丸が収まって瞬間を狙って、男の眉間を撃ち抜いた。

 すぐさま、相棒が乗っている間であろう馬が走り去ったが、これはいい。ここになんかいる程度のことで、どうしても行動が止まるのだ。

「あとはいないな。やっぱり、こっちが別動隊と見せかけた本隊だ」

 私はインカムのトークボタンを押した。

「各位へ、偵察中の三人を倒した。なお、わざとここに私がいるという情報を流した。全員、戦闘配置」

 門の前で待機していたみんなが動き、近くのブッシュに身を隠した。

「まだ夕闇時だけど、計画を早めて動くかもしれない。油断しないように」

 無線で声をかけ、私は残り二発のマガジンを外し、新しいマガジンをセットして、抜いたばかりのマガジンに弾薬を補給した。

「……さて、どんなのが出てくるか」

 敵はやはり予定を早めてきた。

 林の中をゆっくり馬で歩いてきて、門から離れた。場所に陣取った。

『いい、私が一発撃ったら、攻撃の開始だよ。返答無用』

 私はビノクラーで辺りを探したが、肝心のターゲットが見つからなかった。

「さすがに考えたが。下っ端をいくら倒してもキリがないから、ボスクラスを倒したいンだけどな……」

 見ると怯えて一歩も踏み出せない下っ端を、平手ビシバシして無理にでも動かそうとしているオッサンがいた。

「……とりあえず、あれ狙っておくか」

 私はそのオッサンに照準を合わせて。一発撃って伏せ撃ちのポジションを変えた。

 オッサンの頭を撃ち抜き。混乱になった一団に向かって、地上の全員が飛び出し、オーエルがいきなりド派手な攻撃魔法を放つのが見えた。

「オーエル、落ち着いて。目立ち過ぎだよ」

『ごめんなさい。力を入れすました。以後、気をつけます』

 オーエルの声が返ってきて、私は小さく息を吐いた。

 統制が取れた盗賊団など烏合の衆で、私は北西門を見守った。

 中には混乱のあまり、私のキルゾーンに入ってきた輩がいたが、それはもれなく撃ち倒し、林の中は届かないので。何かに祈るしかなかった。

 しばらくして、エルザがさっきのオッサンの首を持って、意気揚々と引き上げてきた。

「開門!!」

 よほど怖かったのか。二人の門番が慌てて門を開けた。

 そこに、全員が帰ってきて、ドサリと首を置いた。

「閉門!!」

 私が叫ぶと、門番は門を閉じて、その場に倒れた。

「ほら、運度不足!!」

 マンドラが笑った。

「まあ、これで終わりかな」

「多分ね、さっさと報酬をもらって出ましょ。しっかし、いきなりボスを撃っちゃうなんて、張り合いがなよ!!」

 マンドラが笑った。

「私の狙撃で足止めしてるのを、無理進ませようとして、せっかく絶好の居場所に隠れたのに、顔出しちゃったから撃っちゃった。

 私は笑みを浮かべた。

「おい、そのキモいの早く閉めろ。みたくもない」

 マーティが誰ともなくいった。

「全く、相変わらず苦手なんだから!!」

 マンドラが箱の蓋を閉じた。

「さて、いきますか。これをみたら値切れないでしょ。町役場にGO!!」

 みんなが荷台に乗り、私は馬車を役所に向けた。


「役所に行くと、ちょうと町長に出会った。

「仕事は終わりです。北西門が狙われていたので、そちらの防御に回りました。これが証拠です」

 町長の前で箱の蓋を開けると。町長は凄まじく嫌な顔をした。

「分かった、分かったから、それはしまうなり捨ててしまってくれ。金貨四枚だったな」

 町長はポケットから財布を出すと、それを私の手の上に乗せた。

「あれ、金貨五枚だったはずですが……」

「全く、朝からとんでもないもの見せられた。その慰謝料だ」

 町長は階段を上っていった。

「ほら、値切ったでしょ。金貨五枚と四枚じゃ全然違うけど、今回は見逃してやろう。その代わり、冒険者ネットワークには報告するけどね。次にこの街になにがあっても、誰もこないだろうね。リーダー代行しちゃった」

