第67話 第33.5局 師匠編⑫
涙が次から次へとあふれ出る。
今まで、私自身に対する怒りで押しとどめられていた、父さんの死に対する悲しみが一気にこみあげてくる。
いや、この涙は、それだけではない。
私のことをこんなにも慕ってくれている人がいる。自分のことを犠牲にしてまで、私の苦しみを一緒に背負うと言ってくれている人がいる。それが何よりも、何よりも、何よりも、何よりも嬉しかった。
涙が止まったのは、かなりの時間がたった後だった。ただ、私は、しばらくの間、涙が止まっていないふりをし続けた。彼の背中に、もう少しの間、縋り付いていたかったから。
おそらく、彼は、私が既に泣いていないことに気が付いているだろう。でも、彼は、何も言うことなく、ただ、その背中を私に預けてくれていた。
私が彼の背中から顔を上げた時、彼は私の方に向き直り、にこりと微笑んだ。そして、こう言った。
「師匠、将棋、しませんか?」
私は頷く。彼と、いつまでも、いつまでも将棋を指していたかったから。
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