休日だけお邪魔します!!(没)

NEO

序章

第1話 始まり

 ある朝の日差しの中、私は大きく伸びをしながら、街道をゆっくり走る依頼人の馬車を 護衛する仕事に就いていた。

 今回の仕事内容はポリマという小さな村から、街道筋を馬車でゆっくり走って色々なものを売る行商人の依頼。隣町のアライドという、ちょっとした鉱山が近くにある場所だった。

「嬢ちゃん、もう二日目だ。いい加減疲れないか?」

 馬車を操る、人のいいオジサンが笑った。

「足腰鍛えてるから平気。今日もやるかな、性能試験」

 私は呪文を唱え、街道脇の草原に向かって、氷の攻撃魔法……と見せかけて風……とさらに誤認させて、大地に裂け目を作った。

「うん、いいね。あとは……」

 私は腰のロングソードを抜き、腰の後ろに挿しているマインゴーシュを手にした。

 マインゴーシュとは防御専門の短剣で、串状にいくつも切り込みが入っている。

 この隙間に相手の剣を差しこみ、たたき折る事ができるが。これが難しくて、私は何回もやられて怪我をしていた。

「まあ、こっちは変にガタはないし、問題ないでしょ」

 私は剣を鞘に戻し、今度は拳銃を抜いて残弾を確認した。

「十七発あればいいね。さてと」

 私は拳銃をホルスターに戻し、ノンビリのどかな街道の旅を楽しんだ。


 途中でトルポギという名の村に差し掛かり、日も落ちそうなので今日はここで宿を取る事になった。

 この世界で夜道を歩くのは自殺行為。よほどの緊急時でなければ、行動は明るいうちと相場は決まっていた。

 オジサンとその手下……嫌な言い方だな。まあ、他のいい方を知らないのでそう呼ぶが、宿のついでに商売でもするつもりらしく、簡易的なテントを張って商品を並べ、ついでに酒類を一杯引っかけるための一角まで作られた。

「商売熱心だなぁ。見習わなきゃ」

 私は苦笑して、いつもの通り宿の手配をした。

「オジサンたちは忙しいし、部屋で待ってるかな」

 私以外は男なので、そこは配慮してもらって一人部屋だった。

「さて、これで明日には帰らなきゃね。やっぱり、こっちはいいな」

 私は笑みを浮かべた。


 目覚まし時計の音で起きると、見慣れた私の部屋だった。

 ベッドとテレビしかないような寂しい部屋ではあったが、まあ、こんなもんでいいだろうとも思っている。

 私は岸田涼子。まだ社会に出たばかりの、ペーペーもいいところだった。

「はぁ、『こっち』を知っちゃうと、あっちは退屈でもう……」

 私は紫の宝石のようなものが付いたネックレスを、鎖を摘まんでみて笑った。

 これを手に入れたのは、半年くらい前の事か。

 社会人の洗礼を浴びて、もう怠くてなにか気分転換がしたいなぁと思って帰宅すると、ドアポストに宅配便の不在通知が入っていた。

 時計をみると当日配達の受付ギリギリの時間だった。

 急いでスマホでドライバーに直接連絡を取り、三十分くらいで届いた謎の小箱を開けると、このネックレスが入っていた。

 心当たりはないし、差出人不明だし見るからに高価そうだったので、私は近所の交番にでも届けようかと、開きっぱなしだったネックレスの箱を閉めようとして、ネックレスに触れた瞬間、私の周りは真っ白な光に包まれ。同じ白色の座り心地が良さそうなソファにテーブルが置いてあるのが見えた。

「な、なにここ。何かの拍子に寝ちゃって夢の中?」

 私は当たりを見回し、とりあえずソファに腰を下ろした。

「まぁ、夢の中というのは、あながち間違いではないな」

 白い壁が開き、大きなペンギンのような人? がやってきて、テーブルを挟んだソファに座った。

「私はペンタウルという者。ここは、次元の狭間だ。いっておくが、嘘ではないしお前さんがどうかした分けではない。現実だからな、いきなり信じるのは難しいかも知れないが、ペンダントに触れてここの扉を潜った。これだけで信じてもらうのは難しいだろう。今、本来の世界にいるそなたの様子をみせよう」