 暢気なマンドラの言葉に、私は苦笑した。

「さて、どこに行こうかな。私は地図をみた」

 ここ乱戦をやったあとで、私もつかれていた。

「あの、回復魔法を使いましょうか」

 カレンが心配そうに聞いてきた。

「ありがとう。けど、そういう事じゃないんだな。いけばわかるよ」

 私は笑った。

「そうですか。お役に立てず、申し訳ないです」

 カレンが小さく息を吐いた。

「魔法ってのは、いざって時に取っておくものだよ。無駄に使うもんじゃないよ」

「えっと、地図だとスコーン・ビレッジとパステル・シティがあるけど、どっちがいいかな」

 私は地図を見ながら考えた。

 「両方とも温泉街だ。スコーン・ビレッジの温泉は酸性で、パステルシティ中性だからスコーン・ビレッジで汚れを落として。パステル・シティの湯肌を休めるってのが常だぞ」

 マーティが笑った。

「なに、やたら詳しいね」

「おいおい。俺が昔ここらで冒険者の特訓したの知ってるだろ。ゆっくり休みたかったら、スコーン・ビレッジがいい。パステル・シティは有名だから、ちとゴミゴミしてるかな」

 マーティンが笑みを浮かべた。

「よし、目的地はスコーン・ビレッジにしよう」

 私は地図を見て、街道からの分岐点を間違えないように気をつけ、舗装なしの道をガタガタいくと、小さな村が見えてきた。

「そこだよ。温泉を掘るだけ掘って、出たのはいいが、街道からそれてるから知る人ぞ知る秘湯になっちまったんだよ」

 マーティンが笑った。

 馬車はスコーン・ビレッジに到着すると、まずは一回りして村の様子をみた。

「観光案内所でもあれば……あった」

 まだ工事中という感じだったが、真新しく『観光案内所』という看板が下がった建物があった。

「ねぇ、こんな場所に温泉がって感じでしょ!!」

「いやー、驚いたね。も少しで間欠泉も沸くみたいだし、あたしもまだ死ねないなぁ!!」

「ほら、いくよ」

「まて、首が絞まる!!」

 元気な二人が片方の首に鎖を付け。どこかに引っ張っていった。

「うん、思ったより元気な人ばかりだね。私たちも行こう」

 私は馬車を下りて、お目付役としてマーティンを連れて馬車から降りた。

 案内所の扉を開けると、いかにもまだ慌ててオープンの準備中だと分かった。

「あら、今日はお二組も。いらしゃいませ」

 感じの良さそうなお姉さんが、にこやかに対応してくれた。

「あの、この村の観光名所を教えて頂きたいのですが」

 私はお姉さんに問いかけた。

「はい、ご覧の通り、なにもない村ですが、一時間に一回間欠泉が沸きます。その位しか、名所がなくて……。ああ、村中に植えてある木は桜といいます。今の時期が一番の見頃なので、是非ご覧になってください・

「はい、ありがとうございました」

 私たちは観光案内所を出た。

「ねぇ、間欠泉ってなに?」」

「さっき聞けばよかったな。理屈は知らんが、一時間に一回くらいの割合で、デカい噴水みたいに水が噴き出すんだ。この村ではその位しか名物はないな。

「そっか、そういうのもいいね。混んだ温泉街はあまり得意じゃないんだよ。

「それならちょうどいい。そうだ、以前から気になっていたんだが、お前の剣はダメだ。バランスも悪いし、体格にもあっていない。重すぎてなにも出来ないあろう。新パーティ結成記念に一振りプレゼントしよう。そのうち役に立つ。しかし、腰の後ろのマインゴーシュは素晴らしいの一言だ。お前とは戦いたくないな。剣を折られてしまう」

 私たちは、一件の武器屋に入った。

「よう、オヤジ。久々だな、ここはドワーフの住む村でね。注文が常に絶えないんだ。

「なんだ、はな垂れ。まだ生きてたか。今日はこの子の剣を見繕って欲しい。もうメチャメチャなんだ」

 マーティンがため息を吐いた。

「うむ、確かにメチャメチャだな。これでは、持ち運ぶのも大変じゃろう。しかし、料金はともかく、バックオーダー……。なに、そのマインゴーシュは。お嬢ちゃん、見せてくれ」

「はい、どうぞ」

 私は腰の鞘ごとマインゴーシュを抜き、カウンターに置いた。

「……間違いない。マルシル・コレクションの一つだ。仮にの話だが、譲ってはくれぬか。貴重過ぎて値段なんてつかないのは承知している。そこを曲げてお願いしたい。なんとか……」

「だから、そういう時こそオヤジの腕だろ。この身長なら、ロングソードでもいける。俺たちの目的はそこにあるからな。バックオーダなんてどうでもいいだろ」

「ああ、どうでもいい。今から最優先で掛かろう。お嬢ちゃん、正面をしっかりみせてくれ」

 私は正面で気をつけをした。

「次、右!!」

 私は右を向いた。

「次、左!!」

 私は回れ右をして、左を向けた。

「背中は分かる。問題ない。右バランスだな。これなら、二時間もあれば出来る。これほどの価値はないが、マインゴーシュも同時に作ろう。あれじゃ使いはずだ。実用本位の方がよかろう。さて、打つぞ。久々に燃えてきた。貴族用の儀礼剣ばかりだったもんで、戦える剣は久々じゃ。お前たちは、村を回っているといい」

「お願いします」

 私は頭を下げた。

「うむ、礼をいうのはこっちだわい。羽根のように軽く、オリハルコン並の切れ味か……これは愉快だ。アレを使おう。それでも、釣りがたらんわい」

「始まった、気いった客だとすぐこれだ。俺のこの剣もここで買ったんだ。まだオヤジが無名の頃にな。メンテはしてるが、なにを斬っても折れない。奇跡の剣だぞ」

「そうなんだ。じゃあ、邪魔だろうからいこうか」

「そうだな、こう蒸し暑いと堪らん」

 私たちは武器屋を出て、馬車に戻った。

「随分掛かったね」

「ああ、待たせたな。このポンズの店は、常にバックオーダーを抱えてるからな。この剣だって、ポンズの作だぞ。ガキの頃から使っていてな、生長に合わせて刀身の長さは変えてもらっているが、悪くないぜ」

 馬車に乗った途端、マーティンが笑った。

「くっ、こうなったら、お土産に欲しい。私もいく!!」

「ポンズは大の魔法嫌いだぞ。お前なんかいったら、水でもぶっかけられて、追い出されるぞ」

 マーティンが笑った。

「くっ……。そうだった。あとなんか買ったの?」

「はい、奥の棚からナイフを取りだしてきて、最高傑作の一歩手前のものだって、ナイフをもらいましたよ」

 私は腰のナイフを抜いた。

「ぬわぁ、ポンズ・コレクションの最高傑作がここに。展示会でみたけど、なんだこれって、ビックリしちゃった。ちょうだい!!」

「ダメ、これは信用問題!!」

 私は笑い、馬車を出した。

「いいなぁ、欲しいなぁ……」

 移動中、私はミンティアのいいなぁ攻撃に晒される羽目になった。

 馬車は噂の間欠泉に到着した。

「私は馬車から降り、やっと涙の嵐が止んだ車内からみんなが降りてきた。

「そろそろだと思うんだがな……」

 私はアンクレットの時刻を見ると、ちょうどお昼時の時間だった。

 その時、ごぼっと音が聞こえ、まるで強力な噴水のような水が多量に噴き上げた。

「こ、これは凄い!!」

「まあ、これしかないような村だ。俺は慣れているが、始めてだと驚くよな」

 マーティンが笑った。

「うん、ビックリした。名物にもなるよ」

 私は笑った。

 まあ、確かに広い畑を耕したり、子供が走り回ったり。のどかな光景が広がっていた。

「俺はこの近所の村で生まれたんだが、色々あってここで育った。生粋じゃないがここは俺の故郷みたいなもんだ。さて、時間がない。ささと温泉に浸かって出よう。その頃には、マールディアの剣も出来が上がってるさ」