 ペンタウルと名乗った巨大ペンギンがなにか呟くと、真っ白い空間にシャボン玉のような球体が現れ、まだ帰ったばかりで、スーツのままの私が眠っていた。

「これで分かったかな。ここがどういう場所か」

 ペンタウルの言葉に、私は頷いた。

「まあ、完全な理解には至らないとは思うが、特殊な環境にある事だけは理解出来ただろう。なぜこんな事をしたか。それは、この世界の安定度が極めて悪いからだ。この次元の狭間から弾き飛ばされてしまったら、最悪ここすら消滅してしまい、全ては無に帰してしまう可能性すらあるのだ」

 ペンタウルが次々と球体を浮かべ、なにかのどかそうな景色が次々に浮かんでみえた。

「問題はこの世界なのだ。この世界になにかが起きてしまってるのだよ。私は直接干渉する権限がないので、こうして無理矢理ではあるが特例として、そなたの世界に少しだけ干渉して、そのペンダントを贈らしてもらったのだ。肌身離さずつけておいて欲しい」

 私は頷いて、そのペンダントを握った。

「ここまではいいかな?」

「はい、大体は分かった気がします。つまり、私をこの平和そうな世界に移住させて、どうにかさせたいということですか?」

「いや、違う。そこまでは虫がよすぎではあるし、そちらの世界に多大な影響を与えてしまって、大変な事になる。仕事が休みとか暇な時にだけきてもらえるだけでいい。そなたが不在の時は、こちらの世界の時間を止めておく。そうでないと、問題が起こるからな」

「それなら構いません。あの画像の通り、寝てしまうのであれば、それでも不自然ではない場所で、ペンダントの石に触れればいいのですね」

「おお、ありがたい。そのペンダントの石は触れてしまっただけでは反応しないように、こちらの世界に行くと念じながら触らないと、なにも起きない。反対は戻るだな」

 ペンタウルが頷いた。

「分かりました。なぜ私なのですか。取り柄もないですし……」

 私は最大の疑問をペンタウルに問いかけた。

「そうじゃな……。嘘くさくなるかも試練が、全ての世界は世界樹で繋がっている。世界樹は無駄な事はしない。そのペンダントをそなたに贈るよう命じられたのだ。きっと、なにかの意味があると思う。それだけしかいえぬな。巻き込んでしまって住まんが、よろしく頼む。特に義務はないので、まずは好きに動いて欲しい。全ては世界樹がみている。安心するがいい」

 ペンタウルは頷いた。

「週末か……暇だしちょうどいいかな」

 私は苦笑した。

「では、まずは元の世界に戻り、ちゃんと休むといい。細かい事は、また次にしよう。助かったぞ」

 ペンタウルが私を羽根でそっと指した。

「ペンダントの石に触れ。戻れと強く思ってくれ。それで、そなたの日常に戻れる。反対はこれから作業をするので、やってもここにくるだけじゃ。準備が出来たら、そのペンダントの石が淡く光るので、まずはここを念じてくれ。あの白い空間でもなんでもいい。説明する事があるからな。では、しばし驚かせてしまった事を詫びよう。また待っているぞ」

「はい、分かりました」

 私はペンダントの石に触れ、戻れと思った。

 瞬間、私の意識は闇に消えた。


「いたた……」

 目を開けると、私は床に転がり、帰ってきたままのスーツを着ていた。

「……夢じゃないよね」

 私はペンダントにそっと触れ、そこにある事を確認した。

「変な夢でも見ていたような、そうでもないような……さて、明日は仕事だ。早く寝よう」

 私は立ち上がって背を伸ばし、笑みを浮かべたのだった。

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