 私はマーティンの案内で、公衆浴場に向かった。


 たまに混浴もあるが公衆浴場は、ここはちゃんと男女別だった。

 マーティンだけ男風呂に向かい、私たちは女風呂に向かった。

 中は清潔に保たれ、とても雰囲気がいい場所だった。

「さて、脱ぐか。着替えなんて持ってないし、結局臭くなるんだけど」

 ミンティアの言葉に、私たちは笑った。

「それにしても、これだけ立派で誰もいないというのも寂しいものだ」

 エルザが苦笑した。

「誰かいるかもよ。カゴが使われてるし」

 私たちの他にもお客がいたようで、鼻が痛いだのここなら安心だもーんという声が聞こえ、どこかで見た二人組が服をきた。二人組が出ていった。

「すれ違ったみたいだね。まあ、いいや。お風呂に入る」

 私たちは数日ぶりのお風呂で洗い場で体と頭を洗い、スッキリして湯船に浸かった。

「ちょっと熱めか。好みだ、問題ない」

 エルザが笑った。

「熱つ!!」

 熱いのがあまり得意ではないアリサが、足をチョンと入れて引き抜いた。

「なんだ、入れんのか。こうしてやろう」

 エルザがアリサの手を取って湯船に引き込んだ。

「だから、熱いって!!」

 アリサがジタバタしたが、エルザは関係なく湯を楽しんでいた。

「ん、どうした」

 オーエルとカレンが、湯船に浸かろうか悩んでる様子だった。

「オーエル、カレンどうしたの?」

「はい、湯船という者が始めてなんです。私たちエルフは独特の体臭があるので、基本的にシャワーだけなんです」

「ここは大衆浴場です。皆に迷惑をかけてしまわないか心配だったのです」

 オーエルとカレンが、困ったようにいった。

「気にしないで入りなよ。せっかくのお風呂が持ったないぞ」

 私は笑みを浮かべた。

「では、遠慮なく……熱いですね」

「はい、熱いです」

 恐る恐るという感じで私のところにやってきた二人は、フーッと大きな息を吐いた。

「これが湯船なんですね。気持ちいいです」

 温泉はいわゆる露天風呂だけで、あまり長時間いられないのが残念だった。

「さて、上がろうか。諸般の事情で、シバハまで戻らないといけないんです」

「なに、そうだったのか。それでは急ぐとしよう」

 エルザが湯船から立ち上がった。

「ここからシバハまではまだ遠い。温泉を堪能するのは今度にしよう」

 脇でゆだる寸前のアリサを抱え、エルザは湯船から出た。

「はい、すいません。先にお話ししておくべき話でした」

「謝る必要はない。さて、急ごうか」

 こうして、私たちの慌ただしい温泉は終わった。


 公衆浴場から出ると、村はちょっとした騒ぎになっていた。

 私たちが駐めた馬車の近くに、黒翼のドラゴンが墜ちていて、放り出された鎧姿の女性が倒れていたのだ。

「カレン、回復魔法。私とマーティンは新装備を取りに行かないと」

「ああ、もう二時間経っただろう。急ごうか」

 馬車など着かなくても、ポンズの武器屋はすぐそこにあった。

「よし、来たな」

 扉を開けると、ポンズが頷いた。

「なにせ、滅多に使わない素材なんで、苦労したわい。まあ、それでも釣りを払ったらこの店を閉じても足りんがな。ついでに防具も作っておいたぞ。専門じゃないが、そこらのへっぽこ武器屋よりマシだろうて。

 ポンズはカウンターにワンピースを取り出して見せた。

「更衣室はあそこだ。普段は物置に使っているので、多少汚いのは許してくれ」

 急いではいたが、これは省略出来ないので、私は服をインナーを除いて全部脱いだ。

 それから新しい装備を着ると、どっかの妖精みたいな格好になった。

「どうだ、手間が掛かったぞ。動く度に出る燐光はあらゆる魔法を弾く効果があり、強度はアダマントなど比じゃないぞ。最強の装備だな。

 わたしはそっと更衣室を出ると、今まできていた鎧を片手に持った。

「前のなど不要だろう。そのままにしておけ、ワシが処分しておく。そして、本命の剣だが……」

 カウンターに置かれたのは、防具と同じ材質だとすぐに分かった、軽い剣だった。

「ちょっと振ってみてくれ」

 私は頷き、剣を振った。

 微かな風切り音と共に、剣が嘘のように軽く振れた。

「通常はエルダコリウムになにかを混ぜるのだが、今回は混ぜ物なしだ。通常価格は聞くなよ。俺だって断っちまう程だな」

「すっごいな、なんかこの剣に防具……。目立つけど気に入ったよ。ありがとう」

「うむ。その言葉が欲しかった。他に用事はあるか?」

「そういえば、友人がナイフを欲しがっていました。お代は払いますので、分かりやすく十本で」

「うむ、いいだろう。とても払い切れん貴重なものを手に入れたからな。オススメはそこから二段目だ。魔法に興味がねぇ俺が、珍しく感慨を受けて試しに打ってみたものだ。試しといっても、実戦向きの犬姉コレクションと呼ぶほどの出来には仕上げてある。どこまでも食らいついて離せねぇ。素人には危険だが、特別にその下のビシバシコレクション も付けよう。これで心臓を貫くとどうなるか……心臓をビシバシ殴る魔法剣だ。面白ぇって俺も真似したら、一撃で心臓を貫く凶器になりやがった。普通の客には危なくて売れねぇが、お嬢ちゃんは特別だ。他に用事がなかったら急げ。顔に書いてあるぞ」

 そうだったと思い出し、私はお礼をいうと、ナイフが大量に詰まった箱をオーウェルに任せ、馬車のそばに急いだ。

 私の姿を見ると、アリサだけが笑った。

「ちょっとなにそれ、ファンタジーにハマり過ぎ!!」

「うるさい。それより、ドラゴンはどうなったの?」

「うん、カレンが頑張って治したよ。乗っていた人は重症だったけど、なんとかなったって」

「そうか、恩に着る」

 エルザは小さな笑みをけた。

 地面に座り、肩で息をしているカレンに、鎧姿の女性が声を掛けていた。

「これは、エジンバラ王国のマークだな。仲がよく悪くもなくといった関係だが、なにか事情がありそうだ。馬車で聞こう。急ぐ旅だ」

 エルザは鎧姿の女性に声を掛け、女性は頷いた。

 埃を舞い上げながら飛び立ったドラゴンは、さすがに積めるほどの馬車が出来るわけがなく、空から私たちの旅に同行する事になった。

「大変失礼した。私はダイア・エドモントンという者だ。救助頂き感謝する。

 走る馬車の中のため、揺れて吹っ飛ばないようにした。

 私たちはそれぞれに名乗り、事情を聞き始めた。

「ホントはリーダーがやるんだけど、代行。なんでまたこんな遠くに。聞いた話だけど、大洋をを跨いで反対側じゃん」

 アリサが不思議そうに聞いた。

「軍部が反目して父王を処刑してしまったのだ。私は王位継承件第一位にあるので、最後まで戦うつもりでいたのだが、多勢に無勢でいかんともしがたくてな、無理を承知で相棒のドラゴンで大洋を跨いできたのだ。この国の国王様と事情を説明せねばなるまい。急ぎ王都に向かいたいのだが、あくまでも転がり込んだ身。そちらの予定を優先したい。失礼ながら、どこへ向かったいるのだ? 」

「シバハです。王都の隣町なのですぐですよ」

「なに、それは運がよかった。無駄足を踏ませては申し訳ないと思っていたのだ」

「クーデターか、私も噂程度には聞いていいたが、今のボンクラ国王はやめた方がいいよ。裏でお金をもらって、強制送還されなかねない」

 エルザが面白くもなさそうにいった。

「そうか……困ったな。ここは周辺六国で、せめぎ合いが続いていると聞いている。他国ではダメか?」

「ここかファン王国……ファン王国だな。そこが一番まともだと思うよ。一歩、間違ったら回復どころか、消され兼ねなかったから。まあ、うちのリーダーだったらそんな事させないし、他種族や異国人に偏見もない変わり者でね。落ち着くまでは、このパーティーにいることをオススメするよ。なぁ、リーダー」

 エルザが笑った。

「そうか、そういう事情ならしばらく厄介になろう。皆、名をなんという?」

 私たちは、名前と冒険者である事を告げた。

「このままシバハにいったら話題になるぞ。黒の竜騎士なんて連れてるパーティーはいないだろうから」

「なに、それについては問題ない。……戻れ」

 上空のドラゴンが消え、ダイアの始めての笑顔が出た。

「もう仲間だよ。遠慮はいらないから」

 馬なりに走っていた御者台に戻り、私は速度を上げた。

「もう暗くなってきた。ヤバいな……」

 私はアンクレットの時計をみた。

 現地時刻十八時ちょっと。日本時間十八時半ちょっと。

 アクシデントがあったため、予定が大分ずれてしまったが、放っておくわけにはいかないだろう。

「みんな、ゴメン。急ぎだから、今日は徹夜走行ね。シュラフは広げられるはずだけど……」

「それは大丈夫。でも、ダイアをここに寝かせるのは……」

 珍しくアリサが口ごもった。

「なにをいう、もう仲間なのだろう。気にしなくていい」

「揺れますよ?」

 私が覗いていたビノクラーに、丁寧にバリケードを作ってまで待ち構えている強盗だか盗賊だかかがいた。

「いつもは遊んであげるけど、今は急ぎ!!」

 私は呪文を唱え、巨大な光りの矢を放った。

「イテテ……これを使うと体が痛いんだよね」

 光りの矢がバリケードごと、盗賊だが強盗だかを吹き飛ばした。

「ちゃんと教わる暇がないんだよね。痛いのはマズいって分かってるんだけど」

「……町についたら馬を替えよう。大分お年だし。可哀想だからね」

 私は苦笑した。


 現在時刻三時半、東京時間ほぼ同じ。

 私たちは、なんとかシバハに到着し、まずは馬を買い換える事にした・

 これもエルザの見立てで、ちゃんとした馬屋をみつけ、馬車から馬を外した・

「お疲れ様、よく走ったね」

 私は四等の馬を労った。

「こりゃ十分使いこなした馬だよ。あと一回旅に出られるかだった」

 馬屋のオジサンが、奥の厩舎から、まだ若い六頭の馬を連れてきた。

「それだけデカい馬車だと、六頭立てくらいじゃねぇとパワーが足りねぇ。一応馬車の点検をしておくぜ」

 六頭立ての馬車となると、乗合馬車の夜行急行便くらいの速力が出るが。その分揺れが凄くなり、扱い方も難しくなる。

 しかし、馬屋のいう事も事実で、山道などで難渋していたのも確かだった。

「おっと、後輪がダメだ。交換するから待ってろ」

 馬屋はジャッキを取り出し、後輪の修理を始めた。

 しばらくして修理が終わり、私は金貨一枚手渡した。

「多すぎるな。銀貨三十枚で十分だ」

 私は金貨を財布に戻し、銀貨三十枚を手渡した。

「金貨はむやみに見せるもんじゃねぇぞ。狙われるからな。またなにかあったら、すぐに店にこい」

 店のおじさんに礼をして、私は馬が新しくなった事で、操縦が少し難しくなった馬車で宿に向かった。

 現在時刻三時半、日本三時間時半ちょっと。

 三連休を異世界で過ごした私たちは、いつも使っている宿に入った。

「ここは狭いから、宿は適当に選んでね」

 私たちは、一時別れて宿探しに行った。

「急がないとヤバいよ。もう三時過ぎてるハズだから」

「うげっ、また寝不足だよ……」

 最近、週末だけ私の部屋で寝るになったアリサが、慌てて寝る準備を始めた。

 ベッドが狭いので、アリサは床にシュラフである。

「さて、起きられるか……」

「起きてくれなきゃ困る!!」

 それだけ言い残して、アリサは寝息を立てはじめた。

「すぐ寝られていいね。半分欲しいよ」

 私は掛け布団を被り、そのまま目を閉じたのだった。               

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